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今日の登校もやはり香奈と一緒だ。
姉妹で同じ学校なのだから、当然といえば当然である。
近所の人も慣れたもので、最近じゃ挨拶をし合うくらいだ。
「んー。とりあえず朝川さんのクラスってC組だよね?
C組の先生に聞けばわかるんじゃないかな?」
昨日救急車で病院に運ばれたであろう瑠璃子の話をしていた。
二人の意見として『お見舞いに行こう』ということは一致しているのだが、いかんせんどこの病院かまではわからなかったのだ。
順当に担任に聞いてみようということになったのだが……。
「なるほど……って聞いといてくんね?」
「だから誰のお見舞いよ!」
「わかってるけど、職員室ってどうも苦手で……」
はあ、とため息をつく香奈であった。
「コミュ障すぎるよ、ナギ姉ぇ」
「はいはい、いいんだよ必要最低限で」
「もう……」
そう言いつつ了承してくれるのが香奈だった。
「それじゃあお昼に聞いておくから、先お弁当食べてて」
「了解、さんきゅー」
そうやって話しが決まったところで、ちょうどよく下駄箱の前に着いたのだった。
一瞬、動きを止めた香奈だった。昨日の出来事を思い出してしまったのだ。
下駄箱を開けた瞬間、雪崩のごとく落ちる手紙の数々。
周りには奇異にうつるだろうこの現象、受け取る方も半端じゃない恥ずかしさだ。
想像してみてほしい。落ちたラブレターを必死に拾う姿を。
第三者の視点でそんな姿を見ることができたら……ぶっちゃけ面白い。
しかもだ、処分に大変困るのだ。
うっかり落としてしまったりしたら?
ゴミ箱に捨てたとしても誰かに拾われてしまうかもしれないし、かといって大事に抱えるのもうまくない。
誰かにそんなところを見られたら、面白いネタを提供するようなものだ。
考えたくもない。
そんな風に固まっている香奈を見て、無情にも渚は言った。
「大丈夫。もうみんな見慣れてるから」
「…………」
なんとも言えない表情になった香奈だった。
そんなこんな、決死の覚悟で一気に下駄箱を開ける。
さすがに今日はない! ほっと息を付く。
そんな香奈を見やって――。
「くっくっく」
思わず笑い出す渚だった。
「何が面白いのよ!」
「おっと悪い悪い。気にすんな」
そうやって渚も自分の下駄箱を開けるのだった。
「下駄箱開けるだけでドラマがあるんだから面白いよなー」
「ドラマなんかじゃないって。こっちは良い迷惑だわ、なんで直接言いに来ないんだか……」
「それはそれで面白そうだけどな。つーか無いの?」
「ん? なにが?」
「いや、直接告白しにくる奴とか」
「たまーにいるけどね」
「ああそうなんだ? 勇気あるなー」
「つっても女の子ばっかだけどね。どういうつもりなんだろう?」
「まぁあれだろ、一種の憧れみたいなもんなんじゃねぇの?」
「そういうもんかなぁ……」
「ぶっちゃけオレもよくわかんね」
「デスヨネー」
そんなやり取りをする双子であった。
渚はとりあえず置いておくとしてもだ、香奈はモテるから恋愛経験があっても良さそうではある。
だが香奈の周りに男の影がちらついたことを渚は見たことが無かった。
男からの告白もないわけじゃないだろうに、そこらへんも含めて聞いてみた。
「んーその人たちが嫌ってわけじゃないんだけどね。なんか違うなーって思うわけですよ」
と、言うことらしい。
ようは自分の好みに徹底してるようだ。
高校生の恋愛なんだからある程度妥協してもいいだろうに。
とか思う渚だったが自身も恋愛を語るには、あまりにも経験がなさすぎた。
と、言うより渚は渚で恋愛ができない体質だから、こればかりはどうしようもない。
そうしてホームルーム前を告げる予鈴が鳴ったので、二人はそれぞれの教室に向かうのだった。
「んじゃナギ姉またねー」
「あいよ」
香奈の教室は階段から一番近いA組だ。
先に教室に入っていく。
ちなみに、渚の教室はD組で階段からは一番遠い。
いつだったか、教室が遠いのがめんどくさいと思った日、香奈に無理を言ってこっそり入れ替わったことがある。
気付かれそうなものだが、意外なほどすんなりとできてしまった。
そうして授業に参加した渚はとてつもない考え違いを起こしたことに気が付くのだった。
香奈は優等生である。
当然だが授業中に居眠りなんてしないだろう。
渚は不真面目である……。
何が言いたいかわかるだろう。
教室がめんどいから入れ替わったのはいいが、さらにめんどくさい事態が待っていた。
授業をさぼれないのだ。
さぼってしまったら入れ替わったのがバレてしまう。
そうなったらそうなったでもっとまずい。
しまったと思った頃にはもう遅い、まじめに授業を受けるはめになったのだった。
当然、次の時間にはしっかり元に戻ったのは言わずもがな。
「あ、あの渚さん!」
そんな時声をかけられた。
どこか聞き覚えのある、のんびりした話し方だ。
あれ? たしかこんなやりとりって昨日やったばっかだよな?
そう思って振り返ってみる。
そこにはなんと勝手に入院してると思っていた瑠璃子がいたのだった。
「またお昼一緒に食べてもいいですか?」
本当にお昼を食べるだけなのかと疑わしくなるくらい、真剣な表情で誘ってくる瑠璃子だった。
だが渚はお誘いの返事をするどころではなかった。
「うわああああああああああっ!!」
思わず叫び声を上げていた。
それもそのはず。
渚が驚くのも無理はないのだ。
自分の力を理解している渚だ。
食らわせておいて申し訳ないのだが、
自分の本気の一撃をまともに食らって、無事に済む奴がいるとは思っていない。
怪我はしてないにしろ、一日くらい寝ていても全然不思議ではない。
現に、先程まで病院へ見舞いに行こうと話してたところだ。
その相手がケロッとして目の前にいたら……まさに幽霊を見たかのような驚きようだ。
悪いことに、その声を聞いた周りの生徒たちも驚いた。ついでに瑠璃子も驚いた。
何が起きたのかとざわつき始める。
そして騒ぎの中心が、『また渚だ』と知るやいなや野次馬の数が増えていく。
しかも今回は『あの黒神渚が叫び声を上げた』である。
渚のこんな表情を見ることは滅多にないだろう。
みんなこんな面白いことは他に無い、といった様子で集まってくる。
「ナギ姉、どうしたの?」
叫び声を聞いたのか、香奈までもが顔を覗かせてきた。
「ええええええええええええっ!?」
瑠璃子の姿を見て香奈まで叫び始めたのだから、さあ大変。
あの黒神姉妹が叫ぶなんて何事だとさらに人が増える。
(バッカ! カナまで叫ぶことがあるか!)
(だって! ちょっと、え、なんで朝川さんがいるの!?)
(オレが知るかよっ! つーか今それどころじゃねぇ! 周り見てみろ!!)
テレパシーで会話した二人だったが、周りをみて愕然とした。
ねえ、ちょっと来て! あの香奈さんが叫んだのよ、何事かしら?
うっそぉ!? あの香奈さんが!?
いやいや、そんなことより姉が叫んだことのがすごくないか?
そうだよ、あの唯我独尊、暴虐無人の黒神渚がだぜ?
俺見てたけど、どうやらあの女の子が原因みたいだ
あの子が? 確かにかわいいけど……なんだろうな?
一瞬にして廊下は人で埋め尽くされていったのだった。
おそらく一学年の半数がここに集まっているだろう。
いくら見られることに慣れているとは言えさすがの双子も気まずい。
慣れてない瑠璃子なんてもっと気まずい。パニックに陥っていた。
「と、とりあえず昼に集合だ! いいな!?」
渚の有無も言わせぬ言葉だったが、この時ばかりは大賛成だった。
三人そう約束してその場をさっさと逃げだしたのだった。




