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近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN  作者: あのワタナベ
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なんでも屋の小細工

 通販会社の人事ファイルを盗む。

 重役やら開発やらは堅いがセキュリティ部門はもっと堅い。しかしその隙間を突いて命令系統の人間の情報だけを抜く。

 メールデータや端末の履歴から関係を洗う。誰が連絡して誰がそれに返事をするか。時系列で上下関係、情報の流れが見える。そのネットワークを外部に再構築する。そうすれば「ハブ」が見えてくる。人事も総務も営業も開発も企画も中心になる人間が必ずいる。命令系統とは別の価値基準で上位の人物だ。

 それらの情報を片っ端からAIにぶち込む。人間には分からないロジックでそれらを整理したデータが吐き出される。

 ターゲットは用心棒に最新技術をぶちこむことを決めた奴とそれの管理、運用をしていた人間。



 敵通信の盗聴と破壊工作。情報戦での基礎の基礎だ。

 通信を直接傍受は無理でも、その敵部隊が所属している組織の別部門、別ルータや通信機器に脆弱性が一つや二つはある。それを踏み台に侵入経路を構築する。

 例の通販会社は倉庫の在庫管理用センサー、そのアクセスポイントが弱い。特定周波数の電波通信で割り込まないといけないが、管理用ポートに穴がある。ゼロデイですらない仕様ミス。それに他の設定ミスが重なって踏み台を構成できる。楽勝とはいかないが特定手順を重ねて管理権限を得る。ひどくめんどくさいが部分的な権限を得ることを重ねてさらに上の権限に。


 933Mhzのローカルエリア通信。貨物についた個別のID番号をセンサーが読み取る目的のため通信速度は比較的遅い。が、標準的なプロトコルを採用していたので既知の脆弱性を突ける。センサー系の情報収集だけが目的のネットワークだからかアップデートやセキュアな新製品への置き換えが後手後手に回っていた。

 メーカー提供のパッチで一発、すべてを書き換えは可能だ。だがアップデートして設定が書き換わったり初期設定が違っていたりして現場でトラブルが出ました、なんてのは誰であれイヤなのだ。大企業だからこそ検証なしでパッチを当てるなんて気軽なことはできない。動かなくなる、今まで問題がでなかった機材がエラーを吐くというのをひどく嫌う。その結果としての現状維持。

 これが機密情報を扱う端末であれば予算が潤沢。予備機があるからさっさとアップデートをかけて様子をみる。だがこれはそうではない。各地に多数設置している機材だからか後回しになっていた。

 踏み台にはちょうどいい。一般市民が使う家庭用ルータをBotNetに使うようなものだ。


「どれ、進行具合は?」

 端末の過去ログをスクロール。実行されたコマンドとそれに対する反応がずらりと並ぶ。

「OK、管理部門はrootまでいけた。あとは部長さんの名前でつつくだけ、と」


 ひとりごちていると。後ろから声がかかる。

「戻ったぞ。グロック三丁に、もう三丁分のパーツ類が到着だ。ARー15は別送だとよ。ARピストル本体2丁に換装用ロングバレル1、ストックとかの細かいパーツがバラ(・・)で届く予定だ」


 用心棒が帰ってきたらしい。


「おう、お疲れさん。まさか全部手に入るとはな」


「なんだよ、あるかどうか分からないもんを買いに行かせてたのかよ」


 愚痴が飛んでくる。


「仕方ねえだろ。ヤバいもんなんだからふっかけられること前提で多めに注文を言っておいたんだから。まさか全部通るとはな。ちきしょう。ちょっと予算オーバーだぜ……そうそう拠点に増員だ」


 と言って後ろの棚を顎で示す。


「どーもー、新人でーす」

 合成音声が端末から流れる。

「……エンジェルパック? それともルビコン帰り?」

 冗談が出る程度には落ち着いた反応だ。丁稚のほうはビビってしばらく近づきさえしなかったのに。

「まあ似たようなもんよ。余ってたジャーヘッドを遠隔義体にしてる最中だから、外装ができたらそっちを使うわ」

「声の感じと喋り方から女性扱いでいいんだな?」

「そうね。本体の方は機能を失ってるけど」


 ……さっそく軽口を叩くくらいには馴染んでやがる。そう問うと。


「完全義体化した警備員もいたからな。そっちの身体の方が仕事には向いてるって言ってたやつが」


 そういうもんなのかね。


「こっちとしては腫れ物に触るような扱いじゃなくて気が楽よ。これからよろしく」

「どうも。ところで事情は聞いてるのか? 言っちゃなんだが割とヤバい立ち位置だぞ?」

「こいつの元職場と揉めてる真っ最中だからな。そろそろヒシイが出てきてくれりゃいいんだが」


 ちょっとだけボヤきたくなった。


「そういやうちのケツモチになってるんだっけか」

「おまえの体のメンテもやってもらっただろ。あとは企業間抗争に持って行くタイミングを計ってるところだよ」


 と言っていると。端末の表示があわただしくなる。


「おお、ちょうど通販企業のメッセージサーバに侵入できたぞ」


「メッセージ? そんなものどうするの? 企業脅迫や株価操作なんて大手の仕手戦屋が出てくるからリスクの割にアガリを掠め盗られるから流行らないわよ?」

 当然の疑問ではある。なにせ説明してないからな。

「やりとりのヘッダーだけコピーしてるんだよ。どういう流れで情報が流れてるのか解析する」

「ふん?」

 二人ともピンときていないようだ。

「いつメッセージが飛んでいつどこの部署が動いたか分かれば親玉が誰か分かるのさ」


 これで分かれ。分からないならそれで別に構わないが。


「俺らが行動したタイミングとあいつらが動いたタイミングとメッセのタイミングで命令系統の上位にいる奴や現場の奴を割り出すのか?」


「まあそんなところだ」

「ふーん」

 ミスエンジェルパックは興味がないらしい。

「戦闘中にジャミング仕掛けたりしたけど、それも参考になるのか?」

「そうだ。あの時は天の目(衛星)に監視させてただろ。あれの映像とタイムスタンプを照らし合わせれば個別に誰が喋ってたかも分かるだろうよ」


 ついでにあの時、内部にいた潜入屋のログもあるから開発部の人間も誰が誰かタグづけ(・・・・)できるってわけだ。

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― 新着の感想 ―
ご無沙汰しております。 そして「正規のルート」の脆弱性、あるある過ぎて笑えませんなぁ(白目)。 多分よく分からずにツールを使って命令している連中もいるだろうから、足取りはきっちり残ってそう。 ……………
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