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ウミヘビ漁

…………………


 ──ウミヘビ漁



 シーサーペント漁を行うことになった後日のこと。


「シーサーペント漁に使える船は中型漁船が6隻、大型漁船が3隻か」


 私はマッケンジー大統領から渡された資料を読んでいる。


 シーサーペント漁は大掛かりな軍事作戦だ。


 獲物は巨大なシーサーペントを最低でも2体。普通の漁と違って釣る獲物に食われる恐れもある漁だ。普通の漁師はやりたがらないし、武装した海軍の艦艇でも相手になるかどうか分からない代物だ。


 だが、やらなければならない。


 相手はネクロファージを操るサマエル。


 今度の攻撃はフォトン総攻撃以上の攻撃かもしれない。それから身を守るには、よりたくさんにユニットとより強力なユニットが必要だ。


 フォトン周辺はワイバーンスワームとグリフォンスワームが定期的に哨戒飛行しているが、現在のところ敵ユニットは見当たらない。だから、この間に何としてもシーサーペントを仕留めて、肉としなければならない。


「準備はできましたか?」


 こちらと協力してシーサーペント漁をすることになったポートリオ共和国海軍の提督が声をかけてきた。これから私たちと命がけでシーサーペント漁をすることになる大事な仲間になる。


「こちらのユニットでは攻撃できるのはシーサーペントが海上に出てからだ。何としてでもそちらで海上に獲物を浮上させてもらいたい。銛を使えば、なんとか奴らを海上に引き摺りだせるはずだ」


「了解しました、やれることをしましょう。我々も勝利に貢献することができるとしって、海軍将兵の士気は大きく向上しています」


 そうだよな。ネクロファージとの戦いは主に陸戦だ。海軍は旧大陸に避難民を送り届けることぐらいしかできない。それもシーサーペントがうようよとしている危険な海を横切って。


 よって、海軍にとってはこの作戦は自分たちの存在価値を示すことができる重要な作戦だった。私たちを助けることによって、間接的にネクロファージと戦うことができるのだから。


「よし。まずは作戦を確認しよう。私たちは以前にもシーサーペント漁を行ったことがある。その時は捕えずに殺してしまったが、今回の目的は捕獲だ。こちらもそのためのユニットを揃えている」


 前回はポイズンスワームの毒で肉汁に変えてしまったが、今回は形を保ったまま、港まで連れていかなければならない。


「こちらの役割は銛で敵を海面まで引き上げることですね?」

「ああ。撒き餌で誘導し、銛を突き立てる。そして怒り狂うシーサーペントを押さえて、その後は我々に任せてほしい」


 今回はこの間のようなお化けサイズのシーサーペントではない。だが、シーサーペントはシーサーペントだ。犠牲者が出ることも考えておかなければ。


「了解しました。最善を尽くしましょう。我々に勝利を」

「ああ。我々に勝利を。ここで勝利できなければネクロファージにも勝利は出来ない。互いに協力して、上手くやっていこう」


 こうして、シーサーペント捕獲作戦は簡素に決まった。


 具体的な作戦はポートリオ共和国海軍が立案する。船の陣形や、我々のユニットの配置などはポートリオ共和国海軍にお任せだ。


 だが、上手くいくだろう。ポートリオ共和国海軍は勝利に飢えており、士気は極めて高く、船乗りの素質に満ちている。最低でも2頭のシーサーペントを仕留めて、港に持ち帰り、ワーカースワームに肉団子にしてもらえば、我々の軍勢は大きく拡大する。


「セリニアン。君も来るかい?」

「もちろんです、女王陛下。お力になれるなら何でも致します」


 セリニアンは相変わらず心強い味方だ。


「さて、待ってろ、シーサーペント。今に捕まえてつみれ汁にしてやるからな」


 私はそう宣言するとポートリオ共和国海軍が漁師から接収した漁船に乗り込み、作戦開始の合図を待ったのであった。


…………………


…………………


 大海原を艦隊が進む。


 動員されたのは速力のある中型漁船と大物を曳航するための大型漁船の2種類。


 それら艦艇が獲物を探し求めて、大海原を航行していた。


「この付近がシーサーペントがもっとも目撃されている海域です」

「きっと、いい漁場なんだろうな。撒き餌を放つか?」


 海軍の提督が説明するのに、私はそう尋ねる。


「ええ。そろそろ撒き餌を放ちましょう。これですぐにでも寄ってきてくれるといいのですが。そう簡単にはいかないかもしれませんね」


 海軍の提督はそう告げて、中型漁船に合図してここら辺一帯に砕いた魚の身をばら撒いた。家畜の肉はないが、魚ならば沿岸部でまだ取れる。それによってポートリオ共和国は食いつないでいるのだ。


 撒き餌が放たれ、海が赤褐色に変わる。だが、シーサーペントはそう簡単には姿を現さない。


「ここでダメなら、場所と日時を変える必要がありますhね」

「なるべくなら今日仕留めてしまいたいものだ。こちらに残された時間はそう長くは残っていない。既に敵は第二次攻撃の準備を始めているはずだ」


 ネクロファージ──サマエルが防備が不十分な私たちをそのまま見ているとは思えない。次は更に大規模な軍勢を以てして、私たちに襲い掛かってくる恐れがある。その前にユニット数を揃え、ドレッドノートスワームを生産しなければ。


「提督。海流に変化が」

「来たか」


 そのようなことを考えていたら、ポートリオ共和国海軍の将校が望遠鏡で辺りを見渡しながら、海軍の提督にそう報告する。

 

 将校が報告したように海流が乱れていた。それは海面下を何かが高速で移動していることの証だ。シーサーペントはいる。それもすぐ近くにまで迫っている。それを仕留められるかどうかは我々次第だ。


「銛の準備をしろ! 撃ち方用意!」


 獲物を曳航する役割のある大型漁船ではシーサーペントに打ち込むための巨大な銛が準備されていた。念には念を入れてケミカルスワームが生成する麻痺毒が塗られている。一発でも命中すれば、動きは鈍るはずだ。


「来ました! シーサーペントですっ!」


 そして、私たちが船上で慌ただしく動いていたとき、シーサーペントがその姿を見せた。真っ白な鱗に真っ赤な目をしたシーサーペントは海面から飛び出すと、高速で航行している中型漁船に襲い掛かろうとする。


 そこで中型漁船から思わぬ反撃を受けた。


 ケミカルスワームだ。だが、今回は相手を毒で殺すものではなく、相手を麻痺させる毒に切り替えてある。中型漁船上の5体のケミカルスワームが一斉に麻痺毒をシーサーペントに浴びせかけ、麻痺毒を受けたシーサーペントが雄たけびを上げながら、海に潜る。


「まだ銛は狙えないのか?」

「まだです、提督。奴がもっと近くに姿を現さなければ」


 大型漁船の船上では、提督と将校が攻撃のチャンスを今か今かと待ち構えている。


 シーサーペントは大型漁船からの攻撃を理解しているのかなかなか近寄ろうとせず、中型漁船を波を起こして転覆させようとし、中型漁船はそれに必死に耐えている。私は中型漁船に乗らなくてよかったな。


「畜生。奴は意外に賢いな。小型の船から狙うのが得策だと理解している」

「こちらから撒き餌を放って誘き寄せられないか?」


 海軍の提督が呻くのに、私がそう告げた。


「やってみましょう。一か八かだ」


 大型漁船から残量が気になる魚のすり身が放たれる。たっぷりと血を帯びたそれが撒き散らされ、シーサーペントの嗅覚を刺激する。さあ、来い。来るんだ。大人しく引き上げられろ。そして、つみれ汁にされてしまえ。


「……来ます! シーサーペントが来ます! 向かってきます!」

「チャンスだ! 銛を準備しろ!」


 海面を白い魚影が走り、私たちの乗っている大型漁船にかなりの速度で迫ってくる。


 バリスタの要領で銛を射出する装置が準備され、その迫ってくる白い影に向けて3基の銛が発射準備を整える。


「撃てっ!」


 その号令と共にバリスタから銛が放たれた。


 放たれた3本中命中したのは1発だけ。だが、それで十分だ。


「引き上げろ! それから残りの銛も発射準備だ!」


 海軍の水兵たちが一生懸命、銛に繋いだ縄を引っ張り、シーサーペントを海上に引き摺りだそうとする。それから残り2基の銛も、動きが制限されたシーサーペントに向けて叩き込まれる。


「引き上げろ! 根性見せろ!」


 下士官が叫び、水兵たちが暴れ狂うシーサーペントを引き上げようとする。


 だが、シーサーペントは人間が相手できるような代物ではない。それはなかなか海面へと浮上せず、抵抗を続ける。


 だが、銛に塗った麻痺毒が効いてきたのかシーサーペントの動きが鈍り、シーサーペントが海面に引き摺りあげられ始める。


「ケミカルスワーム、攻撃開始!」


 次は私が命令を発する番だ。


 私は引き摺りあげられようとしているシーサーペントに向けて、麻痺毒を含んだ毒針を放ち、叩き込んだ。


 これで一匹仕留めた。そう思ったときだった。


「2頭目のシーサーペントが接近中です! こちらに真っすぐ向かってきます!」


 ああ。そうだよな。1頭ずつ出てきてくれるなんて配慮は君たちの中にはないよな。


「2頭目に銛を向けろ! これはチャンスだ! 一気に仕留められるぞ!」


 海軍の提督はそう叫び、麻痺毒で動けなくなったシーサーペントを曳航する私たちの船が速力を上げて艦隊の前方に退避し、2隻の大型漁船が代わりに迫ってきたシーサーペントに対して側面を向ける。


 だが、シーサーペントは2隻の大型漁船には目もくれず、私たちの乗った船を狙って突撃してきた。


「どうやら仲間を助けに来たらしい。こちらにまっしぐらだ」


 新たに現れたシーサーペントの狙いはこの船だ。この船に仲間が捕まっているのを見て、助けに来たのだろう。畜生のくせに仲間意識が強いな。面倒なことだ。


「これは……困りましたね」

「いいや。向かってくるのならば迎え撃てばいい」


 私がそう告げるのに、セリニアンが私の前に出た。


「セリニアン。頼むぞ」

「お任せを、女王陛下」


 次の瞬間、シーサーペントは海面から大きく跳ね上がり、この船を沈めようと、船上にのしかかってきた。マストがへし折れ、銛が破壊され、大型漁船の船上は一気に大混乱に陥った。


「セリニアン。今だ! やれ!」


 私が命じるまでもなくセリニアンは船にのしかかってきたシーサーペントに突撃した。そして、シーサーペントの鱗を貫き、肉を裂く。


 シーサーペントは突然のことに更に暴れるも、セリニアンはシーサーペントに糸を巻き付けており、絶対逃がさない構えだ。


「てやあっ!」


 セリニアンは雄叫びを上げ、暴れるシーサーペントの頭上に飛び乗ると、長剣を深々と突き立て、頭蓋骨を砕き、脳を貫いた。


 その一撃でシーサーペントは痙攣するだけになり、ずるずると大型漁船からずり落ち始めていった。


「早く銛を! 海底に沈んだら回収できない!」

「銛を放て!」


 魚は死ねば浮くものだと思うのだが、シーサーペントの場合は沈もうとする。そこで大型漁船が大急ぎで沈みかかっているシーサーペントに向けて銛を放ち、海上に留めた。


「これでノルマ通り2体のシーサーペントを手に入れたな」


 いろいろとアクシデントはあったが、私たちは2頭のシーサーペントを連れて、ポートリオ共和国の港に帰還した。


 シーサーペントはその日のうちにワーカースワームたちによって肉団子に変えられ、肉臓の中に収められた。


「いいぞ。これでいい。反撃の機会は回ってきた」


 私は資源の貯蔵量を確認すると、にんまりと笑ったのだった。


…………………

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