企業の企画屋
相手が一匹狼ならそいつを殺せば終わりだ。相手が表の組織の兵隊なら指揮官を殺せば終わる。だが。
裏側の組織ならそれは終わりではない。面子が終わらせない。終わらせられない。舐められたらとことん喰い尽くされるのが裏の世界だ。今までイモ引いてどれだけの組織が潰れ、飲み込まれていったか。
負けたのが末端ならば切り捨てた上で相手を殴り返しそれなりのところで手打ちにできる。しかし今回はそうじゃない。かなりのエリートを使った。その上で殴り合いで負けて別の部門でも負けた。これはマズい。
それが他組織に知られれば俺たちは舐められる。つまりエサと見なされる。
相手がそれを吹聴する可能性もある。いやそれ前提で動くべきだ。戦利品を売り込む時に出所不明というわけには行かない。もちろんいろいろな建前や義理に縛られて言えないことにはなっているが。どうしても噂は流れる。戦利品を買った側も技術の癖で嫌でも出所を知ることになる。そのまま転売されれば噂に影がつき、そのうち実体が浮かび上がる。
それはまずい。
実にまずい。
仮にリバースエンジニアリングで自社製品に転用するとなれば次もうちの技術が、さらにはうちの技術者が狙われる。狙いやすいターゲットだと認識されてしまう。
ここで一発派手な花火をあげておかねば。やられたらやり返す。そういうわかりやすいメッセージを残さなければならない。
ボスは苦虫を噛み潰した顔。同期は陰でチャンスを伺っている。手駒はあるが、先の戦闘集団よりは落ちる。変わりに情報戦向けの手練れが育ちつつある。使いつぶしたくはないが今使わなかったらそのまま自分の派閥は空中分解。で、ボスか同期に根こそぎ持って行かれるだろう。
相手は誰だ。そこをまず明確にしなければ。
うちを首になった例の警備員か? それをサポートした情報屋か? 買い取ったライバル会社か?
そのどれであれ、情報と技術の流出は不可避。であればこれ以上は喰われないよう釘を刺さねば。可能なら完全に潰したいが、今となっては手遅れだ。モノが外に出てしまった時点で企業対企業。潰しきるのは不可能だ。リカバーできる範囲はせまいがやらない訳にはいかない。
「うちの企画二課長を呼んでくれ」
端末のモニターに向かってつぶやく。数回のコール後に返答。
「はい、企画二課。カドタです」
「開発部のフジタだ。状況は知ってるよな?」
落ち着いた声を作って語りかける。
「ええ、まあ。……大変だったようで。うちは荒事には慣れてませんよ?」
「分かってるよ」
苛立ちを抑えて続ける。
「情報戦をやりたくないか? コーポ相手じゃなくそこらのチンピラ相手だが、それなりにやる連中を相手に」
「……何をなさるんで?」
「連中のインフラを潰す」
相手が使った名前は知っている。そこから繋がる連中を片っ端から潰していくのだ。多少はあがくだろうが、最後にはブツを売った企業に泣きつくハズだ。そうなったら企業間抗争、自分の手を離れて会社の看板で殴り合い。きっかけとなった分はお叱りを受けるだろうが、元々殴り合いをしている大企業が出てくることだろう。そうなってしまえばいつものこと、の範疇に入る。場合によっては相手を殴る理由ができたと汚名返上の機会となるだろう。
そんな感じのことを自分のミスについてはごまかし、曖昧にしつつ語る。
「開発部は君に借りを作ることになるが……」
利益を匂わせる。
「まあ、そういうことなら若い連中の訓練だと思ってやってみますよ」
乗ってきた。そんなに甘い連中ではなさそうだが。少なくとも企業とのコネがあり、小規模だったとはいえうちの警備部のエリート部隊と10数分間も互角に戦うことができた連中だ。どんな準備をしているか分かったもんじゃない。だがやる気になってくれたようだ。いざとなれば泥を被ってもらおう。
「分かっている範囲で情報は送っておいた。本来は部外秘のデータだ。くれぐれも取り扱いには注意してくれ」
「分かってます。そういうものの取り扱いは本職ですよ、うちは」
焦りがにじみ出て言い過ぎた。ちょっと気分を害したか? マズかったかと後悔しかけたが。
「分析から企画、情報戦まで。本職ならではって所を見ててください。戦い方はこっちで決めてもよろしいですかね?」
プライドを煽るいいきっかけとなったようだ。
「すべて任せるよ」




