第十三話 ピンクでマジック 中編 5
「僕の洗濯物の中に、女物のパンツが混ざっててな。ピンクの物なんだけど、お前のかなって思って」
そうか、最初からこうやって聞けば良かったんだ。
安は妙に意識するからダメなんだ、と一人納得した。
「私、そんな子供っぽい色のパンツ持ってないわ。ベージュとかグレーよ」
雪も意識してないのか、それとも安を男として見てないのか、平然と下着の話をしてきた。
安も雪に同調する。
「そうか、ちょっと困っててさ」
「そうよね。大の男が女物のパンツ持ってるなんて、おかしいものね」
「持ちたくて持った訳じゃないって。いいんだ、一応誰の物か見当もつけてるし、念のため確認に来ただけだから。ありがと」
安はふっと気を楽にして、階段を降りていった。
この調子で矢守に聞いて、最後に優乃ちゃんに渡せばいいんだな。
最初から直接優乃の所に行けばいいものを、安の思考もかなりおかしくなっている。
あいつ、一人で全員に聞く気かしら。私にでも頼めばいいのに。バカね。
頼まれてもやる気がないのに、雪は思った。
安は部屋に戻ると、まず昼食をとった。
腹ごしらえをしていかんとな。
すでに意識している時点で負けているようななものだ。しかし安の中では、矢守が最後の山のようなものだった。おそらく下着の説明をした時点で何かしてくるのは間違いない。迫ってくる分には何とでもなるが、これを弱みとつけ込んで来るかも知れない。そうなっては安としては困ることになるに違いない。
安の考えは意識しないで行こうから、強気で押して行こうに変わっていた。
昼食を食べ終えて、よしっと気合いを入れる。安は矢守の部屋に行くと、戸を叩いた。
コンコン
「矢守、矢守」
しばらく待ってみたが、部屋から返事は返って来なかった。さらに二度三度叩いて呼んでみたが、物音すらしなかった。
まずいぞ。
安は考えた。
矢守で確認を取って、その勢いで優乃の所に行く予定であった。それがいきなり途切れてしまっては、計画が水の泡だ。万が一ここで優乃にバッタリ会ってしまっては、パンツの事を聞かなければ後々不自然になってしまう。一時退却。急がば回れだ。
安は自室に戻って矢守を待つことにした。
夕方。矢守の返ってきた様子に気付いた安は、早速気合いを入れて、矢守の部屋に行った。
コンコン
戸の音に、中から「いいわよー」と返事が返ってきた。
「あら、安さん」
誰かと会っていたのか、いつもよりしっかりした化粧に、格好のいい服を着た矢守が言った。
「矢守、どこか行ってたのか」
安は部屋にはいると自分を落ち着かせるため、まず世間話から入っていった。
「今度、雑誌にマンガ載せてもらうことになったの。連載じゃないんだけど、その打ち合わせよ。でもなぁに、安さんが私の部屋に来るなんて、めずらしい。私に会いたくなったの?」
矢守は人差し指を下唇に当て、流し目をしながら安に迫ってきた。




