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ペナルティ

この度、ベアドは生家アントシアへ強制送還される運びとなった。


別に養子の解消とかではない。

ほんの1週間前後の追放処分だ。


もともと実家には頻繁に帰ってたらしく、すごく特別なことでもないらしい。

一人息子だし、あっちの跡取りでもあるからな。

行ったり来たりを当分続けていくんだろう。



ベアドの追放理由は2つ


1つ目は、俺にエロ本を見せ、ベッドに上がり込みイチャコラしておっ立てていたペナルティ。

2つ目は、俺を誘惑し「もう一回イチャコラしたい」と言わせたペナルティ。


特に2つ目がおっさんの逆鱗に触れた。

ベアドのせいではないと思うんだがね。


今のおっさんに理屈は通じない。




家族会議後の晩飯の後、俺は2人に発情時の状況を再現した、検証実験の提案をした。


「あの時は本当に食ってもいいかなって思ったんだよ。お兄さんとマンティコの実を」


原因が気になる。

ロイルはわかるが、ベアドは解せない。

ルジンカちゃんのロイルへの恋心の強烈さは俺が一番よく分かってる。

ベアドに発情する余地があったとは思えない。


「それに、あの感覚がちょっと気になるんだよな」


ロイルにシズンティカもらった時と一緒だった。

意識が途切れるとかはない。

ずっと自分のままだ。

でも、我に返ったとき、いつもの自分じゃなかったことに気づく。

少しずつ軌道が外れて行く感覚だ。

その瞬間はあんまり認識できないというか、重要視できない。



俺の提案に、おっさんは猛反対した。

愛娘が男にひっつく姿なんて、2度も見たくないらしい。


意外なことにベアドも反対した。

こいつだって気になってるはずなんだけどな。


「単純に欲求不満だったんだろ。猥褻本ばかり読んでるからだ。なんでもかんでも記憶のせいにするな」


だと。

ちょっとキレてたな。


頼んでもいないエロ本持って来たのお前だけどな。


しかも、今回は本当にただのエロ本だった。

タワワーナや吊るされ男みたいに、資料という逃げ道など微塵みじんもない。

堂々と部屋から持ってきたからね。

お父さんがいるのに。



結局、ロイルに振られたショックの余波だろうということにされた。

確かに、学校でも家でも泣いて、俺の情緒はメチャクチャだからな。

エラーくらい起きてもおかしくない。

釈然とはしないが。



「でも、ロイルの時もそうだったけどさ、あんなにすんなり食いたいと思えるとはな。自分でもビックリだよ。いずれ食ってみたいとは思ってたけど、抵抗もめっちゃあったからな」


俺、男だし。

童貞だし。

素面しらふだと恐怖感とか嫌悪感が強くてね。


でも、発情中はそういうのなかった。

普通に、食いたいと思ったんだ。


「発情ブーストを使えば、俺のロストバージンは案外すんなりいくのかもしれん。やっぱり、食いたいと思えたときに食うべきだろ。マンティコの実に限らず」


もちろん、今すぐというわけではないんだが。



そう思えたのは、きっとロイルとベアドとの親密度の差だろう。


ロイルとの密着はドキドキキュンキュンの嵐で、心臓がヤバかったが。

ベアドとは懐かしさとか安心感が強かったからな。

年季が入ってたからかもな。


おぼろげな記憶しかないが、抱きつくのは好きだったのは本当な気がする。

怪談をねだっていたというのが本当なら、口実だと思うね。




2人は俺の説明を黙って聞いていた。


やがて死人のような顔をしたおっさんが机の下から猟銃を持ち出し、顔面蒼白のベアドが両手を上げる。



「ルジンカちゃんは食後のデザートでも食べてきなよ・・」


銃を構えたまま、おっさんが虚ろな声で言う。


「もう食いましたが、、」


「もう一回食べてきなよ。食べたいんでしょ・・?」


そのまま俺は部屋を追い出された。





この直後にベアドの追放処分が決定したらしい。




2人が気になりつつ、風呂でも入るかと思っていたとき、俺は再度おっさんの執務室に呼ばれた。


中へ入るとよそ行きの恰好をしたベアドがいて、追放処分の決定と出発を同時に知らされた次第だ。



「今日の今日でもう出発なのか?こんな時間に帰ったら家出だと思われるんじゃないの」


「先に使いを出して知らせてあるから平気だ」


帰省なら明日の学校帰りとかでいいと思うけどね。

今日なんてもう寝るだけだろ。

おっさんの怒りの激しさが伝わってくるスピーディーな執行だ。


ベアドの様子はいつも通りで、動揺している様子も、ペナルティに落ち込んでいる様子もない。


「来週半ばか、遅くても週末には帰る。学校には普通に通うから何かあったら遠慮なく教室に来い。これが午後の移動教室の場所だ」


そう言って、曜日ごとの移動先を記した紙を手渡してきた。


受け取ろうと手を伸ばした瞬間、ベアドが手を引っ込め、紙を近くのテーブルに置く。

俺の手と接触しないように。


「思春期かよ!」


思わずつっこむ。


「思春期だ」


仏頂面で答えた。


「鉢の予知に変化があったらすぐに知らせてくれ。そのときは一度帰る。とりあえず、現状は大きく動くな。大人しく情緒の安定に努めるんだ。ただし、授業中に猥褻本は読むな。というか、学校に持っていくな。あと余裕があれば、勉強もちゃんとしろ」


「俺の宿題はどうするんだ?」


これまでほぼベアドまかせだった。

宿題くらいちゃんとやらないと、成績がヤバいからな。


「自分でやれと言いたいところだが無理だろう・・放課後に自習室でみてやる。いつも通り教室に迎えにいくから待っていろ」


「わかった。わるいな」


「いや・・あと、一応さっきの返事もしておく。・・いいですか?」


微妙な顔のベアドがおっさんに了解をとる。


「もちろん。ぜひ言っておきなさい!」


と、おっさん。


「は?さっきの返事って?」


「マンティコの実を食べたいかと聞いたろ。僕はお前とマンティコの実は食べたくない。ああいう質問はもうするな。ちゃんとロイル様と食べるんだ。結婚後にな」


淡々と述べる。


「ロイル様とは、は余計だよ!!ルジンカちゃんは誰とも食べない!!」


おっさんがキレる。

ピリピリしてんな。


というか、なんか微妙な空気だ。

親子で団らん中にTVで濡れ場が始まっちゃった時みたいな感じな。



「じゃあ、また明日学校で」


そう言って、ベアドは実家へ帰って行った。





「ルジンカちゃん」


2人きりになった執務室に、おっさんの暗い声が響く。


「なんでしょう・・」


「あのね、ベアドは自発的に帰ったんだよ。情緒不安定なルジンカちゃんと、万が一にも間違いが起こらないようにって」


「え?追放じゃなくて?」


「うん。まあ、ベアドが言い出さなかったら、結局そうしてたけど」


おっさんがデカいため息をつく。


「涼しい顔してるけど、あれはけっこう見かけ倒しなとこあるんだ。ルジンカちゃんが大変な状況なのはよくわかるけど、あんまりつっつかないでやってよ」


そうお叱りを受けた。



奴は奴で混乱の最中さなかにいるらしいからな。

本来、自分のことで手一杯だろう。



俺、ベアド、おっさん。


フラボワーノ仲良し3人組ではあるが、うち2人は状態異常だからな。

おっさんも大変だ。


「こんな状態が続くならエディにも来てもらうかなって考えてもいるんだけどね。うちが黒刑ならアントシアも無事じゃ済まない。ベアドは嫌がるだろうけど・・実の父親がいれば、もうちょっと落ち着くでしょ。少なくとも、猥褻本を堂々と持ってくるようなことはしないよ」


父上とか言ってるけど、あいつにとっておっさんは親戚のおじさんだからな。


「パパって舐められてるんじゃないですか?」


「かもね。そのうちぶん殴るよ」


おっさんはそう息巻いた。


「どんな人なんですか?エディさんて」


新メンバーになるかもしれないなら気になる。


「普通のおじさんだよ。ちょっと君に似てるね」


“君”ってことは、ルジンカじゃなくて俺ってことか。

まあ、俺だって十分おじさんだからな。

自分に似てるって言われると、逆にイメージしづらい。


「とりあえず、ベアドの意見も聞くけどね。それとは別に、今度ぜひ会ってみてほしいな。エディにもロザリン・・ベアドの母親だけど、にも。何か思い出すかもしれないし。あっちの家とは親しく交流してたからね。ルジンカちゃんはロザリンにすごく懐いてたし。2人とも記憶喪失の件にはすごくショック受けててね。心配してるんだ」


ベアドの両親か。

まあ、興味がなくもないが・・


「もちろん、いいんですけど・・俺、まだフーティーナさん?にも、シェイラさんにも会ったことないんですけど」


フーティーナは母親だし、シェイラに至っては同じ屋敷に住んでるはずなんだがな。

人の親に挨拶してる場合じゃない気もする。


「そうだねぇ・・・」


俺の言葉に、おっさんは難しい顔をして黙り込んだ。


「フーナにはいずれ会えるよ。公式行事とかで夫婦で参加することもあるから、その時に・・多分」


「俺の記憶喪失のこと知ってるんですか?」


「・・まあ、もちろん。今の社交界で知らない者はいないよ。ルジンカちゃんはもともと有名人だし」


それでも帰ってこねーのかよ。

よほど興味ないんだな。


「シェイラさんは?」


「うーん・・シェイラはルジンカちゃんにはすごく攻撃的なんだ。体調が良くなくてね。あんまり興奮させられないからタイミングがね・・。考えてはいるんだけど」


どちらについても、おっさんの歯切れはめちゃめちゃ悪い。


「まあ、いいんですけど。特別会いたいとかは思ってないんで」


「すまないね。本来身近な家族なんだけど・・」


おっさんはそう詫びた。





次話は早めに上げたいです。

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