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ドSな虐めっ子が僕の『ペット』になった件  作者: 大崎 アイル


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ep.01 佐々木シロウは、逃げられない


 ――昔から人と話すのが苦手だった。


 いわゆる人見知りってやつだ。


 身体は小柄で、運動は苦手。


 要領は悪いし、愛想も良くない。


 そんな奴が学校という名の社会にでるとどうなるか?


 決まってる。


 ()()()()()


 小学校のクラスメイトたちから要領が悪いことをからかわれた。


 ちょっとした『いじり』が、やがて『イジメ』となる。

  

 掃除当番や、クラスの雑用を押し付けられ。


 学校帰りでは、ランドセルの荷物持ちをやらされる。


 対等な友人はできず、クラス全員がこちらを見下してくる。


 その頃は学校へ行くのが毎日憂鬱だった。

 

 正直、小学生時代のことはあまり思い出したくない。


 中学に入ると住所によって学区が変わり、知らない面子が増える。


 ……勿論、知っているやつもいるが。 


 なるべく大人しく、目立たないようにしていると僕を虐めていた連中も興味を失ったようだった。


 部活や恋愛など他のことに興味を持って僕のことなど忘れてしまったのだろう。

 

 それが何よりうれしかった。


 だけど。

 

 


 ――如月(きさらぎ)リカ




 この女だけは、中学に入っても僕にしつこく絡んできた。 


 小学校の時は、クラスのボス的な存在で。

 中学に入っても、陽キャグループのリーダー格として君臨していた。

 

 中学一年にして化粧を覚え、二年の時にはピアスと髪を脱色。


 一言で言えば、ギャルだ。


 古い漫画で知った言葉だとヤンキーというやつかもしれない。

 僕のような陰キャの天敵。


「ねぇ、シロ。ジュース買ってきてー」

「……お金足りないんだけど」


「足りない分は、あんたが奢ってよ」

「…………う、うん」  

 僕は逆らえず言うことを聞くしかない。


 僕の名前は――佐々木シロウ。

 

 名前がシロウだからシロ。


 小学校の時に付けられた僕のあだ名だ。


 まるで犬みたいな嫌なあだ名。


 言い出したのは、如月リカ(このおんな)だった気がする。


「ねぇ、ノート写しといて」


「私の荷物運んでよ、シロ」


「喉乾いた~。ジュース買ってきてよ」


 中学では、如月リカの下僕(ペット)のような扱いだった。


 いや、実際に「こいつ私の犬だから」とみんなの前で言われていた。


 屈辱だった。


 あの女の専用の下僕(ペット)だったので、小学校の時よりは虐められる機会は減った。


 が、惨めさは増えた。


 思春期の男が、女の子に下僕のように扱われて嬉しいはずがない。


 中学三年になると、受験が迫ってくる。


 僕は知り合いのいない学校へ行きたかった。


 だから親に頼み込んで有名な塾へ行かせてもらい必死で勉強した。


 そのかいあって偏差値が高く、家から遠い高校へ無事に合格できた。


 この高校なら知り合いはきっといない。


 万が一居たとしても、頭の良い高校でわざわざ虐めなんて馬鹿な真似をするやつはいない。



 ……そう思っていた。



 

 ◇4月の入学式◇




 僕は新しい校舎を少しワクワクしながら歩いていた。


 ここで新しい自分に生まれ変わるんだ! と高ぶる気持ちで胸いっぱいだった。

 

 しかし――



「あら、佐々木? 同じ高校だったのね」



「…………き、如月さん?」

 びくりと身体が震える。


 そんな……一番出会いたくない相手と再会してしまった。


 まさか同じ高校だったなんて。


(終わった……僕の高校生活)


 目の前が真っ暗になった。


 高校デビュー、とまでいかなくてもせめて普通の高校生活が送りたかっただけなのに。


「佐々木ってどこのクラス?」 

「Aクラス……だよ」


「へえ! じゃあ、()()()()()。よろしくね」

 ニヤリと笑う如月さんに顔を見て、僕は獅子(ライオン)に睨まれた小兎(こうさぎ)のように震え上がった。


 景色がぐにゃりと歪んだ。


 その日の記憶は、ほとんど残っていない。




 ――高校入学から約二ヶ月。




(……あれ? 何も起きないぞ)


 てっきり中学の時のようにパシリにされるかと思っていたのだが。


 如月さんからの絡みはほとんどなかった。


 といっても決して、彼女が大人しくなったわけではない。


 Aクラスでもあっという間にカースト上位の地位につき。


 華やかな女子たちのリーダ―となっている。


 クラスには男子の陽キャグループもおり、彼らと遊び歩いて派手に遊んでいるようだ。


 僕に話しかけてくるのは、週に一二回程度。

  

「ねぇ、佐々木。さっきの授業の意味わかった? あの説明ってどういう意味?」

「ちょっと、ノート見せてよ。……やっぱり佐々木って文字綺麗ね」


「あの先生の授業、分かりにくいのよね……そう思わない? ……ふぅん、頭いいわね」

 授業についての雑談ばかりだった。


 中学時代の如月さんの成績は、クラスで真ん中より少し低いくらいだったはずだ。


 都内でも偏差値の高いうちの高校の授業についていくのに苦労しているようだ。


 僕はというと『とある事情』で、小学校の成績は散々だったが。

 中学からは、周りと違う高校に行きたくて必死で勉強をした。

 そのおかげか、特に授業では困っていない。


 とにかく高校でも、如月さんの奴隷になるという悪夢からは逃れられた。


 しかも中学時代のあだ名でも呼ばない。


 なぜか、佐々木という名字を呼んでくる。


 とても平和な高校生活だった。



 ここで少しだけ困ったことになった。



(…………暇だ)



 同じクラスで親しい友達はいない。


 近くの席の男子と、雑談をする程度。


 クラスメイトたちは部活やアルバイトなど精力的に活動している。


 高校生活は始まったばかりだが、すでに恋人同士(カップル)のものもいる。


 皆、青春を謳歌している。


 僕だけが如月さんと同じクラスになってしまった恐怖で、何も行動できてなかった。


 しかし、毎日学校が終わるのと同時に帰宅して授業の復習や予習をするだけの生活。


 少し飽きていた。


(これからどうしようかな……?)


 部活に入るのは……気乗りしない。


 4月には、新入生を歓迎するための部活見学のポスターや看板が至るところにあったものだが、今や六月。


 部活動内には人間関係ができあがっているだろう。


 今更割って入って人間関係を構築するのは億劫だ。


 アルバイト……、はありかもしれない。


 小遣いの足しに自分で稼ぐのは悪くない。


 社会勉強になるだろうし。

 嫌にやったら辞めればいい。


 ちなみに恋愛は……、無理だな。


 そもそも好きな子がいない。


 初恋は、歳の離れた姉。


「大きくなったらお姉ちゃんと結婚する!」

 などとのたまっていたらしい。


 僕がシスコン気味であることは認めるが……流石にこれは黒歴史だ。


 いまだに兄たちにネタにされる。


 その次は小学校の時に泣いているところを慰めてくれた近所のお姉さんだった。


 どうやら僕は年上が好きらしい。


 そのお姉さんには、近所の公園で色々と話を聞いてもらった。

 主に僕がいじめられているのを慰めてもらっただけだが。


「シロウくんは、きっと将来いい男になるよ。お姉さんが保証してあげる☆」

 そう言って優しく話を聞いてくれるお姉さんが好きだった。


 けれど大学に入って、一人暮らしをするということで遠くに行ってしまった。


 それ以来、人を好きになったことはない。



(帰ったら近所でアルバイト募集してないか探してみようかな)


 自席で文庫本をぱらぱらとめくりながら、ぼんやり考えた。


 現在は学校の昼休み。


 昼ご飯は、購買で買ってきたサンドイッチとコーヒー牛乳。


 以前は、如月さんから逃げるために屋上や校庭のベンチで昼休みを過ごしていたが、6月は雨が多い。


 今日も小雨が降っていた。

 僕は教室の隅っこである窓際の席で、雨音を聞きながら読書を楽しんでいた。


 そんな時だった。



「ねぇ、佐々木くん。何読んでるの?」



「!?」

 突然話しかけられた。


 慌てて振り返ると、そちらには長い黒髪で清楚な雰囲気の美女が立っていた。


 クラスメイトだ。

 勿論、名前は知っている。




 ――水無月(みなづき)マイ




 確か社長令嬢で、とんでもないお金持ちだと聞いたことがある。


 それだけではなく……ぱっちりとした大きな瞳に、整った顔とスラリとしたスタイル。

 ひと目で分かるとてつもない美人だ。


 如月さんとは違う意味で、このクラスのカースト上位者。

 勿論のこと、僕のような陰キャとはまったく接点がない。


 が、話しかけられているのに、無視するわけにはいかない。

 何読んでるの? と聞かれたので返す答えは。


「……ノルウェイの森、って本だよ」

 カバーを外して水無月さんに見せる。


 この本は、昔近所のお姉さんが進めてくれた本だ。


 僕の愛読書で今でも時々読み返している。


「へぇ! 村上春樹好きなんだ? 私、読んだことないんだけど、面白い?」

「僕には面白いかな」


「ちょっと見せてー」

「どうぞ」

 文庫本を水無月さんへ渡す。

 彼女はパラパラとページをめくる。


「うーん、難しそう! 佐々木くんは頭良いんだねー」

 ちょっとからかわれているような口調。

 だけど、嫌味な感じはしなかった。


「読書中だったと思うけど……、少しお話できない?」

「いいよ」

 僕と話をして何が楽しいのかわからないが、断る理由はない。


 なんせ彼女はクラスの中心人物の一人だ。

 逆らっていいことはない。


 水無月さんとの会話は、僕が一方的に質問されっぱなしだった。


「部活動やってないの?」とか

「休日何してるの?」とか。

「好きな食べ物ってなに?」なんてことまで聞かれた。

「先週末って何してたの?」

「最寄り駅ってどこ?」


 えらく細かいことまで聞かれた。


 これ何の取り調べ?


 ただ、威圧的な感じではなく本当に知りたくて聞いている、という感じで僕は快く答えた。

 

 そして、なにより水無月さんはとてつもなく可愛い。

 その一点だけでも、会話をするのは楽しい。


 気がつくと、昼休みがそろそろ終わろうかという時間になっていた。


 会話を切り上げなきゃ。

 でも、なんて言えばいいだろうと迷っていると。


「佐々木くんって面白いね」

 なんてことを水無月さんが言ってきた。

 しゃべってるのは、ほとんど彼女のほうなんだけど。


「もっと話したいから、佐々木くんのLIME(ライム)のID教えてもらえないかな……?」

 ここでずっとニコニコしていた水無月さんが、少しだけ感情を見せた。 


 おずおずとこちらを伺うような。


 まるでこれが本題だった、かのように。


 ま、気のせいだと思うけど。


「いいよ」

 僕は迷わず水無月さんとコミュニケーションアプリLIME(ライム)を交換した。


「やったー!」

 水無月さんが、笑顔を見せる。

 僕なんかとLIMEできて喜ぶ理由はわからない。


 水無月さんは、僕とLIMEを交換したら満足したように自分の席へ戻っていった。

 僕は軽い緊張感から、解放された。


 

 ――この時は、クラスメイトの一人が僕たちの会話を聞いていたことに気づかなかった。




 ◇




 キーンコーンカーンコーン……



 終業のチャイムが響く。

 教室内が一気にざわつき始める。


(帰るか)

 いつものように一人で教室を出る。


 本屋にでも寄ろうかなとぼんやり考えながら廊下に出た時。



「ねぇ、待ってよ」

 



 後ろから呼ばれた時、身体の芯から震えた。


 ここ最近聞いてなかった声。


 しかし、小学校時代から何度も聞かされた口調。


 相手が誰なのか。


 振り返りたくない。


 だけど、振り返るしか無い。


 僕がゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは…………。


 明るい茶髪にツリ目の大きな瞳。


 スラリとした体型は、モデルのようだ。


 普通にしているだけなのに、少し睨んでいるようなその強い眼力に僕は怯んだ。


 

「…………き、如月さん」



 小学校時代からのイジメっ子が、僕の真正面に立っていた。

 


「ちょっと、()()()()()」 



 どうやら平和な高校生活になったと思っていたのは、僕の勘違いだったらしい。


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― 新着の感想 ―
待ちに待った、先生の新作を読みましたが、これからの話に期待します。 最近流行りの現実の高校を舞台にした、WEB小説原作のあるライトノベルでは、『いじめは犯罪』をメインテーマにしたものがあります。 先…
ペット・・・なんて甘美な響き。 楽しみにしてます
ふう、顔貸しての言葉に思わずジャンルを確認してしまった。 物理的に奪われる事はなさそうだね(≧▽≦)
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