始末屋2
「ゆっくり服を脱いで両手を上げろ」
モニターが載った机の引き出しから銃を取り出して命令する。
「ひっ」
少女は動かない。
「早くしろ」
「そうしたらお薬をくれるんですか?」
「俺はなにも約束しない。いいから服を脱いでワゴンに乗せろ」
別に少女のヌードを拝みたいわけじゃない。盗聴や発信を警戒してるだけだ。いつも通り。ここに誰かを入れるときはいつもやってる。ルーティーンだ。
「そこで今すぐ脱ぐか、そのまま帰るか、どっちがいい?」
「分かりました。脱ぎます!!」
「めんどくせえ。ちゃっちゃと終わらせようや」
ためらいがちに一枚ずつ脱いでいく少女。シルクらしき衣擦れの音。パサッとブラウスがワゴンに乗せられる。次にスカート。少女はすでに下着と靴下、靴だけだ。
意匠を凝らしたブラに手がかかる。そしてためらうようにその手を止める。
目尻に光る物が溜まる。
「続けろ」
あくまで事務的に、ただし高圧的に命令する。
羞恥か屈辱からか。顔が赤い。目尻の光が決壊する。
「続けろ」
本当に面倒くさい。さっさと脱いでスキャンをさせろ。安全を確認できたら服を着させて楽にしてやる。
そう思いながらも口にはしない。記録されている可能性がある。この事務所は盗聴防御はしてあるが、電波的には保護されていない。いちおう一般の住宅ということになっているからだ。
MDMAは用意してある。安定剤もな。相手が死んでいない場合に、落ち着かせる必要がある時に使う。ターゲットを消すときには暴れられちゃ困るんだ。
痕跡をゼロにすることは不可能。だがギリギリまで減らすことはできる。強アルカリで骨まで残さないし、指紋や血液の跡も薬剤で誰が消えたか分からせないことができる。
「脱ぎ、ました……」
少女が鼻をすすりながらワゴンをこちらに押し出す。
こちらに来るまでにスキャンは終わる。電波の痕跡なし。金属反応もほとんどなし。ボタンやホックの類だけか。電波干渉もほとんどないから電子回路が埋め込まれたものも端末以外はなさそうだ。
「手を上げて一秒待て。そうしたらその場で後ろを向け」
安いCTスキャンで異物が埋め込まれていることを確認。同時に顔と指紋を記録する。
「インプラントがあるな? なんだ?」
「端末入力用です……」
それくらいなら問題ないだろう。端末と接続されてなければ構わない。電波も出ていないしな。
ワゴンを押し返し。
「服は着てかまわん」
少女の表情に安堵が浮かぶ。
安心するにはまだ早いんだがな。保険をかけさせてもらおう。
「首にこれをつけろ」
ちょっと厚めの革製チョーカーに見える代物。
少女は躊躇している。そういうプレイではない。発信器がつけられている、遠隔起爆できるリモート爆弾だ。トラブルを起こされたり逃げられたら面倒だからつけるのだ。今から手術で脳爆弾を埋め込む手間も時間もかけられない。
「発信器だ。行方不明になられたら困るからな」
「どこにもいかないです。……行くところなんかないから」
面倒なやつだ。例の家が乗っ取られたとかいうアレか。
少女がゆっくりとチョーカーを首につける。
「その相談は後でしよう。まずこれを飲んで落ち着け」
冷蔵庫をあけ、ペットボトルの水とジュースと炭酸飲料を見比べながら。
「水とオレンジとコーラ、どれがいい?」
「……オレンジジュース」
まだ少女には緊張が見える。オレンジジュースのボトルを渡し。
「とりあえずそこの椅子に座っとけ。あとクスリが欲しいって言ってたな?」
「いただけるんですか!!」
どうやって減薬していくか。そもそもこの少女を預かるのも大変だ。消すか?
ここでクスリを渡すのも、消すのも簡単だ。だが後悔するだろう。
対価の問題じゃない。消すのが少女だから抵抗があるというわけでもない。
信義の問題だ。受けた仕事は少女の保護か始末。だがこの場合の始末は少女を消して終わりってもんでもない。足がつかない状態で満額の対価を受け取るのであれば万全の「始末」をしてこそだ。
中途半端な仕事をして適当な額をもらっても納得できない。俺の中で収まりがつかない。
満足な仕事をしよう。ただそれだけだ。




