第44話 ぷてろすてぃりすと!
更新、遅くなって申し訳ありません
本日、元の世界へ帰るための手掛かりを求めて王都探索を開始した。手始めにミアが持っていたリバーシと呼ばれるボードゲームを買った店をエミリーから聞き出し、調査に乗り出したのだ。
王城から真っ直ぐ伸びる大通りにその販売店はあった。かなり有名な玩具屋のようで、中は客でごった返していた。実際かなり繁盛しているのだろう。話を聞こうと手が空いている店員を探したが、どれも客相手に軽快なトークを展開していて声を掛けられなかった。
せっかく勇気を振り絞りこんなところにまで来たのだが、コミュ障の俺は諦めて帰ることにした。
ニートだから時間はたっぷりあるのだ。焦らずまた来れば良い。
時刻は夕方。
玩具屋から数分歩き、大通りから外れた裏路地を進んでいる。
「今日はしょうがない、また今度だ今度。時間は腐るほどある。それより夕食何かな……」
この世界に馴染んできたのか、毎回ご飯が楽しみでしかたない。暇があればインターネットに接続し、常に新しい情報を得ては楽しんでいた、数ヶ月前では考えられないことだ。
エミリーが作る夕食が楽しみで帰る足も速くなる。
注釈。暇と言ったが、暇じゃ無い時はもちろんscoをプレイしている時だ。
裏路地から少し広い通りに出るというところで、背後に気配を感じた。だが、魔物のような殺気というか、敵意というものが感じられなかったのでそのまま歩くことにし、目線だけで相手を確認しようと決めた。
瞬間、後ろから首に腕を回される。俺は咄嗟のことで反応出来ない。
「さぁーくぅーやぁークン!」
「うわっ!」
まさかいきなり身体に触れてくるとは思わず、小さく悲鳴を上げてしまう。
それに女性特有の柔らかい身体が押し付けられて無碍に払うことも出来ない。この明るい声と人懐っこい笑みの女性、それは。
「び、びっくりしましたよリーゼさん。それになんだかアルコールの香りが……」
「うへへー! たまたま酒の肴……いやいや、かわい子ちゃん発見!」
何故かカップルのように腕を組んでくるリーゼ。
彼女とは巨大な魔物討伐の時以来だ。一ヶ月ぶりなのだが、エミリーから間接的に話は聞いていたのでそこまで久しぶりという気はしない。もしや、コミュ障引きこもりが改善の兆しが見え始めているのか。以前ならこんな気軽に話すことは出来なかっただろう。
「しゃーっ朔夜クン! ついて来い、こっちだ!」
まだ日が出ている内から赤ら顔のリーゼに腕を取られ、無理矢理連行される。
「え、あの! ちょっ、何処へ!? って! 力強くないですか!?」
『大丈夫! 大丈夫!』と言いながら強引に引っ張るリーゼの力は想像以上に強く、まるで万力に腕を絞められているかのようだった。力ずくで外せないこともなさそうだが、女性で、しかも酔っ払っているリーゼに怪我をさせたくは無いので、俺は黙って彼女に身を任せることにした。
「なんでコイツがいんのよリーゼ!」
リーゼに連れられ向かった先は、こじんまりとした飲み屋だった。表通りとは反対にあるので、客自体少なく、正直経営状態が心配になるくらいだ。これから夜にかけて客が増える可能性もあるが。
入口からは見えない奥のスペースに個室があり、そこではプテロスティリスのメンバーが揃って酒を飲んでいた。
このパーティーの長であるクラリッサはすでに酩酊状態で、レータとレーネはお澄まし顔でかなりの量のアルコールを摂取していた。
「まぁまぁ、ボス、いいじゃないですか。風に当たってたら、たまたま見つけたんで声掛けたんですよ。そしたら、あはははっは、ちゃっかりついてきたんですよ! あははっ」
そう言って俺の肩を叩くリーゼ。普段盾で仲間を守っているのは伊達じゃない。力が入っていて痛い。もしこれが元の世界と同じ肉体強度だったら脱臼するレベルだ。
大切なことだが、俺は無理矢理引っ張ってこられただけだ。こんな酔っ払いに自分から付いていく訳が無い。リーゼは酒で頭がどうにかなっている。
「ふーん、自分からねぇ。そこまでして参加しかったのならしょうがないわね。女将!」
クラリッサが叫んですぐ、個室の扉を開けて女性が現れる。
「失礼します。いかがなさいましたか?」
「椅子を一つお願い。それと料理に酒よ!」
女将と呼ばれた女性は頷くと、微笑みを返す。
「あら、他の方が来るのも珍しいですね」
そう言って扉を開けたままいなくなり、少ししてから椅子を持ってくる女将。テーブルは丸い形をしており、上座にクラリッサが座っている。リーゼはクラリッサの横に座り、俺はリーゼの隣へ座った。そして向かい側にレータとレーネだ。
女将は人がいい笑顔を浮かべ退室する。
ここは彼女たちプテロスティリスが贔屓にしている店なのだろう。女将との距離感は近く、店の構造についても把握しているのだろうとリーゼを見ていて思った。
「あの、皆さんはいつもここで飲んでるんですか?」
テーブルを挟んだ向こう側のレータとレーネ、隣のリーゼとクラリッサを見て話し掛ける。
「はぁっ!? いっつも飲んだくれてるって!?」
俺の些細な質問にブチギレるクラリッサ。世間話程度に振った話題なのだが、全く通じずびっくりする。酒を飲んだ状態では異常なまでの齟齬をきたすようだ。
「あははははは、ボス、あははははっ」
リーゼは意図を理解しているようだが、クラリッサに何も言わない。それどころか、心配になるくらい笑っている。
この人は笑い上戸なのだと、ここで理解した。
レータとレーネはハイペースで酒を煽る。無視というか、俺の声が聞こえていないみたいだ。
「いや、あの……何でもないです」
クラリッサが怖くて黙ってしまう。この前は言い返せていたが、酒乱モードだと俺が喋る度に怒鳴られてしまいそうで躊躇してしまうのだ。
「まぁまぁボス。ここでは時々飲んでるんだよ朔夜クン。ダンジョンに潜る前の決起や打ち上げとかでね!」
「うるさいリーゼ! いいからエミリー連れて来なさいよエミリー!!」
プテロスティリスは時々この店を利用しているのか。
「そうなんですね。じゃあまたダンジョンへ行くんですか」
「いや、もう終えたよ。昨日戻って来たんだ。あはは、だから今週は休みなのだー」
『イェイ!』という声と共に小さくガッツポーズをするリーゼ。
「エミリーは! エミリェー!?」
それにしてもクラリッサはエミリーの名を呼んでばかりでうるさい。リーゼも止めないあたり、普段からエミリー好きアピールはしているものだと推測される。
そこに扉をノックする音が響く。
「失礼します。こちらがエールと蜂蜜酒。ワインを果汁で割ったものと、フリッツなどのつまめる料理です」
女将はテーブルの上に料理と酒を並べると、即座に退席する。
「ここの料理はどれも絶品なんだ! 朔夜クンも食べてねー」
ソーセージやエビとタコのマリネ、ジャガイモのスープに浸った牛肉、フリッツと呼ばれるフライドポテトにサワークリームのようなものが乗った食べ物は見ているだけでも美味しそうだ。
「これも、飲んで、うまい」
「ブドウの、あまーい、飲み物」
レータとレーネは無表情ながらも、グラスに飲み物を注いで差し出してくれる。
「あ、ありがとうございます」
スープに浮かぶゴロゴロとした牛肉を切って食べると、口いっぱいに肉汁が広がる。柔らかくて美味しい。そこに、肉がくどくならないようにマリネを口に含む。シャキシャキしてさっぱりとした歯応えだ。
「ああエミリー……って、何勝手に食べてるのよ!」
最後にクリームをたっぷり塗ったフリッツを食べる。現代のファストフードみたいだ。馴染みのある味で美味しい。
「んー、ほんと美味しいですね! それにこのジュースも!」
ブドウの酸味と甘みのあるジュースもとても美味しい。
「それは、良かった」
「これも、おいしいから、飲んで」
「あははは、こっちの魚料理も美味しいですぞ! 朔夜クン!」
「無視するなってば!!」
美味しい料理を食べて満足する俺は、この先に地獄が待っていることに気が付かないのだった。




