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憂鬱な駄女神  作者: くろ
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トップクラスたちの雑談


《1》



王都は、昨日の霧雨で洗われたような青く澄み渡った清々しい秋空が広がっていた。そんな爽やかな一日を期待して其々の仕事に向かう王都の民を余所に、騎士団のやや年嵩の騎士たちは逸る気持ちを押さえて、南の公爵が管理している高級街に向かった。 そして高い緑青を帯びたブロンズの柵とつる薔薇の生垣に囲まれた大きな邸宅の門扉を守るベリアノ侯爵家の衛士たちと対峙し、指揮を任された第九部隊クリフ・コーエン隊長の号令を待っていた。


4人の貴族たちが共同で所有していた別邸は、実質亡くなったベリアノ侯爵が管理していた。 侯爵がというよりは使用人が別邸内を差配していたため、『ベリアノ侯爵家が』、という方が正確かも知れない。


捕縛目標は、『トリスト・ゴブリン』で或る。


40代を過ぎて騎士団に在籍している騎士たちは、王命違反のトリストの名を聞き、怒りに燃えて凄まじい覇気を放っていた。

女王陛下の命に背いて入都していた怒りは当然あるが、それより前に数々の犯罪行為を重ね、騎士としての名誉を穢した侭、その罪を贖わず侯爵家の名で逃げ延びたトリストに対する怒りが、今も彼らの心を焼いていた。



「突入!」


クリフ・コーエンの号令で、定められた陣形を取った侭、門扉や裏口から多くの騎士たちは邸内に突撃した。

今日こそは、トリスト・ゴブリンの悪行と悪運を潰えさせるために。




一方その頃、ロゼット王城に向かう特使が乗った早馬は、貴族街に入る門で衛士と騎士たちに足止めを喰らっていた。

緊張した面持ちで特使は、ザクロン帝国のイドニス皇太子から、三日後に来国すると言う親書を携えていた。 勿論親書を認めたのは、アドニスでイドニス皇太子としてなのであるが。




今日、ロゼット王国の王都へザクロン帝国からの特使が到着したのは、全くの偶然だった。



北から渡る風に乗り、山々を越えて鳥たちの群れが南へと、透き通った青空の下を過ぎ去っていった。






《2》



王城は少し騒がしかった。

本当は銘々が『ワーワー』と騒ぎたかったのだが、王城の一番外側にある迎賓外宮にザクロン帝国の特使を留めているため、何事もなかったように平常を保ち、王会や上層部の面々は静かに集まっていた。


ロゼット王城敷地内に在る迎賓外宮は、今回のように友好関係にもないのに(寧ろ逆)、突然来訪してきた礼儀知らずの迷惑な客を本城に入らせず、留めて置く場所でもある。


まあ友好関係にあったとしても、今回のザクロン帝国のように、先触れもなく唐突に謁見の申し込みなどされたら、一挙にロゼット王国は距離を取るべく行動するだろう。

幾ら特使だからと言って、王城に到着した其の日に直ぐ女王陛下との謁見が叶うと考えているのが、傍若無人なザクロン帝国らしいと言えばらしいが。 自国も大国と認識しているロゼット王国は、ジャイアニズムなザクロン帝国ルールに微塵も乗る気などなかった。


その為、ザクロン帝国からの特使には、迎賓外宮で女王陛下の謁見の準備が整うまで、少々お待ち頂くことに成ったのだ。 特使が本宮殿に足を踏み入れることが叶うかどうかは王会での会議の結果による。


それに言葉にこそ出さないが、嫌な予感しかしない親書の受け取りを出来ることなら拒否したい、アントニア女王陛下だった。





王会メンバーが集まる王居の私的なサロンの一室。

八重咲きの秋桜やオータムローズが飾り付けられたサロンの一室で、審議するまでもないザクロン帝国の特使について、紅茶を飲みながらの雑談に興じていた。


サロンで其々の好みの紅茶を嗜んで居るのは、アントニア女王陛下とアルバート王配殿下、そして摂政のヴィンセント王弟殿下にジョエル宰相閣下。 

それと今年5月に成人を迎えたエレノーラ第一王女殿下だった。




アントニア女王陛下は、見事な黄金の長い髪を品よく纏め上げ、紫眼の大きな目を愛らしく張り、典雅な佇まいで皆を見ていた。

いつも小難しい表情をしているヴィンセント王弟殿下は、姉のアントニアと良く似た黄金の髪を後ろへ流し、皴を寄せて居る眉根の下には、セレス王家独特の紫眼を光らせていた。

そして北東の付属海を臨むオズメア王家出身のアルバート王配殿下は、夜の海のような濃い紫の髪に、燃えるような赤い瞳をしていた。 厳めしいその顔の吊り上った眦は、いつも誰かを睨みつけているようだった。

アントニアとアルバートの娘であるエレノーラ第一王女は、父親のアルバートそっくりな赤く吊り上った目尻。そして固そうな濃い紫の長い髪を複雑にギシギシと編み上げられ、広いデコをキラリと見せていた。


そして唯一の王族ではない一般人ジョエル宰相は、茶髪茶目で個性的な王会メンバーの中の癒しポジションだった。 目の邪魔にならない優秀な美形と王城での評判も高い。



以上の5人が、ロゼット王国の舵取りをする最上層部の王会メンバーで、今、真剣な雑談が始まった。




「帝国側が何かしてくると思ったが、、、。 正かイドニア皇太子殿下自ら乗り込んで来るとは。 王弟殿下、如何なさいますか?」

「そうだなあ、ジョエル宰相。 それにしても三日後と言えばザクロン帝国側が、エーデル王国に一方的な出迎え宣言を突きつけていた日だったよね? エーデル王国でロゼット王国騎士団の準備をジョエル宰相は整え済みだったよね?モチロン、だろう?」

「ハイ、勿論です。王弟殿下。」

「それにしてもヴィ。 ゼノキス中立王国で準備されていた軍は、西にある隣国のクローバー王国に侵攻するためでは無かったのですか?」

「お恥ずかしい話です、姉上。 わたしはそう読んでいたのですが違いましたね。アハハハ。」



帝国側に読みを外されたヴィンセントは、照れを隠すようにカラカラと議場で響く声を出し笑ってみせた。 しかしヴィンセントのギラリと光った紫眼は笑んで居なかった。

相変わらず、相手を威嚇しているような吊り上った眦と眉尻をし、アルバート王配は、低いがハッキリと聞こえる声で、外交を担当していた摂政のヴィンセント王弟に不快気に問うた。



「正か我がロゼット王国に其の刃を向ける気なのか?帝国サイドは。」

「いえアルバート義兄上。 幾ら強気の帝国と云えども我がロゼット王国に正面から侵攻してくる程、愚かではないでしょう。 しかし中立を謳っていたゼノキス王国は、今回の件で帝国サイドにいると自ら明かしたようなモノですな。」

「本当に腹立たしいことです。 ゼノキス王国は、以前から同盟の申し入れをして来ていたのでしょう?ヴィ。」

「ええ、姉上に婚姻の申し込みもありましたねぇ。母上はあっさり断りましたが。その頃の母上は、姉上の相手を既にアルバート義兄上と決められて居ましたから。 本当にあの頃は北の公爵もしつこくて苦労なさって居りました。」


ヴィンセントは、未だ成人して間もなかった時期の嫌な記憶を思い出し、宙を見つめた。 小国であろうとも他国の王子が、ロゼット王国女王の王配になれると知られていたため、近隣の王国の王子たち、そして果ては現在のザクロン帝国皇帝アレキドまで無謀は婚姻の申し入れをして来たのだ。

その国外からの騒動に北の公爵は、『国外から迎える王配はロゼット王国騒乱の元になる。王配はロゼット王国内で選ぶべきである。』とぶち上げ、高位貴族たちや騎士団を纏め、断られて居た自分の息子を推して来たのだ。


(あの頃の王国騎士団は、貴族出身の騎士(主に北の公爵関係者)が多くて、他国から来た王配の父上やロゼット王国内で王子なんて無価値だと思われていた。 そんなわたしたちの言うこと等は馬耳東風で聞き流されるし、本当に本当に只々面倒な時期だった。 あの時に決意したのだ。 面倒くさい騎士団を変えていこうと。

 ガウェル・ベンウィックとニコラス・キャメロンはホントに良くやってくれたし、今も有難い存在だ。

 その彼らの喉に刺さった小骨を取り除かせようと準備万端に整えた。 現在の騎士団の小骨トリスト・ゴブリンを捕縛させ、正当な罰を科せる記念の日に成る筈だった。 それなのに騎士団本部で控えていたベンウィック団長とニコラスを慌てさせたザクロン帝国の特使一行は許すまじっ!! 9月28日にエーデル王国へ派遣している騎士団からの報告を聞いてから、ゆっくりと故ベリアノ侯爵の妻や使用人たちに事情聴取させる予定だったのに。 ザクロン帝国めっ! 本当に面倒を増やしてくれて腹立たしいわっ。)


ヴィンセントは北の隣国や前北の公爵に対する長年の怨嗟を吐き出すように溜息を吐いた。



「ではヴィは、イドニス皇太子が何をしにヴィいらっしゃるのか判るのしら? 正か匿っているエーデル王国の第四王女を連れ戻しに来る筈など無いですわよね?」

「女王陛下、それは有り得ません。 スキル使用者を集めた7番隊により第四王女の秘匿は完璧ですから。」


女神のような麗しい金色の髪と煌めく紫眼を持つアントニア女王陛下は、整えられた金色の眉根を寄せて、弟のヴィンセントに改めて疑問を口にした。

そのアントニア女王陛下の言葉を受けて、第四王女の秘匿任務を任されていたジョエル宰相は、思わず否定の言葉を口にした。



「ンー。1つはロゼット王国の情報を探ることでしょう。 件の一族の襲撃事件が起きて以降、他国から侵入されそうな場所の警備レベルを上げたので、同盟国以外の者たちに我がロゼット王国の情報は入手困難になっています。 それでイドニス皇太子自身が来訪することで王国内の現状を知り、新たに情報入手出来る手段を考えたのだと思いますよ。 帝国の皇太子には最低でも一部隊程度の護衛を就けるのは当たり前でしょうしね。 多く人が入国すれば、それぞれが動きやすくなりますから。 序に第四王女でも見付けられたら、向こうが言い掛かりを付けやすくなりますし。」

「それに王弟殿下の考えに付け加えるなら、ザクロン帝国軍がエーデル王国占領後の布石を考えているのかと、、、。」

「フッ。ジョエル宰相ったら。 既にザクロン帝国はエーデル王国を手に入れた気でいるのね。 困った方々だこと。 ロゼット王国が同盟国を見捨てるワケないじゃないの。」

「姉上は全く。エーデル王国と我が国が同盟関係になって居るのを知って居るのは、一部の者だけですよ。」


ヴィンセントは飽きれたように、姉のアントニア女王陛下のジョエル宰相を揶揄うような笑みを見ながら、言葉を返した。 ヤケに大人しい姪っ子のエレノーラ第一王女の様子を気に掛けながら。









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