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放課後

帰りのホームルームが終わると、教室でベアドの迎えを待つのが俺の日課だ。

あっちが先に終わって廊下で待ってる時もあれば、今日のようになかなか来ない時もある。


ちなみに、部活とかサークルとかはほぼ存在しない。

一部のスポーツとか芸術とか、特殊技能を伸ばすためのものはあるらしいが、部活というより追加授業に近い扱いだ。


学校のあり方が日本と違うんだよな。

生徒のためじゃなくて、国のためだ。

どんな人材がいるのかの把握と、支配者層の学力の維持、あとはすごい偏った考えの人間を生まないために存在している。


揉め事を嫌う性質も強いから、授業が終わったら基本はさっさと帰される。



アーニャちゃん達もすでに帰った。

どんどん人が減っていく教室でぼんやりしていると、カバンを下げたルーガが近づいてきた。



「今日はベアドさん遅いね」


隣の席のアーニャちゃんのイスに座りながら、机の下の俺のひざ上にそっと本を置いてくる。

タワワーナの3巻だな。

間違えて俺に渡したということになってるから、人目を忍んでの返却だ。


なんか、ついでに足を触られた気もするが、偶然か・・・??

こうやって悩むレベルのギリギリのラインをついてきたということは、きっとわざとだろう。

油断ならないな、こいつ。



「午後の授業の時ってさ、リコちゃんどうだった?」


「リコピナさん・・?なんでです?」


今日は座学だったからリコピナとも全然話してない。

だが、特に変わった様子はなかった気がする。


「なんか、昼に具合悪くなって医務室行ったって。食べ過ぎとか言ってたけど、心配でさ」


「うーん・・席もあんまり近くないので。とりあえず普通に座ってたと思いますけど」


リコピナの席は女子の島の真ん中らへんだ。

俺より後ろだから基本わからない。


「そっか。あのさ、できればリコちゃんと仲良くしてあげてよ」


ロイルと同じことを言うな。


「私もそうしたいんですけど・・・何話せばいいのかわかんないんですよね。お互い微妙な立場だし、私はなんか泣きっぱなしなんで」


正直に言う。

女子と仲良くなるのってそもそも俺にはハードル高いんだよ。

アーニャちゃん達みたいに、最初から友達設定あったって緊張するからな。

セクハラならいくらでもできるが。


「女性同士のことは僕も専門外だからな・・でも、今は周りが男ばっかりだし、なんかあった時心細いと思うんだよね。オレオンは気がきく方じゃないし」


宙を睨みながら頬杖をつくルーガ。


「それに、今の状態が続くのはルジンカのためにもならないよ。クラスにはクルクミーに近しい派閥の生徒もいるけど、フラボワーノを敵にまわせるような家格の生徒は一人もいないんだ。君の場合、友達もみんなすごい家の娘ばっかりだし。ルジンカが動かないと、誰もリコちゃんには近づけない」


「リコピナさんに近づいた人をどうこうしようなんて思ってないんですけど・・」


「誰もそうは思わないよ。特に今のこんな空気の中じゃ。男って弱い方の味方をしたくなるからさ。逆に傷心の今、手を差し伸べることができたらロイのポイント高いよ」


ただ、エロいだけじゃないんだな。

すごいまともなアドバイスをくれた。


「協力していこう」というルーガの申し出に了承はしてないんだがな。

すでにそんな雰囲気だ。


だが、ロイルに関しては正直微妙なんだよな。

好感度上げに行った方がいいに決まってるのはわかるんだけどさ。

本音を言えば、今はあんまり関わりたくない。


悲しくなったり、発情したりで簡単に自分を見失う状態だからな。

ロイルとマンティコの実が食いたくなったのは衝撃だった。

時間が経つほどショックがジワジワ来ている。

まずはいつもの自分に戻る方を優先させたい。

マジで。


むしろ、今稼いでおくべきはルーガの好感度だな。

俺のために魔法を使ってくれ。


「リコピナさんのこと、昨日のお昼に誘ってみようとは思ってたんです。結局、ロイル様に誘われたり、今日はルーガさんとだったんで実現してないんですけど。明日さっそく誘ってみようかな」


「ぜひそうしてあげてよ!」


ルーガが笑顔になる。


「でも、ルーガさんはお昼をリコピナさんと一緒に食べれた方がいいんじゃないんですか?」


「それは平気だよ。僕はそっちに様子見に行くから。ハーレムだし!」


「ああ、そうですか・・・じゃあ、まあ誘ってみますね」


「頼むよ。あ、それとさ、僕の事はルーガさんじゃなくて、ルーガでいいから」


グイっと顔を寄せてきてささやいた。


「はあ!?」


近づいてきた分だけ離れて軽くメンチを切る。

近けーよ!



「今までのルジンカは僕のことオーゴニーさんとしか呼ばなかったからね。インパクトあるだろ?ロイにもリコちゃんにも刺激になるよ。変わりゆく人の心と人間関係をアピールするんだ」


「・・でも、振られるなりルーガさんに乗り換えたと思われても困るんですけど?」


最悪死期が早まるからな。


「あれだけ泣いてれば誰も思わないよ。でもだからこそ、いつまでも自分が一番じゃないのかもって、相手に思わせるのは重要だよ。特にロイみたいに調子に乗ってる奴には。競争心をあおらないとね」


これがモテ男の追わせるテクニックってやつなのか?


「なるほど・・わかりましたわ」


俺の返事に満足そうに頷き、ヒラリと席を立つ。


「じゃ、僕は帰るよ。ばいばい、ルジンカ」


「さよなら、ルーガ」


言いながら小さく手を振ってやる。

スケベそうだが、クラス内に男友達がいるってのは心強いな。




「ルジンカ。すまない、遅くなったな」


ルーガと入れ違いに現れたベアドに呼ばれ、俺は席を立った。







「今日はどうしたんだよ?遅かったじゃん」


馬車の中でベアドに問う。


「お前とロイル様に関する噂の情報収集をしていた」


「どうだった?」


「まだ肝心のお前から詳細を聞いてないからな・・」


昨日はベアドにもおっさんにも、ロイルに振られたときの詳細とかをろくに話さなかった。

胸の痛みや涙が治まってからにしようと思ってね。

結局今日になっても治んなかったから意味なかったな。


「そっちは大丈夫だったのか?」


「泣いてただけだな。あとで昨日の件とまとめて話すよ」


「そうか」


ベアドの表情は冴えない。


「ところで、オーゴニー公爵とは何を話したんだ?」


「なんか、協力しようって持ち掛けられてさ。ルーガはリコピナが好きなんだと。ロイルもリコピナに気があるらしいから、俺にロイルの気を引いて欲しいそうだ」


喋り始めるなり、ベアドの眉間に深いシワが刻まれる。


「彼の目的が本当にリコピナか怪しいものだ。記憶を失う前のお前にも、年がら年中ちょっかいをかけていたんだ。簡単に信用するな」


「いや、別に信用なんてしてないけどさ。ロイルに関する情報だって引き出せるだろ」


ベアドには魔法の件はまだ言わない方がいいな。

予知の魔法は発動方法が破廉恥だし、今言ったら絶対に反対されそうだ。

ルーガが信用できそうだとわかってからでもいだろう。


「お兄さん、ロイルの王子様モードって知ってるか?」


「モードも何も常に王子だろ」


「ルーガいわく、そういう扱いづらいところがあるらしい。わけわかんないこと言って、会話が成立しなくなるんだってさ」


「ただの駄々っ子だろ。世界中の王子に謝罪すべきネーミングだな」


「知らないが・・とにかく、そういう話も含めて色々聞けるだろ」


「・・・絶対に2人きりになるなよ」


しかめっ面のまま、ベアドがため息をつく。



「そういえば、あの4巻どっから持って来たんだ?」


「そうだった。あれは急場を繋ぐためのものだから、本来お前にふさわしくない品なんだ。一回返してくれ。後で部屋にある方を貸してやる」


「は?学校にも部屋にもタワワーナがあるのか?」


「さっきのは学校のロッカーに保管していたものだが、出所不明品なんだ」


「出所不明品て?」


「たまにあるんだ。気にするな」


「よくわからんが、結局持ってんじゃねーか。3巻までしかないとか言ってたろ」


俺はカバンから4巻を取り出し、ベアドに渡しながら言う。


「資料は3巻までだが、私物の方は8巻まである」


あっさり認めた。

とうとう開き直ることにしたらしい。


「結局好きなんだろ。ルーガも王子様も読んでるらしいぞ」


すごい嫌そうな顔をするベアド。


「言っておくが、僕はこの作品をそれほど評価していない。ワンパターンだし、誰とでも食事に行く尻軽女だ。だんだん腹が立ってくるんだよ」


「8巻まで買っといてそんな言い方するなよ。タワワーナがかわいそうだろ。てか、エロ本に感情移入しすぎだから」


「読んでる友人が多いから一応目を通しているだけだ。連中、こっちが当然知っているものとして話を振ってくるからな」


「そりゃそうだろ。資料に私物に出所不明品?でタワワーナまみれじゃねーか。きっとお前ほど持ってる奴はいないぞ。大好きだと思われてるんだよ、お友達に」


「ほっといてくれ・・・4巻は恋愛ものだぞ。大丈夫か?」


「読んで泣くようならやめるよ。所詮エロ本のストーリーなんてあってないようなもんだろ」


「今度画集が出るらしい。普段は挿絵がないから、どんなものかわからないが、そっちも入手したら見せよう」


そう言って、タワワーナコレクターベアドは、俺から回収した4巻をカバンにしまった。


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