始末屋と情報屋と
小娘の名前一つ知らない、それに気づいたのはチンピラを箱詰めして情報屋と落ち合う段になってからだった。
必要ならこれが済んでから聞けばいい。
そう思いながらクルマを転がす。今時珍しい非自動運転車だ。通常はレースくらいにしか使われない。一応、オートモードもついているが俺は好きじゃない。勝手に動くのは自分の心臓くらいで十分だ。
倉庫街に車を止めるとキーのスイッチでロックをかけて歩き出す。
物音一つしない。うち捨てられて久しい地域だ。今日はいい天気だってのに。日が落ちるまでしばらくある。散歩にゃいい時間だ。
コンテナ倉庫の一つ、ボロいドアをノックして解錠を待つ。
フィーンという軽いギア音とともに朽ちかけたようなカメラがこちらを向く。
ガコンと重い音が響きドアのデッドボルトが動いた。
「邪魔するぞ」
そう断りながらドアの中に入る。乾いた青色のLEDが薄暗く通路を照らす。複数のコンテナを無理やりつないで作ったストレージルーム。内部は迷路のようだ。
積もった砂ぼこりに新しい足跡をスタンプしながら奥に進む。案内代わりの足跡が半透明のターポリンカーテンに消えている。その向こうに人影。
緊張。
情報屋が待っているはずだ。
こちらの存在を確認したようにツヤを失った声。
「ヨザキ組の話だったな?」
問いただすというより確認の声だ。
「ミハマのバックがヨザキ組ってんならそうだ」
詳しいことは知らない。だから情報を買いに来た。
「オーケィ、入りな」
カーテンをかき分けながら部屋の中に入る。
「よう、始末屋の。ミハマのバックはヨザキじゃねえ。タザワ会が正解だ」
「なんのテストなんだよ?」
周りを見るとスマートタレットが入り口に向かって設置してあった。
「念のための本人確認と性格診断。おまえさんがどんな人間か知らねえからな」
「盗聴防止はそっちが仕込んでくれただろ。ここに来るのは俺だけなんじゃないのか」
「いつでも用心して、しすぎるって事はないだろ」
ため息一つ。
「なんでもいいよ。詳しいことがぜんぜんなんでな。内情から画を描いたやつが誰なのかまで教えてくれ。向こうの兵力も」
「概要はこうだ……。っとまて。まだ代金をもらってねえな」
「現金でここまで運ぶのは面倒だ。車に積んである。手付けならここに」
そういってジッパーをあけたバッグを床に投げる。
転がり出すニューイェン硬貨のシュリンク。
「好きに確認してくれ。タバコ、吸ってもいいか?」
「構わん。12ゲージを積んだタレットが狙ってるからな?」
「下手なことはしねえよ」
そう言って適当な椅子の埃を払い、背負ったバッグを椅子の脇に置くと座る。ポケットからシワになったパッケージと金属のライターを取り出す。
立ち上る煙をぼうっと眺めた。
「つまり暴走した若いのが独断で動いたんだな?」
「おかげで上は大騒ぎだ。始末をどうするかでゴタゴタしてて抗争どころじゃなくなった」
「なら殺しの件は素人の仕事か」
「ところがそう事は簡単じゃない。娘の父親は殺された男じゃないんだ」
「娘が遺産相続した訳じゃない?」
「いや、実子ってことになってる。なってるが本当の父親は若頭なんだよ」
「やっかいなんてもんじゃねえな……。見張ってたアイツはチンピラじゃなかったのか」
「見張り?」
「こいつだ」
端末で撮影した写真を情報屋に見せる。
「こいつは確か、……ちょっとまて」
手元の端末でこちらの画面を読ませる。
「若頭のところの一人だ」
「なんてこった。道理で何も吐かねえはずだ」
「おい、何をやらかした?」
「親戚に頼まれたチンピラだと思って殴った。今はトランクの中で虫の息だ」
「早めに医者を呼んでやれ。詫びがどうとかじゃない。殺すとマズい」
「そうするよ。ここは電波暗室か?」
「いや、盗聴防止だけだ。四方1kmは無人で電源を持ち込まないと盗波できないけどな」
「医者を呼んでいいか?」
「外に呼ぶならここから通話して構わん。セキュアな回線をつかえ」
「呼ぶのはいつもの闇医者だ。回線もいつもの安全なやつだよ」
クルマの前に立ち尽くす二人。
トレーラーが静かに走ってきて停車する。
「患者さんはどちらで?」
「こいつだ」
トランクをあける。中には顔を腫らした男が呻いていた。
「まだ生きてますね、一応。どう殴ったらこんなになっちゃうんだか。おーい運んでくれ!!」
コンテナから降りてきたスタッフたちに担がれ、そのまま男はトレーラーのコンテナに運び込まれる。
「じゃ、ここで手術しちゃいますね」




