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第九話 四日目夜 優乃の初手料理 後編 2

 相手が優乃だったら、こんな言い方はしなかっただろう。冬美がいつもケンカ腰で来るせいか、冬美にはハッキリと言ってしまう安だった。また、冬美だったら言葉を包まい方が、ちゃんと受け止めてくれると感じていたからかも知れなかった。


 冬美は安に言われて、ハッとした。


 この人、優乃のこと考えてくれてる。優乃が強くなるように考えてくれてんだ。


 自分が安の言動の表面しか見てなかったことに気付いた。


 「ごめんなさい」


 思わず頭が下がった。


 突然冬美が、謝ったのを見て、安は笑ってしまった。


 「まいったな、謝るようなことじゃないよ。こっちも説教臭かったな。ごめんごめん。えーっと、春、秋、秋子ちゃん?秋美ちゃんだっけ?」


 「もー、冬美です」



 丁度その時、優乃が、で愛の荘に帰ってきて、安の部屋の前を通っていた。


 あ、安さんと冬美の声だ。


 優乃は、安の部屋の戸をノックするとそっと開けた。



 「あー、ごめんごめん。冬美ちゃん。冬美ちゃんって意外と可愛いんだね」


 安は笑いながら、冬美の頭をなでた。


 「子供扱いしないで下さいっ」


 頭をなでられて、冬美は顔を赤くして安の手を払いのけた。


 しかし可愛いと言われて、悪い気はしなかった。


 「あ、優乃ちゃんお帰り」


 戸口に立っている優乃を見つけて、安は声をかけた。


 「ただいまですっ」


 優乃は今の光景に、どう反応していいか分からず、元気よく返事をしてしまった。


 どうして安さんと冬美がいるの。安さん、冬美のこと可愛いって言った。冬美の頭なでてた。二人って昨日ケンカしてたのに、いつからこんなに仲良くなったの?


 優乃の頭は、今までになかったぐらいにぐるぐる回った。


 「優乃、お帰り」


 冬美も振り返って、元気よく言った。


 「あ、僕夕食前に風呂屋行ってくるから」


 安は遠回しに、この部屋から出て行け、と冬美に言ったつもりだった。


 しかし、安の目線が冬美に向かっているのを見て、優乃はそうとらなかった。


 「あ、私も一緒に行きます」


 安さん、冬美誘ったみたいだけど、そうは行かないんだから。冬美にだって負けないっ。昨日あんなにケンカしたのに、急に安さんったら冬美と仲良くして。あっ、分かった。『憎さ余って、愛しさ百倍』って奴ね。『ケンカするほど、仲がいい』ってことわざもあるし。もう安さんったら、私というものがありながら、そんなのに惑わされてっ。


 「そうか。なら山とか雪先生とか、今日のミートソースメンバー誘ってくるよ」


 そう言いながら安は、二人を部屋の外に押し出した。そうしないとこの二人が勝手に部屋を物色する気がした。


 「すぐ戻ってくるから準備しといて」


 安は戸を閉めて二階に行った。

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