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近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN  作者: あのワタナベ
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情報屋と潜入屋


「おう、タザワ会はどうだった?」


 だれもいないように見える部屋。独り言には大きすぎる声で質問を投げる。


「あそこはあいかわらずゴタゴタしてるねぇ」


 部屋の隅に落ちた影からヌラリと浮かび上がる人影。


「まあ座りな。なにか飲むか?」

「いや、自前のがあるから」


 そう言って影は懐からフラスク型ペットボトルを出す。

 パキッという小気味よい音とともに炭酸の放出音。

 透明な液体をあおり、一息つく。


「さて、データは既にアップしたんだけれど。後金(あときん)をもらってないから受け取りに来たよ」

「こっちもごたついててな。ネット送金で良ければすぐに送れたんだが。お前さん現物のほうがいいって言ってたろ。ニューイェン硬貨を準備するのに手間取った」

「額面しっかりもらえればそれでいいさ」


 影はそのまま立って様子を見ている。自分からは動かない。

 よく見ると、そのシルエットがジワジワと形を変え、常に一定ではない。唯一、顔の位置が変わらないところを見ると、身長は変えられないらしい。

 その顔も、位置が変わらないだけで目鼻立ちや虹彩(こうさい)の色は常に変化しつづけ、特徴を見いだすことも記憶することも難しい。


「あいもかわらず落ち着かない格好をしてるね」

「モダンズスタイルさ。テック好きのマニアから素材を買って、技術屋に仕立ててもらったんだ。人と会うときは便利なんだよ」

「全裸で強盗をするよりはなんぼかマシ、って感じだな。目立ってしょうがねえ」

「潜入するときはそれらしい格好をするさ。TPOはわきまえてるつもりだよ、私」


 ほう、と納得したのかしていないのかよく分からない声を出して情報屋がうなずく。

 トランクボックスを引き寄せ、テーブルに載せる。ロックに手を当ててなにか(・・・)をすると電子音が響き、蓋がゆっくり開く。

 中にはシュリンクされたニューイェン硬貨とドル硬貨(シルバー)の束。


「いくらって言ってたっけ? 三千? 五千?」

「前三千の成功報酬に七千。情報の価値で上乗せアリって話だぁね」

「うん、それなりの値段で売れたから五千乗せて一万二千でどうだい?」

「……ずいぶん太っ腹だねぇ。なにかあるのかい?」

「また仕事を頼むかもしれん。今度はヤクザじゃなくて企業かどっかにコネつなぎの仕事だ」


 揺らぐ影がなにかを考えるようなそぶり。


「それは私の仕事とはちょっと違うかな」

「売り込みたいものがある、という方向から話を持っていって欲しい」

「ふうん、相手はどこ? モノは何?」

「まだ確定の話じゃない。決まったら詳細は知らせるが、たぶん表に出してない試作品の現物かそれの情報をひとまとめ」

「情報の売り買いならあんたのほうが専門だろうに」

「現物が足生やして歩き回ってるんだ。分析を相手に任せることになるだろう。データならともかくもう俺の仕事の範囲じゃねえ」


 ふたたびボトルを口に運び。


「そういうことなら。売り先に目星はついてるのかい?」

「すくなくとも出所ははっきりしてるから、そこ以外だな」

「何系の(ブツ)? それによって売り先が変わる」

「ポリ、ミリタリ、セキュリティ、PMSCs。そこらへんの現場向け。細部は知らん」

「じゃあいくつかピックアップしておいて。そこに顔をつなぐためのそれらしいIDも」

「準備中だ。今週中には用意できるし、GOかNoGOかも決まるだろ」


 決まったら連絡を。そう言ったか言わないかのうちに影が背景へと溶け込み、陽炎(かげろう)のような揺らめきとともに消え去る。

 技術では消しきれない影が移動していってから数十秒。息を吐く。


「ああ、落ち着かねえ」



 センサーの反応もほとんど無い影。それとの会合の録画を見返す。

 拡大(エンハンス)拡大(エンハンス)輪郭強調(エンファシス)

 やっぱり。画像の(ゆが)みを前後フレームと比較してやっと分かる。


 侵入屋(グレイマン)、やっぱり銃をこっちに向けてやがったな。


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