第六話 三日目夜 宴会編 3
「あんまり美味しくないな」
安も一緒に飲み干すと、すっかり冷めた酒を雪と自分についだ。
「二人が、誰を好きでもいいのよ。分かったわ。山っちはあんたにあげるわ。安さんは私がもらうから」
矢守が仕方ないわねぇという顔で言った。
「それは出来ません。ホントの所、二人が誰が好きかって、言ってはいないんですけど、私のことが好きなんですから。二人の自主性に任せて、私を取り合わなくっちゃダメなんです。一人の少女を巡る男同士の戦い。揺れる乙女心。少女は二人の男性に心を揺さぶられつつも、どうすることも出来ないで二人の行方を見守る。やがて、二人は私をかけて決闘を決意。ある朝、霧の立ちこめる中、お城を背景に二人は約束の場所に白馬と黒馬にまたがって現れる。いにしえの倣いに従って馬を下り、お互いに近寄って顔を見交わす。剣を抜いて交えるとそれが開始の合図。私は朝早くその事を知って、お城から走って駆けつけるの。丁度私が駆けつけた時、二人はお互いに胸を貫いて死んでいる。私は二人に顔をつけて涙を流す。私が、あぁ、私の為に、二人争うことなんてないのに…」
「ちょっと」
黙って聞いていた矢守が突っ込んだ。
「二人勝手に殺さないでよ。だったら二人とも私がもらうわ。二人を殺しちゃうあんたに二人は任せられない。それになんで二人が武士なのよ。時代がおかしいんじゃないの。あんたも勝手にお姫様になってるし」
待ちなさいよとばかりに優乃も返す。
「どうして日本なんですか。西洋のイメージが湧いて来ませんでしたか。想像力、弱いですよ。ダルタニアンの時代をイメージして下さいよ。私はプリンセスですよ、プリンセス。パフスリーブのドレスで、裾の広がったスカート。キュッとしまったウエストに豊かな胸。殿方を狂わす愛くるしい笑顔」
「あんた、何か薬やってんの?そうじゃなかったら精神科にかかるかしなさいよ。そうしないといつかドブに足突っ込むわよ」
「そうなんですよ。私、よく嫉妬されるんです。この豊かなイメージがみんな妬ましいんですよね」
「安さんと私はね、同じ部屋に一緒に寝たことがあるのよ」
優乃の言葉を無視して、矢守は自慢気に言った。
「あら、私なんて山川さんも一緒に三人で寝ましたよ」
「でもね、安ったらすぐに寝るのよ」
優乃も頷いた。
「そうなんですよ。二人ったら、ドキドキしてる私置いて、さっさと寝ちゃうんですよ」
「でもね、私分かってるの。これは安さんが私のことを、大切に思ってる証拠なの」
「そうですよ。二人とも私のことが大切だから、手を出してこなかったんですよね」
「安さんったら、もう憎ったらしい」
「まったくですよ。乙女のドキドキ返して下さいよっ」
かみ合わない会話で、二人意気投合したらしい。
「すみませーん。チューハイお代わり。二杯お願いします」
「熱燗も二合を一本。猪口もう一つつけて」
安がのんびりと言う。雪が感心しながら言った。
「あんた、こんな状況って言うか会話で、よく平然と注文出来るわね」
「二人ともこっち見てないし、酔ってるからな。気にしなくていいだろ。あっ、キャベツも追加お願いします」
優乃と矢守が山川と安の悪口で盛り上がっているうちに、注文のお酒とキャベツが運ばれてきた。




