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無名の剣士  作者: むー
第一章
8/31

 第二ラウンドのゴングは静かに鳴らされた。

 二階にある自分たちの部屋の前で始まったのだった。


「ねぇ、どうするつもりなの?」


 夏美さんがいた手前、あれ以上は言い争えなかったのだ。

 家に入ってしまえば誰もいない。


「やっちまったもんはしょーがねぇだろ。実際かなり追い込まれてたんだよ」

「だからってリミッター解除なんて危なすぎるよ……」

「だから、だからって仕方なかったんだって!」

「でも打ちどころが悪くて後遺症とか残ったらどうするの?」

「…………」

「珍しく、やっちゃったって感じだね……」

「…………」

「明日お見舞い行かないとね、ウチも一緒に行くから」

「もともと行くつもりだったけどな。カナもくるなら見舞いの品とかたのむわ」


 誰のお見舞いよ! と言い返すが了承するところはさすがだ。


「それでどうするつもり?」

「何が?」

「剣道部」

「入るわけないだろう」


 何を今さらといった感じだ。


「でも朝川さんが来たら、教えに行くんでしょ? 本当に教えるつもり?」


 どうしても気になるところだった。

 その場しのぎで言ったことだったら見過ごせない。


「そうカリカリすんなよ。

 あいつがマジでオレに来て欲しいって思うなら、

 教えてやってもいいって本気で思ってる」

「本当に?」


 まだ疑わしそうな顔をしている。


「まじまじ。オレが剣道やめた理由はカナだったらわかるだろ?

 ただあいつは面白いと思ったんだ」

「…………」

「こっちの仕掛けは防ぐし、カウンターは狙ってくるし、

 挙げ句の果てにはオレに本気を出させたんだ。

 しかもだぜ、本気の一撃くらったのに立ち上がりやがったんだ。

 掘り出しもんだよ、あいつは」

「確かにすごい子だよね。よくぞ同じ学校にいたんだって感じ? 

 全日本には本気を出せる相手いなかったんでしょ?」

「ちょっとは期待してたんだけどな。

 全日本は確かに技術の高いやつらばかりだったけど、

 それこそ瑠璃子なんて及びもつかないほどにな。

 ただ、圧倒的に気迫が足りなすぎ」

「朝川さんのはすごかったよね……。

 『諦めるまで、ですね?』って返してきたあの気迫、

 殺気って言ってもおかしくないよ」

「まったくだ。室内温度も一度や二度は余裕で下がったもんな。

 カナは見てないからわかんないだろーけど、実際立ち会ったら青白いオーラが見えたぜ」

「うぇっマジ!?」

「マジだって。もう驚いたのなんの」

「だから気が変わったの?」

「まぁそうだな。あれだけの物持ってるんだったら俺が教えてやればもしかしたら、な」


 渚はその先をあえて言わなかった。

 香奈も察して口にしなかった。


 香奈以外は知らないだろうが、渚は負けたがっているのだ。

 自分よりも強い人間と戦いたい、存分に技を試したい。その心は常に高みを目指しているのだ。

 今じゃ対等に競えるのは香奈しかいない。


「それも朝川さん次第だね」

「だな。普通だったらぶっ飛ばされた相手怖がるはずだぜ」

「でもあの子、普通とは言い難いじゃない。そこに期待ってところかな?」

「そういう事。よくわかってんじゃん」


 こうして二人の喧嘩は終わった。


「これからナギ姉はいつもの?」


 身振りだけでそうだと返してくる。


「それじゃあウチはどうしようかな。走れなかったし、ちょっとロードワーク行ってくるかな」

「熱心ですな」


 そう言って二人はそれぞれの部屋に入って行った。


 自分の部屋に戻った渚は着替える前に、パソコンの電源をいれた。

 着替えている間に立ち上がるのを待つのだ。

 そうして立ち上がるのを確認するやいなや、パソコンに飛びつき、すぐに目的のゲームを始める。


『エリアオンライン』通称、AO。


 渚がはまっているゲームのタイトルだ。

 特別ゲーム好きというわけではないが、なぜかこれだけはハマってしまった。

 様々な要素が絡み合い、見事なバランスで成り立っている。

 そんなところが非情に奥が深くて面白いと感じるポイントだった。 


「さてさて、誰か接続してるかね」


 そうつぶやきながら起動を進める。


 このゲームはMMORPGというジャンルで、1~10のサーバーが用意されている。(渚がいるのは第1サーバー)

 コミュニケーションの取りやすいように多様なシステムがあり、一緒に経験値を稼ぐパーティやクエスト、ギルドといったコミュニティを作ったり、運営が開催するイベントがあったりする。

 そして何よりも大事なのが、このゲームの由来ともなる領地戦だ。

 ギルド対ギルドで行われるこのイベントをGvGと呼び、週末の夜に開催されている。

 渚もほぼこれだけの為にAOをやっていると言ってもいい。

 

 AOの世界は、中心の三国と数カ国の中立国が存在し、まずプレイヤーは三国のどこかに国民として登録しなければならない。

 中立国は冒険のためだけに存在するため登録は不可能。

 ゲームの中心となるのは三国で、一つの国家に10の地区があり、それぞれの地区には砦が立っている。 

 その砦を奪い合うのが領地戦のメインとなる。


 砦を取ることができると、その地区の領主なることができ、様々なメリットがある。

 その中でも一番大きいのが、地区を管理することで、領主以外の国民から税金を徴収することができるのだ。

 その徴収した税はそっくりそのままギルドの懐に入るため、でかい。 

 どのゲームでも共通であろうお金の重要さ。

 お金を稼ぎ装備を強くしていくことで、さらならアドバンテージを得られる。

 それを容易にしてくれるのがこの領主システムなのだ。


 場所によって取れる税金の種類が変わるので競争率の激しい地区もあったりはするが、ギルドを運営していくうえでまず目標になるのが『とにかく一地区を取ろう!』である。 

 砦の数が10箇所あるとはいえ、どの国家もギルドの数は砦の数の3倍くらいはある。

 選り好みしていたりすると、その横を掠め取られることにもなりかねない。

 砦を取ることができるか、できないか、では雲泥の差があるのだ。


 だがどうしても砦確保に関われないような、弱小ギルドも当然のごとく存在する。

 そういったギルドは、戦略上大手ギルドの傘下に入ることで最低限の保証を得ることができるようになる。

 ギルドとギルドが協力関係にあるところをいつごろからか連合と呼ぶようになった。

 大手ギルドとしても、自分たちの傘下に入ってもらえるなら願ったものである。


 一番手っ取り早く強くなるには、数の利である。

 数多くのギルドを傘下につけることで、優位に領地戦を進めることができるのだ。

 そこらへんの戦いも熾烈を極めるのだが、さらに目玉のイベントがある。


 それは月に一度開催される、国家戦というものだ。

 中央三国による国家間戦争で、この国家戦に勝利することができると、勝利国民全員に運営からの支援効果が得られるのだ。

 普段は地区戦でしのぎを削るライバルたちも、この時ばかりは一致団結してこの戦争に望む。 

 この国家戦も領地戦と同じく、勝てるか勝てないかで雲泥の差があるのだ。


 そういった対人戦をメインにしつつ、自キャラの育成や領地の管理などの内政面、ギルドの傘下を増やす計略といった要素もあるゲームなのだ。


 そして渚はというと、実はかなり重要な立場にいる。

 渚自身はギルドの実質運営に関わってはいないが、ゲームに対する理解度が高いため、こと地区戦においては、ある連合の指揮官という立場になっている。 

 しかもその連合というものが並じゃない。

 国家内二強連合の一角を成す連合、その指揮官なのだ。

 当然だが、他連合からは要注意人物としてリストに上がっているほどで有名人で、その名前は他の二国にまで届くくらいだ。


 別に渚は普通にゲームをやってるだけなのだが、いつの間にかその世界でも有名人になっていたのだった。

 ただリアルとは違って、指揮官という立場もゲームを楽しむための一つのスパイスと考えているから、注目を浴びてもどうでもいいと思っている。


negi:こんー誰かいるか?


 このnegiというキャラクターが渚だ。

 別に打ち間違えたわけではない。

 実名に近い名前でプレイしたくなかっただけらしい。


さっち:ネギさん(*^・ェ・)ノ コンチャ♪

くろす:こん


「二人かーさすがに夕方だとメンバーも少ねぇな。

 くろすは一人で狩りしてんだろうし、さっち誘ってみるか」


negi:さっちーペアで狩り行かないか?こっちナイト出すからそっち支援頼む

さっち:ごめんなさいー

さっち:今くろすさんとレア狩りしてるんです

negi:ありゃめずらしいな。んじゃまた今度よろ


 くろすは一人で黙々とプレイする奴なのだがだが、今日は気分転換でもしているようだ。


「しかたねぇ、ソロでなんかやるか」


 そう言ってもう一台のPCの電源を入れる。

 一台をメインの狩りに使って、もう一台は支援用に狩場の邪魔にならないところに置いておくのだ。

 

「つっても何やるかな……」


 今は必死になっているわけではないので特に目的がない。

 とは言ってもキャラの育成は今後の戦争で必要不可欠だし、お金もいくらあってもいいくらいだ。

 迷った挙句、経験値を稼ぎに行こうと決めた。


「まぁ洞窟でも行きますかね。状態異常ばらまく奴多いから防御力より異常耐性高めにするかな」


 帽子と靴を付け替えた。

 盾は魔法耐性高いのにして。

 槍一本と予備に剣も持って行くか。


 よし、準備オッケーと掛け声勇ましく、二台目のPCからの支援を掛けた。

 そうしてマップ移動を開始する。その時だった。


「ただいまー」


 ちょうどよく母の真由美が帰ってきたのだった。


「あぁ、こりゃ一旦狩りやめだな」


 そうして玄関へ向かう。

 真由美はスーパーでパートをしていて、その帰りにいつも買い物して帰ってくるのだ。


「あら、ナギちゃん一人? カナちゃんの靴もあるみたいなんだけど……」

「あいつはロードワーク行ったよ」


 ゲームをやっていたとは言え、出て行く気配を感じさせなかったのはさすがだ。


「そうなの。じゃあこっちの袋台所におねがい」


 香奈がいないからだろう、二個ある袋のうち一つだけを渡してくる。

 こういう変に気を使うところが真由美らしかった。


「いいよ両方持つ」


 そういう気遣いは不要だと常々思っている渚だった。

 さっさと両方つかんで台所まで持っていく。

 今日は野菜を大量に買い込んだようだ、ずいぶんと重い。


「重かったでしょ? ありがとね」

「平気だよ。まったく何だってこんなにいっぺんに買い込むんだ? 何回かに分ければいいだろ」

「そう思ってるんだけど、なかなかうまく行かないものなのよ。

 それに最近一段と寒くなってきたから、今日はおでんにしようとおもって」

「あぁだからこんなに買ってきたのか」

「そういうことなの。おでん今から煮込むからちょっと時間かかるけど、ナギちゃん待てる?」

「まだ夕方だぜ。さすがに待てるって、つーか手伝うよ」


(ゲームは夜からだな)


「あら、本当? それじゃあ野菜切っててくれる? その間にお出しのほう作っちゃうから」

「りょーかい。そーいや、糞親父は何か言ってたか?」


 真由美と話ししていて、急に朝の事を思い出してしまった。


「んー。とりあえず今日は早く帰ってくるって」

「うげっ……。じゃあ夜飯一緒になるのか……?」

「そういうことになりそうねぇ」


 父親が帰ってくると聞いただけでがっくしと肩を落とす渚だった。

 さすがに今回の件はしつこい分、もう遠慮したいのだ。


「勘弁してくれぇ……朝の蒸し返しだったらオレは家出するぞ……」

「まぁ間違いなくそうなるわよねぇ。

 ナギちゃんが剣道やめることはもう諦めたみたいだけど、やっぱり続けて欲しいみたいなのよ」

「あー……そのことなんだけど、もしかしたらもうちょっとだけ続けるかも」

「あらあら、急にどうしたの? ナギちゃんって、自分が言いだしたら絶対その通りにするじゃない?」

「そこらへんについては、夜話す。カナいないとオレだけじゃ説明しきれないかもだし」

「わかったわ」


 そうして真由美が言ったとおり、早く帰ってきた健治をむかえて、おでんを突っつきながら家族会議をしたのだった。


 内容は今日出会った不思議な少女瑠璃子について。

 瑠璃子をリミッター解除でぶっ飛ばしてしまったことなどを話したら、流石に両親も「何てことをしたんだ」と怒鳴りだし「相手のご両親に会いに行かなくては……」と言い出す始末だった。

 それを何とかなだめて、今後もしかしたら剣道を続けることを話しして締めくくった。


ネットゲームの会話の表現をどうしたらいいかわかりません。

いい方法を思いついたら書き方を変えるかもしれません。

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