第九話 四日目夜 優乃の初手料理 後編 10
「これは濃厚な香りがするなぁ。美味しそうだ」
安が目を細めた。
「はい。今回はちょっと濃いめの味にしてみました」
山川は自信たっぷりにそう言った後、あっと声を上げた。
「自分の分のスパ、忘れてた」
優乃が素早く反応した。
こうなるんじゃないかって、思ってたのよ。
「私、山川さんの分も茹でておきましたから、持ってきますね」
みんなが「おぉ」、と優乃を振り返った。
その時、
「キャー。私も食べる」
と、で愛の荘から奇声を発して、矢守が飛び出してきた。
山川が何でお前が来るんだとばかりに言った。
「お前、締め切りに追われてたんじゃないんかー」
「今、終わったのー。ありがとー。いただきまーす」
矢守はすっかり食べる気でいる。
「じゃ、私、矢守さんの分も持ってきますね」、と優乃は機転を利かせた。
「あ、ビール忘れた」
安も優乃と一緒に、で愛の荘に戻った。
優乃は山川の分のスパゲティを、二皿に分けて持っていった。
山川さん用にちょっと多めに茹でておいてよかった。
優乃は外に戻ると、二人にスパゲティの皿を渡した。
安は優乃と冬美のチューハイも、忘れずに持ってきてくれていた。
とりあえずと、雪、矢守、山川にビールを渡す。。早速山川が音頭をとった。
「では。スパ屋山川亭にようこそ。ご挨拶代りにビールについてお話ししようと思います。ビールの原材料は麦であります。これは麦茶と同じなのです。即ち、短く言えばビールとは、ホップと言う苦味要素の入ったアルコール入り麦茶なのであります」
「乾杯するわよ」
話が長くなりそうなので、雪が山川を脅した。
この前みたいに取り残されたくはない。山川はしぶしぶ応じた。
「だから、精一杯短くしてるじゃないですか。分かりました。矢守の原稿アップ祝いと皆さんの健康を祈って」
「カンパーイ」
山川のミートソースは確かに美味しかった。なかなか手の込んだ複雑な味がする。好みはあるだろうが、こってりした味の好きな人には、きっと受けるだろう。
「箸で食べてんの?」
冬美が安を見て驚いた。
「フォークで食べられるものは、箸でも食べられる。それに箸の方が食べやすい」
安はおかしいかと冬美に聞いた。
「なる程、箸は日本の文化です」
山川が横から口を出してきた。ビール一口でもう顔が赤い。
優乃は「私、デザート作ったんです。持ってきますね」、とその場を離れた。
安が手伝うよと優乃を追った。
冬美がまた、山川の長い話を聞くことになった。




