第七十三話 人生という名の証明
おひさひさです!!!!わーい!半年ぶり!
いやすんません、遅くなりました。
再開です!
またすぐは出来ないかもですが、こんどこそ!こんどこそ続けたいなと。
ディゴルの過去を交えつつ、どうぞ。
ディゴルという少年は、人一倍無欲であった。
一日に食事は一度、毎日同じ服で過ごし、路地裏が寝床であった。
そう、彼はいわゆるホームレスの孤児であった。
だが彼は無欲ではあっても意志が弱いとか、無気力だとかそう言うことではなかった。
生きる上で十分だと考えていたからだ。
彼は厳然たる意志を持ち、明確に生を見据え、その上で無欲であった。
彼は弱冠十歳にして欲がその身を滅ぼすことを知っていた。
彼は聡かったのだ。
歓楽街に毎日のように通い、堕ちてゆく者の顔も、賭博屋へ頻繁に足を運び、連行される者の顔も、よく見ていた。
そして、その意味も理解していた。
なぜ彼はこう賢しく考えられたのか。
それは彼にとって唯一親と呼べる存在であった男の存在が大きいであろう。
ディゴルに名をくれたのもその男であった。
ある日、ディゴルは問うた。
「どうしておじさんはあんな人達にも優しくするの?」
ディゴルが住んでいた路地裏では、人の出入りが多かった。
彼が前日まで歓楽街で見ていた人間を、翌日には路地裏の住人として見る、ということも珍しくはなかった。
そんな時、親代わりの男は決まって食料を分けたり、路地裏でのルールを教えたりと、優しさを持って接するのだった。
ディゴルへそうしたように。
「ははは、お前さんは賢いからなぁ。理由が必要なんだな。そうだなぁ……強いていうなら、オレ達は明日生きるのもままならない身だろう?他人を助けることで自分が困った時助けてもらえるかも知れない。その保険ってとこか」
「……なるほど」
彼は納得はしていなかったが、男が暗に「他人を助けるのに理由は必要ない」と伝えようとしていたことも理解した。
「証明して」
「ん?」
ディゴルには一つ好きなことがあった。
彼の賢さ故に、証明するということが好きだった。
「人に優しくするといいことがあるって。それか、優しくする理由はいらないんだって」
「……おう。任せとけ」
それ以来、男はことある事にディゴルへ優しくすることの大切さを伝えた。
不器用な男であったが、それゆえ言いたいことも賢いディゴルには伝わった。
徐々にその証明は完成されつつあった。
だが、その証明が最後までされることは無かった。
その日は突然やってきた。
普段は誰も気にもとめない、蔑まれ、関わるどころか避けられ続けている路地裏に、街の人間が足を踏み入れた。
街の人間、というにはいささか優しすぎたかもしれない。
高級そうな服に身を包んだ、偉そうな顔でふんぞり返っている女に、それにガチャガチャと音を立てながら追従する全身鎧の男達。
「ありゃあ領主と近衛兵じゃねえか……?」
「こんなとこに一体何の用だよ……」
路地裏の人間は猜疑心をあらわにしつつ応対する。
しかし領主達の態度はあまりに一方的だった。
「一人頭これだけの税を納めろ」
女は1枚の紙を取り出し、開口一番そう告げる。
そしてその紙に書かれていたのは彼らにとっては途方もない金額。
払えるはずもなかった。
「こんなに払えたらこんなとこに住んじゃいねえよ」
「今までだって黙認してたじゃねえか」
「……そう。ならば仕方ないわ」
口々に文句をいうホームレス達に対して、女領主は淡白だった。
だが、次に交わされたのは言葉ではなかった。
乾いた発砲音と同時に倒れる住人。
「殲滅開始」
一瞬の沈黙の後、女領主は口元を歪ませて言い放つ。
それと同時に控えていた近衛兵は一斉に行動を開始した。
理由は単純。貴族の来訪による街の汚点の一斉掃討である。
汚い部分を修正する時間も余裕もない。ならば消してしまおう。
それが街の結論であった。
阿鼻叫喚。
ディゴルの目に映る状況はまさにその一言であった。
幸いだったのは、ディゴルの性格ゆえその若さとは思えぬほどに冷静だったことだろう。
突然今まで黙認していた路地裏に介入してきたんだ。なにか理由、きっかけがあったに違いない。
その理由は今は検討もつかないが。
まあ、ということは少なからず準備をした上でここに来ているのだろう。
先ほどの女領主の顔は俺達が払えないのをわかった上で来たことを示唆していた。
徹底殲滅をするつもりのはずだ。
普通に逃げたのではまず助からない。
一瞬でそう思考を巡らしたディゴルは、ひとりに路地の奥へと向かった。
否。一人ではない。同じことを考えている人間がもう一人いた。
そう、親代わりの男である。
「流石はディゴル。こっちへ来たってことは……賢いな」
「当然だよ」
彼らが目をつけたのは──地下水路。
路地の出入口は塞がれていると考えた上で思いついた最後の手段である。
だが、そう簡単にはいかなかった。
地下水路への入り口にたどり着く前に一人の近衛兵と会合してしまったのである。
「しまっ……ん?お前は……」
しかし幸運にも、その近衛兵は顔見知りであった。
いつかディゴルへ優しさを教えていた時に男が助けた人間の一人である。
ここぞとばかりに男は口を開いた。
「頼む。黙って街を出ていくから、見逃してはくれないか」
「あんたは……。どうせ他の兵に見つかるだろうさ。勝手にしな」
「……恩に着る」
この瞬間が、ディゴルの考え方に最も影響を与えた瞬間だったと言える。
「な?言っただろう?他人を助けるといいことがあ」
──もちろん、人に優しくする必要をないと思わせる、悪い方向に。
銃声と共に男の身体は傾き、やがて地面に倒れ伏した。
「悪いな。バレたらおれが処分を受けるかも知れないんでな。汚物になった自分を恨め」
もう、助からない。
ディゴルはそう理解した。
どうせ死ぬのなら、一矢報いて死のう。
そう考え、近衛兵に飛びかかりかけたその時だった。
「待て!」
息も絶え絶えになりながら叫んだのは男だった。
「おじさん!?あんたこの状況でもまだ優しくだの──」
「……そうじゃ……ない。生きることを……放棄するなっつってんだ」
「!」
その言葉はディゴルの目を確かに覚ました。
だが、状況が状況だ。
いかに賢い少年といえども、脱出口は見えてこなかった。
「いいか……ハァ……これを持って……逃げろ……」
男はそう言ってディゴルへ一つの髪飾りを渡し立ち上がる。
そして胸元からある物体を取り出した。
「……おいあんた。この子を撃ってみろ。その瞬間……この爆弾を……爆破させる。あんた諸共……木っ端微塵だ」
なぜ爆弾を持っていたのか。
こんな状況を想定していたのか。
そもそも本当に爆弾だったのか。
ディゴルにそれを知る術はない。
近衛兵としても、冷静に考えればそれがハッタリな可能性が高いことは分かったはずなのだ。
だが、男の鬼気迫る顔はそれをさせなかった。
気迫で信じさせた、男の勝ちであった。
ディゴルは答えのない問いを自分の中で繰り返しながら走った。
全力で逃げた。
そして数日後、死亡者リストに彼の姿が載ることはなかった。
そして、取り逃がした者として搜索されることもなかった。
あの近衛兵が罰を恐れて報告しなかったのか、はたまたわざわざ子供ひとりを探す価値はないと考えられたのかは分からない。
だが、彼は生き延びた。
そして、彼は誓ったのだ。
考え方を百八十度変え、証明するために。
強欲に生き、自分のために生き、他者を蔑み、強者として生きることを。
そして、人に優しくしない方が幸せに生きられるということを。
親代わりのあの男に、証明すると。
自分の残りの人生すべてを賭けて、証明して見せると、誓ったのだった。
それからの彼の人生は劇的だった。
もともとの賢さもあり、時には商人、時には傭兵としてあらゆる手段で上り詰めていった。
そして、そんな彼は今。
いくつもの傷を負い、少年と相対している。
「このままじゃ埒があかねえな」
「……まだ力を隠してるんだろ?」
「……この髪飾りはよ、俺を何度も助けてくれた。そして、俺の人生の全てを賭けている。この髪飾りに賭けて、俺はお前を否定する」
その言葉と同時に、ディゴルの髪飾りが光を放ち始める。
「待ってたぜ」
少年もそれに応え、動きを止める。
「いでよ!バステト!」
光が収まった時、ディゴルの背後には猫のような女神が佇んでいた。
「さぁ、続けようぜ」
戦いは、まだ始まったばかりだ。
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