歌姫の姉に向けられる
円を描くように並べられた机にそれぞれが着席する。
状況が分からないであろうイルリカにマルドアは三人の説明をした。
アルル・オルカ
財務省長官
ベネ・ホールト
農設省長官
ラシオン・レジェイド
外務省長官
そんな端的な説明だった。
真っ先に口を開いたのはベネだ。
「今回我らがこちらへ伺ったのはディーナ殿、イルリカ殿についてだ」
「まあ村娘誘拐に関しては王の娯楽の一つ、『覇王』の異名も持っとるんやしたまにはええやろって思っとったわ」
「けど、よくある話、女に骨抜きにされて国傾けないか心配になって帰って来たんだよねぇ。話によるとかなりご執心らしいじゃん?ま、さっき見ても丸分かりだけどさぁ」
アルルは挑発するような笑みを浮かべながら頬杖をつく。
「大体傾国と言えば美女じゃん?どんぐらい凄いのかと思えば・・・がっかりしたよね」
語尾に星がつきそうなアルルを王は鋭く睨む。だが、口を開いたのはイルリカだ。
「あら、貴方に人の顔を馬鹿にする権利があるかしら?女か男かも分からない見た目で。成人しているという事実さえ疑うわ」
冷静で明らかな敵意にアルルは額に青筋を浮かべる。
「へえ・・・そっちが食いついてくるんだ。オレ達あんたに対しても文句言いにきたんだけど。財務省長官のオレにいい度胸だね」
「何?給与を取り上げとでも言う気?職務怠慢ね元詐欺師さん。貴方が職務怠慢なんてすればこの国に貴方を長官として置いとく利益なんてないわ」
詐欺師という言葉にディーナだけがえ!?と反応したが他はイルリカとアルルの攻防を眺めていた。
「へえ・・・そこまで知ってるとはね。混乱した情勢の中でのオレの財務省長官着任だったから知ってる人は知ってるって感じの情報ではあったけど、当時はがきんちょだったあんたが知ってるとはね。まあ知識は多少あるってのは分かったけど・・・なんであんたみたいな村娘が王の側近の候補に選ばれてんの?って不満はあるよね」
イルリカはピクリと反応しアルルを見据える。
「その理由真っ先に何考える?勿論王ご執心の婚約者の姉だからだよねぇって考えるよね」
「外務省長官としてはそこのお嬢さんとの婚約も考え直してもらいたいんやけどね。結婚っていうつながりほど簡単な外交はあらへんしなぁ」
王はまずアルルを真っ直ぐ見て口を開く。
「イルリカの知識は確かにまだ足りん。だが、マルドアの元で学べばその知識を生かせる者だと判断してのことだ。冷静でその場の感情で動くような人物でもない。それに加え女の目線だからこそ見える国の穴も彼女になら見つけてもらえると思った」
今度はラシオンに目を向ける。
「俺はディーナとの婚約を破棄するつもりは毛頭ない。そして、手札が一枚なくなったと騒ぐような男を外交の長に着任させた覚えもない」
「騒ぐつもりはあらへんよ。楽になったっていうだけの話やし。でも、僕らのこともちょっとは考えてくれてもええんちゃう?」
ラシオンのいいようにマルドアが立ち上がって怒鳴る。
「何を言っている!俺たちは陛下の手足だ!俺達に指示を出す脳とも言える陛下に手足が意見するなど「マルドア殿」
ベネの静かな声にマルドアは反射的に口を閉ざす。
「我々は貴方のように何もかもを陛下に差し出し、忠義を尽くすつもりで長官をしている訳ではない。それぞれの考えがあり、己の利益を考慮した上で陛下の手足となっている。そのことは陛下も了承されているはずだ」
ベネの言葉に王が頷く。
「ああ。その通りだ。俺に不満も意見も臆することなく言えるお前達だからこそ俺はそれぞれの長に選んだ。全てが王に忠誠を尽くすだけの国は滅びを辿る」
王の言葉にマルドアが打ちのめされた。
「だが、王の周りが敵だらけではかなわん。その中でも王に心からの忠誠を尽くし支えてくれるものがあってこそでもある」
王の言葉に一喜一憂するマルドアにアルルが言う。
「まあ、そんな忠臣が王を裏切って国を滅ぼすこともよくある話だけどね「アルル貴様!」
威嚇するマルドアにアルルは「君が裏切らなきゃいい話でしょー?」と笑っている。
「ま、正直陛下の恋愛ごとにまで首突っ込む気はあらへん。一番の問題は・・・陛下の婚約者の姉ってだけで側近になろうとしとるあんたや」
指をさしてくるラシオンをイルリカは静かに見返す。
「確かに多少は頭も回るかも知れん。けど、幼い頃から天才、神童と謳われたマルドアさんの元で学んだとしても使いものになるまでにどれくらいかかるんか算段はついとるん?もっとええ人材おるんやないの?」
ただ静かに瞬きを繰り返すイルリカを見てマルドアが口を開く。
「待て!確かに彼女に仕事を任せられたらいいと思っていたが、彼女はまだやるとは言っていない!」
「ほうなん?せやったらあんさんはどう思ってはるか聞かせてもらえます?」
ラシオンに促されイルリカは暫し黙っていたが、真っ直ぐ前を見据える。
「正直私には身に余るお話だと思っていました。私は勉強が好きだっただけのただの村娘、国のためにどれだけ尽力できるかと問われれば大した力にもなれないでしょう」
イルリカの言葉にマルドアは眉を下げ目を伏せた。
「けど、ここまで喧嘩を売られて買わない訳にもまいりません。それで?私は何をすれば貴方方に認めてもらえるのです?」
挑戦的なイルリカにディーナは驚く。喧嘩を売られたところでサラリといつも受け流していたイルリカがまさか受けると思っていなかった。




