プロローグ
「めぇぇぇぇぇん!!」
気合の声とともに乾いた打撃音が響き渡る。
お手本のような、鮮やかな面打ちが入り、勝負が付いたところだった。
決まった瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。激しい試合を終えた両者には惜しみない拍手が送られ、さらには勝利を収めた剣士に賞賛の声が掛けられる。
それもそのはずだった。
此処は武道の生地、日本武道館。
さらには日本一の剣士を決める全日本剣道選手権大会その女子の部。
そして決勝戦という大舞台だったのだ。
優勝の歓声に戸惑いつつも観客に答える優勝者。
しかしながら驚かされるのはその剣士の姿である。
竹刀に防具、袴姿まではいたって普通。
問題なのは他の剣士よりも身長がずば抜けて低いということだ。
並んで比べると頭一個分はゆうに低い。
そして面をとった素顔を見てまた驚かされる。
その顔は大人になりきれていない少女の顔だった。幼いとは言い過ぎだが、まだまだ大人というには程遠い、若い顔である。
そして何より一瞬にして目が奪われてしまうほどの美少女ときているのだ。
これで驚くなという方が無茶である。
あまりの美少女ぶりに優勝のインタビューをしなくてはいけない報道関係者やその周りの人達が固まってしまう始末だ。
さすがにこれでは日本一となった剣士も最高に気まずい。
そこでたっぷりと時間を使って息を吹き返した記者がようやく質問を開始する。
「まずは優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
そう微笑み返す美少女はまるで天使のようである。
「最初から最後まで圧巻の強さでしたね。最後の面が入ったときどんな思いでしたか?」
「入ったことにちょっとびっくりしてしまいましたけど、手応えが伝わってきたときは感動でいっぱいになってしまいました!」
「その感動はこちらまで伝わってきましたよ! では、あの面が剣道をやっていて最高の面になったんでしょうか?
「はい! このような最高の舞台で一本取れることが奇跡なので……。私の中で最高の面でした」
そして記者は誰もが聞きたかったであろう質問をしてみた。
「失礼ですが、ずいぶんお若く見えます。歳のほうはおいくつなんでしょうか?」
「十六歳です」
歳を聞いた周りの人達は驚愕の色が混じった声をあげた。
まさに最年少記録を打ち立てた瞬間なのだ」
「今回の優勝は最年少記録を立てたことになりますね! ではさらに気になってしまうのは剣道経験の方なんですが……。そちらはどのくらいなんでしょうか?」
これまた気になる質問だった。若すぎる剣士なのに、日本一の称号を得た少女である。
その歳に似合わずの年数なのだろうと誰もが想像したが、次の瞬間にはその想像を粉々に打ち砕いた。
「そうですね……。三年くらいになるとおもいます」
明らかにどよめきの声が多くなる。
仮にも日本一を決める場である。ここには経験年数三年どころか十年を超える剣士もいる。
ましてや子供のやる稽古は質も量も大人のそれとは格段に落ちる。
そのことを踏まえて考えるとやはりとんでもない事なのだ。
「三年ですか……。まだまだ長くなる剣道人生だと思いますが、今後の抱負など教えていただけますか? 夢でも構いません」
そう聞かれた美少女は少し考えた。まだまだ若い。ましてや最高の栄誉である日本一になった直後でこの質問だ。なかなかに難しい質問だったのかもしれない。
場を取り繕うと、記者が別の話題に切り替えようとしたときだ。
考え終わった美少女は少し上気した表情で一気に言った。
そして彼女が次に言った言葉は生涯忘れることができないと、後にその記者が語ったそうな。
「私の夢はケーキ屋さんになることです!」




