5 魔法少女と団結
「「変態だ~~っ!!!」」
依智心とタカアキが声をそろえて慄くのも、目の前に迫るADBに対する恐怖とでも都合よく勘違いしたのか、自称『ピタヤ仮面』が隣の屋根から両手を広げて、カモンカモンする。
「さあ、私の胸に飛び込んできたまえ、魔法少女ベリィベリーよ!」
絶対ヤダ! と答える前に巨大カンガルー型ADBが、素早くワンツーパンチを放った。
「ぎょええええええええええええええーーーっ!?」
タカアキともどもバラバラになった建物の屋上から吹き飛ばされる依智心。
放物線を描いて吹き飛んだ小さな体が、運良く……? あるいは運悪く、隣の建物の屋根で待機していたピタヤ仮面の広げた胸の中目掛けて吸い込まるようなコースを描く。
依智心の全身に鳥肌が立つのと同時に、カンガルー型ADBの追撃が(なにしろ『ワンツーパンチ』なので)、ついでとばかり空中の依智心たち目掛けて放たれ、
「――いかん!」
咄嗟に背中のマントを外して空中に躍り出たピタヤ仮面が、闘牛士そのものの動きで、カンガルーパンチをいなしたお陰で、直撃こそ避けられたものの、パンチの衝撃で依智心とピタヤ仮面とタカアキとが、もんどりうって一塊になって吹き飛ばされた。
「ぐはっ――ぐええええええええええええええええええっ!」
先に地面に叩きつけられたピタヤ仮面……の上に、体勢も息も整える間を置かずに依智心(とタカアキ)が、尻からダイレクトアタックをかける。
B29から投下される原爆とキノコ雲。
在庫一掃セールで砂漠に打ち込まれまくるミサイル。
地表に落下するスペースコロニー。
宇宙からの侵略者による遊星爆弾。
といったイメージが、下敷きにされたピタヤ仮面の脳裏に浮かんだ。
「おーい、生きとるかー?」
タカアキの問いかけに、依智心のお尻の下からピタヤ仮面の案外元気そうな返事がある。
「ふっ――なかなかいい安産型のヒップだな、魔法少女ベリィベリー」
「わひゃあああああああああっ!!」
二の腕に浮かんだサブイボとともに、慌てて変態の上から飛び退く依智心。
それから周囲を見回してみれば、いつの間にか商店街の路地裏まで揃って吹き飛ばされていたようで、ADBからは死角になった場所にいるようだった
そのせいでカンガルー型ADBは依智心を見失ったのか、勝利を確信したポーズで両手を挙げてスキップしている。
「……浮かれているいまが、こっそり逃げられるチャンスだね?」と、依智心。
「……浮かれているいまが、不意打ち、闇討ちで斃すチャンスやで!」と、タカアキ。
気が合っているようで、微妙に齟齬のあるコンビであった。
「ふむ、斃す方法があるのだね、マイ・スィートエンジェル? あと、ついでにおまけ」
仮面越しに慈しみを込めた、愛しい眼差しを依智心に向けるピタヤ仮面。そのついでにタカアキを軽く一瞥する。
「……いや、マイ・スィートエンジェルって誰の事?」
「無論、君のことだよ、魔法少女ベリィベリー。嫁入り前の女性のヒップに顔を埋めるという、事故とはいえ男女の一線を越えた以上、責任を持って娶るつもりだよ、セニョリータ!」
立ち上がったピタヤ仮面が、キラリと白い歯を光らせて臆面もなく言い放つ。
「…………」
依智心の背筋に猛烈な悪寒が走った。
「……てゆーか、ピタヤ仮面タカアキのこと認識できるみたいだけど、なんなの? 関係者?」
声を潜めて依智心がタカアキに確認する。
「いやぁ、この気配は地元の霊能者とか特殊能力者とか、そういう関係の第三者やろなぁ」
へー、そーいうのもいるんだ。と、思わず珍獣を見る目で凝視する依智心を前に、ピタヤ仮面は何か勘違いをして、「わはははははははははっ!」と胸をのけぞらせる。
やっぱり変態にしか見えないなぁ……と改めて思う依智心であった。
「ま、それはともかく大型ADBを斃す方法なんやけどな」
何事もなかったかのように自分のスマホを取り出して、ポチポチするタカアキを前にして、逃げ遅れたことを密かに歯噛みする依智心。
「現状のポイントでできるのは、これやね。すべての魔力を一点に込めた、スキル『マジック・スパーク』50P。そして、狙撃用のAR-15……じゃなかった、魔法銃『マジカル・ショット』が100Pってとこや」
「どこぞの殺し屋が使うM16じゃないのか?」
「ポイントが足りないので、ディグレード版しか買えんのや」
「???」
怪訝そうなピタヤ仮面の問いかけに律儀に答えるタカアキと、てっぽーのことは何もわからない依智心であった。
「ともかく、イチゴたんが全身全霊を込めての一発勝負で、角を狙うしかないわな」
「なるほど、心得た。ならば私はADBの気を引いてチャンスを作ろう。マイ・スィートエンジェル。勝利の暁にはバラの花束を贈ろう」
そう言ってどこからともなく取り出したサーベルを手に、ADBに向かっていくピタヤ仮面。
こうして、依智心当人の希望を置き去りにして、勝手に段取りが決められたのだった。




