第九話 四日目夜 優乃の初手料理 後編 3
五分もしないうちに、安が優乃の部屋に呼びに来た。
「優乃ちゃん、準備出来た?」
そう言って戸を叩いた。
優乃と冬美は揃って外に出た。
外には安の他に雪と山川が待っていた。
「あなた、さっき部屋で料理作ってるって言ってたじゃない」
冬美はさっきの作戦も忘れて、山川に非難がましく言った。
「いや、ある程度出来たから、料理寝かそうかなって思って。その間にお風呂行くのもありだから」
山川は弁解しつつ、話題を変えて安に聞いた。
「矢守は来ないんですか」
「あぁ、今締め切りに追われて、それどころじゃないって。山のミートソースも『そんなのここで食べたら、ソースが飛んで原稿が汚れるでしょ』って怒られたよ」
安は頭をかいた。
「締め切りじゃ、しょうがないわね」
雪が相づちを打つ。
「あっ、こちら雪先生。今大人気の漫画家さん」
優乃が冬美に紹介した。
そう言えば、雪と冬美は初顔合わせだった。
「大人気かどうかは知らないけど、今売り出し中の新人よ。気にしないで」
雪は否定するように手を振った。
「私、冬美です。優乃の幼なじみなんです」
冬美はよろしくと頭を下げた。
「行くぞー」
安が声をかけた。
「はーい」「おう」と答えて、みんな動き出した。
冬美はその時に、優乃にそっと言った。
「ねぇ、安さんっていい人ね」
優乃が「えっ」、と振り向いた時、冬美は雪と話をしていた。
五人は連れだって、坂を下りていった。
手にタオルだけ持っているのは男二人。冬美たちは小さな鞄に、シャンプーやリンス、化粧水などを入れていた。ちょっと変わったグループだった。
坂を下りてもう少し歩くとお風呂屋さんがあった。のれんに大きく『ゆ』と描いてある。
三十分後にここで、と約束をしてそれぞれ中に入っていった。
「こんばんは」
番台のおばさんにお金を払って靴を脱ぐ。
懐かしさを感じる木製の黒ずんだ下駄箱は、粗い飾りの鉄の戸がついていて、木製の鍵もついていた。中に上がると壁際にやはり木製の黒ずんだ棚があり、それぞれに藤のカゴが置いてあった。番台の方にはちゃんとガラス戸の古めかしい冷蔵庫がある。
「何ここ…。私、こう言うところ初めて。何かすごく使われててボロッぽいけど、きれいだ…」
冬美は呟きながら、興味深そうにあちこちを見た。




