氷の覇王のライバル集う
「お兄様。ベルの王子様は何処ですの?」
「彼だよ」
ナルシスが王をしめせば、ベルダはジッと王を見た後ナルシスを見上げる。
「違いますわ!ベルの王子様じゃありません!!」
ん?
ナルシスも含めその場にいる全員の頭に疑問符が浮かぶ。
「ベルダ・・・?」
「あの時城に来た王子様に会えるっていうからベルは来たましたの!!」
頬を膨らませるベルダの様子にナルシスは少し考え込む。
「彼以外なら・・・」
その時ザッと一人が前に出る。
「ったく、しょうがねぇな。可愛い姫さんの心を射止めちまったんじゃ、誠心誠意応えるしかねぇだろ」
とギドが前髪をかきあげながら前に出る。確かに王以外ならギドも当てはまる。
「よう。可愛い姫さん。俺はギドだ。よろしくな」
ギドが手を差し出せば、その手に香水が吹きかけられた。
「誰ですの?この年寄り」
「年!?」
「ベルが可愛いのは当たり前ですし、汚い手を向けないでくださる?」
ギドの額にビキッと青筋が浮かぶ。
「落ち着け!一国の姫君だ!!」
「分かってるっつーの・・・マル坊・・・。いくら何でも餓鬼にキレたりしねぇよ」
「ベルのことですの?年寄りから見たらベルは子供でしょうけど、精神年齢は貴方より大人ですわ」
マルドアは即座にギドを羽交い絞めにして止める。「放せマル坊!!」「気持ちは分かるが落ち着け!」などという声がしている間に王が口を開く。
「あの日いた者で俺でもギドでもないとなると・・・」
「ベル!王子様に会うまで帰りませんからね!!」
と言うものだから王はある者を呼び出した。
「なぁ、何で俺呼ばれたんだ?」
困惑しながら現れたシンを見てベルダは目を輝かせる。
「ベルの王子様!!!」
ベルダは勢いよくシンに抱きつき、一同驚く。
「お前・・・っあの時の・・・」
「はい!あの時はお助けいただいてありがとうございました」
ベルはシンを見上げ、ニコリと笑う。
「シン・・・ベルちゃんを助けたの?」
ディーナの問いにいや・・・ともごもごしながら口を開く。
「助けたっつーか・・・。偶然出会って、驚かれて、転びそうになったところ助けただけなんだけど・・・」
「そうですの!」
ベルはシンから離れ、両手を組み空を見上げる。
「あの日王子様と出会って驚いたベルを王子様はその力強い腕で抱きとめてくれました!そして優しい声をかけてくださって・・・」
自分の世界に入り込んだベルダから続きが聞けないと悟ったギドが本人に問いかける。
「何て言ったんだ?シンたん」
「シンたんやめろ。おっさん。『大丈夫か?』って言っただけだったような・・・」
考え込むシンにベルはそれだけではありませんわ!とシンに詰め寄る。
「あの時王子様はベルの頭を撫でて・・・」
【大丈夫か?綺麗な服が汚れちゃ大変だ。まあ、お前が可愛いから問題ないかも知んねえけどな】
「って言ってくださったんです!!」
「よくそんな歯の浮くようなセリフ・・・」
「村の妹分達に言うようにしちまったんだよ!!」
ドン引きの様子のマルドアにシンが真っ赤な顔で怒鳴る。
「シンたん・・・。俺よりタラシの才能あんじゃね?「うるせぇ」
「ギド。お前に人をタラせる要素があったか?」
「ラディ・・・お前の真顔はキツイわぁ・・・」
落ち込むギドなど目に入らない様子でベルダは続ける。
「私はあなたのお嫁さんになるためだけにこの国に来たのです。もう城には帰りませんわ」
ベルダはシンの腕に自分の腕を絡め、微笑む。
「よろしくお願いいたしますわ。旦那様」
シンの顔が引きつっていたのを皆見逃さなかった。
「何だあの男はぁ!!!」
ナルシスが帰った後、マルドアが荒れていた。恐らくナルシスの捨て台詞が効いている。
【belle(美しい)な僕がいなくなって辛いだろうが安心していいよ。また来るから。それから僕のリトルマーメイド。僕は正式に君に結婚を申し込むよ。それじゃ】
「だからディーナは陛下の婚約者だと!!!」
「落ち着けよマル坊。ストレス溜まってんのは分かっけど」
「大体奴は謝罪しに来たんじゃないのか!!何故わざわざ怒りを煽って帰る!!」
ギドがなだめようとするが一向に効果がない。
「あれは性格なんじゃね・・・?」
恐らくそうだろう。あのうざさは計算ではなく天然だ。
「落ち着けマルドア」
「しかし陛下!!」
王は静かにディーナに視線を向ける。
「ディーナは選択権はお前にある。お前は、どうしたい?」
「私は勿論陛下のお傍にいます。あの方は・・・変わられました。そして変わる原因になった私のことを特別視してくださっているんだと思います。私以外の出会いがあればきっと変わってくださると思うのですが・・・」
シンは仏頂面を貫いていた。ディーナが傍にいると即答した時の王の少しだけ変わった安堵の顔に正直腹が立っているのだ。
答えが分かってる癖に聞くんじゃねーよ!
あんただって同じ問い投げられたら即答するクセにと心の中で毒づく。
「兄様は本当にあなたを思ってますわよ」
ベルダが口を開き視線が集まる。
「貴方がいなくなった後の兄様は本当に炎が消えたようでした。少女達の美しい楽器や踊りには目を向けなくなり、珍しく仕事をされては上の空。そして、気付けば誰かを探す素振り。何かを理解するのと同時に落胆する様は自信に満ち溢れる兄様の珍しい光景でしたわ」
ベルダの言葉でナルシスが本気なのだと悟る。
「なら・・・次にお会いした時正式にお返事をします」
「ま、それがいいだろうな」
ギドは両手を組んで後頭部にまわした後、で?と続ける。
「その姫さんはどうすんだ?」
「勿論旦那様のお家でお世話になりますわ」
「勝手に旦那にすんじゃねえよ!!第一うちは小せぇし、臭ぇし、虫も出るんだぜ!?」
シンは怒鳴りながらベルダが諦めるように悪条件を主張する。
「旦那様と共に過ごせるなら障害にもなりませんわ!」
「だから旦那じゃねぇし!!」
ギドは二人の会話に声を上げて笑う。
「笑ってんじゃねえよ!!」
シンが怒鳴ればギドは笑いながらすまんすまんと答える。
「反省の色ねえじゃねえか!!」
「ちゃんと悪いと思ってるって。ま、そこまで言うなら実際に住ませてみたらどうだ?」
「ハア!?」
ギドはそっとシンに耳打ちする。
「王宮で大事に大事ーに育てられた姫さんだぜ?村の大変な生活に耐えられる訳ねえだろ?」
「た、確かに・・・」
「つーことで、一件落着。シンたんは姫さん連れて村戻りなー。何ならまた明日城来てもいーし」
「貴様が勝手に決めるな!!」
マルドアがくわっと怒鳴った後この後の予定が正式に決まった。
とりあえずシンとベルダはガイアに戻り、明日はひとまず書面で連絡を寄越すこと。とりあえず三日はベルダが望む限り居させること。
「三日も!?」
「勿論ベルダ姫が帰城を望めばその時点で終了で構わない。交流の一環としてよろしく頼む」
ベルダはシンと腕を組みニコリと笑う。
「帰りましょう。旦那様」
シンは可愛い笑みに少しドキッとしつつ馬車に揺られながら村へと帰った。
「・・・俺シンたんがあっさり落ちる方に一票」
「俺もそんな気がする」
うんうんと頷くギドとマルドアの言葉に王が口を開いた。
「あの男はそう簡単ではないだろう。もしそうなったとしても、悩みぬいた結果だ。俺としては嬉しいがな」
ギドはふと男泣きをしていたシンを思い出した。確かにそう簡単ではないかも知れない。
「私もシンに恋人ができるなら嬉しいです!!ベルダさんとても可愛いらしいですし、妹が出来たみたいで!」
何の悪意もなく満面の笑みで言うディーナを三人は信じられないという表情で見つめた。
「え・・・ど、どうしたんですか?」
そして三人は同時にハッとする。
そうか・・・今ようやく気付いたが・・・ディーナはシンの思いに気付いてなかったのか!!!
本当に毛ほども気付いていなかったのが今の台詞でよく分かった。
シンには心から同情を禁じえない三人だった。