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反撃計画(2)

…………………


 私たちは神聖オーグスト帝国帝都カーサルに乗り込んだ。


 ドレッドノートスワームが城壁を傀儡ごと押しつぶし、バリスタを放とうとする傀儡はライサが先手を打って撃破した。セリニアンも城壁の上を駆けまわり、ドレッドノートスワームを攻撃しようとするもの全てを叩き切る。


 そして、ふたりの行動をヴァイスクイーンスワームが支援する。フラップスワームを放ち、城壁の敵を攻撃し、更に城壁内のリッチーなどにも攻撃を仕掛ける。これリッチーが攻撃魔術でドレッドノートスワームを攻撃するチャンスが減った。


「ライサ、次は城壁内だ!」

「了解です、セリニアンさん!」


 そしてライサとセリニアンのふたりがリッチーたちを始末していく。


「ここはやはり無人か……」


 城壁内のリッチーが掃討され、帝都カーサルの街に入った私は全てがそのままに残っている家の中の景色を見てそう呟いた。テーブルに料理が並べられたままの食卓、商品が並びっぱなしになっているバザール。


 そして、最後に潰れたこの国にはまだ奪われていない財貨が残っていた。


 金は建物のアンロックに使えるが、私たちはもう既に全ての建物をアンロックしてしまったので使う必要はない。ポートリオ共和国に逃げ込んだ神聖オーグスト帝国の臣民が使えばいいか、あるいはポートリオ共和国が使えばいいだろう。興味はない。


「レイスナイトだ!」


 私たちが大通りを進行中にレイスナイトが20体程度躍り出て、ドレッドノートスワームに襲い掛かってきた。多数の傀儡を引き連れて。傀儡の数は何万という規模だ。この帝都カーサルで死んだ人間を全て傀儡にしたような勢いだ。


 だが、傀儡はもはや脅威ではない。こちらにはドレッドノートスワームがいるのだ。先走って先行しているレイスナイトさえ撃破してしまえば、後は押しつぶせばいいだけだ。さあ、片付けてしまってくれ。


 だが、私はふと思う。


 こうして私たちが蹂躙している傀儡の中にジョンやジョエルの死体も混ざっているのではないだろうかと。


 もし、余裕があったならば、ネクロマンサーを倒して死体に戻したジョンとジョエルの死体をジョディに届け、共に弔ってやりたかった。だが、今の乱戦状態では誰が誰だと分かる余地は欠片もない。


 結局は全てを押しつぶしてしまうより他にないのだ。蹂躙し、蹂躙し、死者の尊厳など認めずに肉団子にする。そうしなければ、ジョンとジョエルが守ろうとしたジョディまで死体になってしまう。


 私は強くそれを望まない。


 大事な人が死体になるぐらいなら死者の尊厳を踏みにじった方がマシだ。それに肉団子にすることは弔いでもある。彼らを殺した敵を倒すためにスワームに生まれ変わって、相手に牙を突き立てることこそ、スワーム流の弔い。


 既にジョンとジョエルの死体でスワームになった子もいるのかもしれない。その子たちには自分たちの仇を取るために頑張ってもらいたいものだ。


「女王陛下。間もなく宮殿です。どうなさりますか?」

「内部を確かめておきたい。生存者は期待できないだろうが、隠れている敵はいるかもしれないからね」


 私たちの仕事はポートリオ共和国に緩衝地帯を作ること。そのためにも私たちが通った後には敵を生き残らせてはいけないのだ。敵は徹底的に皆殺しにしなければ、特にリッチーとネクロマンサーについては確実に。


 そして、宮殿が見える。


 豪華な宮殿だ。帝都カーサルの臣民はこれを誇りに思ったか、あるいは憎々しく思っていたことだろう。それぐらいの壮麗な建物が前方に聳えている。


「ドレッドノートスワームで押しつぶすと後が大変だ。セリニアン、ライサ。スワームを引き連れて、内部を掃討してきてくれ。私も後ろからついていく」

「畏まりました、女王陛下」


 ドレッドノートスワームなら5分ほど散歩するだけで宮殿を瓦礫に変えられるが、そんなことをしては宮殿内にリッチーやネクロマンサーが潜んでいるかどうかが分からなくなる。ここは地道に捜索しなければ。


 セリニアンとライサが先陣を切って宮殿に突入し、それから私と何体かのスワームが侵入する。私は戦えないと分かっているので、セリニアンとライサが確保した道だけを進むことにする。


 宮殿は外見の華やかさが嘘のように荒れ果てていた。


 内部で戦闘があったのか、壁には矢が刺さったまま残り、床には大量の血液が乾燥して赤黒くなって残っている。


 調度品も剣で切り裂かれたり、割られたりしているのが多く、本当にこの帝国は滅んでしまったのだなと思わせるものとなっていた。


 だが、死体だけはひとつも見当たらない。全てネクロマンサーたちが傀儡に変えてしまったのだろう。私たちが来なければ永遠に無人のままだったに違いない。寂しくなってくるな、こういうのを見ると。


『女王陛下、少し来ていただけますか?』

「ああ。分かったセリニアン。今向かう」


 珍しくセリニアンから来て欲しいとの要望があったので私はセリニアンがいる2階へと昇る。2階にも戦闘の痕跡が刻まれ、折れた長剣が床に転がっていた。


「どうした、セリニアン?」

「女王陛下、これを。奇妙な異物を発見しました」


 セリニアンがそう告げるのは、騎士甲冑ともに飾られている一振りの刀剣だった。それが存在感もなく、甲冑の後ろのショーケースに飾られていた。


「これのどこがおかしいと?」

「私たちには触れないのです。スワームでもダメでした。何かの呪いでしょうか?」


 セリニアンが触れない剣?


 それはおかしいな。そんなものあるはずがないのに。


 私はそう思ってショーケースを開けると、内側に置かれている剣を手に取った。


 触った感じは特に何も感じない。私にはやや重いが、触れないということはなかった。これの何がセリニアンを遠ざけているのだろうか?


「セリニアン。別に問題は──」


 私がそう告げようとしたときに私の意識が途切れた。


…………………


…………………


 私は目を覚ました。


 いや、違う。この感覚はまだ夢の中だ。


「────さん」

「サンダルフォン?」


 私を呼ぶサンダルフォンの声がするのに私は背後を振り返る。


 仄かな光に照らし出された真っ白な空間の中でサンダルフォンが立っていた。私が先ほど手に入れた長剣を手にして。


「これを手にされましたね、────さん」

「ああ。セリニアンには触れられなかったんだ。何故だろう?」


 サンダルフォンが尋ねてくるのに私は首を傾げる。


「それはこの剣はセリニアンさんのが有している破聖剣とは全く逆の性質を持った破邪剣だからです。堕落した聖騎士であるセリニアンさんには、これを扱うことは不可能です。ですが、あなたならこれを扱える」


 サンダルフォンはそう告げて、私にその破邪剣を手渡す。


「私は剣を扱ったことなんてないよ。セリニアンが扱えないなら、私も扱えない。これは君が用意してくれたものなのか?」


「そうです。今回の敵は邪悪そのものの敵。死者を冒涜せし軍勢とそれを率いる大悪魔。それを打ち破るにはこの剣が必要であると考えました。これを最初に授けたものは使うことよりも飾ることに熱心になってしまったようですが……」


 そこまで告げてサンダルフォンがため息を吐く。


「ですが、────さん。あなたにはやっていただかなくてはなりません。この邪悪なゲームを終わらせるために、全てに終止符を打つために、あの大悪魔とその軍勢を倒していただかなくてはなりません。私が手出しできない以上はあなた自身の手で」


 サンダルフォンはそう告げて私の手に剣を握らせた。


「使い方は簡単です。既に使い方は入力されているので、それを応用して使っていけばいいのです。───さん。あなたが敵を打ち倒し、その魂に救いがあることを望みます。どうか安らかな平穏が得られることを……」


 サンダルフォンはそう告げて一歩下がった。


「ありがとう、サンダルフォン。使わせてもらうよ。君のくれたものだ。無駄にはしない。必ず役立ててみせよう。その前に筋トレが必要かもしれないけれど」


「大丈夫ですよ。その剣は必要とするもの全てに力を与えます。必ず使えるはずです。では、あなたの戦いに勝利があることを祈ります。どうか苦境においてもくじけずに、頑張ってください」


 サンダルフォンが最後にそう告げると、この真っ白な空間に光が溢れ──。


…………………


…………………


「女王陛下! 女王陛下!」


 私を呼ぶ声がする。セリニアンの声だ。


「女王陛下、大丈夫ですか!? あの剣を握った次の瞬間には地面に倒れられて」

「大丈夫だよ、セリニアン。ちょっと友達と話してきただけだから」


 セリニアンが酷く心配をするのに私は軽い調子でそう告げて返した。


「セリニアン。この剣を入れる鞘はあるかな?」

「恐らくはこれだと思われますが……」


 私が尋ねるのに、セリニアンは皮でできた鞘を持ってきた。


「それを私の腰に付けられるかな?」

「サイズを調整しないと難しいですね。これは男物ですから」


 そうか。剥き身で剣を持ち歩くのも物騒だと思ったのだが、鞘がないのでは……。


「ワーカースワームに命じれば、女王陛下のサイズに合ったものにできるかと思いますが。どうされますか?」

「ああ。その手があった。そうしよう」


 そうだ。我々の陣営には土木作業から縫製作業までが行えるワーカースワームがいるじゃないか。彼らに頼めば、この鞘を私の腰のサイズに合ったものにしてくれるだろう。


「女王陛下!」


 不意にセリニアンが大声を上げて、剣を抜いた。


 その視線の先にいたのは──。


「レイスか」


 レイスはレイスナイトほどではないが面倒な敵だ。この部屋に隣接する場所から壁抜けをして現れたのだろう。手には長剣を構え、私たちの方に真っ白な死者の手を伸ばして進んでくる。


「セリニアン。ここは私に任せてくれ」

「え? 女王陛下、それは……」


 セリニアンがうろたえるのも無視して私は破邪剣を構えた。


 そして、向かってくるレイスに向けて刃を振るった。


 一撃だ。レイスが握っていた長剣も切り裂かれ、レイス自身も引き裂かれ、レイスは灰になって消えていった。


「女王陛下。一体、それは……」

「私の友達からのプレゼントだ。このゲームを終わらせるために必要な」


 私は破邪剣を握ったままそう返す。


 ありがとう、サンダルフォン。私はこれでゲームを終わらせてみせるよ。あのサマエルが作りだした忌々しいゲームを終わらせてみせる。


 そして、皆に安息が訪れますように。


…………………

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