8話:告白と彼女
小学校の屋上。
僕とってはそんな場所。
でも、何でここに?
あれが夢、幻ならばここに桜花さんと僕の接点はない。
「・・・・・ここはね。良く夢に出てくる場所なの。」
「夢?」
「うん。そう。満月をここの屋上から眺めるの。」
「・・・・え?」
「小学生の頃なんだけど、定期的に夢を見ていたの。満月をただぼーっと見てる。心を燻る高揚感。そんな夢。」
「・・・・・・・・・」
夢。
夢?
「ある日を境に見なくなったんだ。その夢。」
「そう、なんだ」
「うん。最後に見た夢は今でも覚えてる。少しだけ変わってたから。」
「どんなふうに?」
「その時の夢は、明智君が出てきたんだ。」
なにか、頭の中で繋がっていく感覚。
あれは、でも。僕の見た幻だよな?
「いつものようにぼーっとしてたら、後ろから急に声がしたんだ。」
「・・・・・・・」
「それで私はびっくりして、落ちそうになったの」
「・・・それは、怖いね」
相槌が少し適当になる。ここまで僕の記憶と一致する。不思議な感覚だった。
「でも、落ちそうになった私を捕まえてくれたのが、明智君だった。」
覚えている。腕がちぎれそうに痛かった。
夢だけど、痛かった。
「必死に私を落とさないようにする明智君の顔、かっこよかった!」
かっこよかった!その言葉で舞い上がりそうになる。
色々と夢について考えていた事が吹き飛ぶ。
「はは。でも夢でしょ?」
僕も半信半疑だけど、そう口にした。
「そうだね。血が滲むほど唇を噛み締めた明智君の顔。夢だったからかな?私の理想だって思えるくらい素敵だった」
なんか、不思議な出来事がどうでもよくなってきていた。
心臓がバクバクする。桜花さんに素敵だと言われたのだ。
にやけそうになる顔を手で被って、背ける。
「それでね。その後に見た笑顔が本当に良かったの!私を見て笑った顔!思わずあの時、口を・・・・・・」
桜花さんが、顔を赤くして顔を背ける。
そう。あの時、僕は桜花さんと―――――。
思い出して、頭が沸騰しそうになる。
――――だけど、なんでこんなに僕と見た夢と同じなんだ?
「えへへ!それが私が見た夢!」
そう言って、赤い顔のまま微笑んだ。
「――――っ!そう、なんだ。」
言葉に詰まる。顔が火照る。可愛すぎる。
「小学校でその後は会えなくなってしまったけど。あの日見た夢を鮮明に覚えてる。」
「・・・・うん。」
僕も覚えている。夢なのか。そうでなかったのかは正直わからないけど。
「その後、高校生になって、同じクラスで見かけたときはびっくりした!」
君を追って行ったから。
「それからは、あの日から朝はずっと園芸を手伝ってくれるようになったよね?」
「うん」
ただ、桜花さんといたかった。僕が出せた少しだけの勇気。
「園芸部よりずっと熱心に!そこでね話したりして――――」
彼女の顔を見る。ようやく落ち着いてきた。さっきまでの僕は危なかった。
一生懸命、語る彼女に自然と顔が綻ぶ。
「――――っ!」
ばっと急にうつむいて彼女がしゃがみっ込む。
「うーぅ・・・」
「ど、どうしたの?大丈夫?」
「にゃー。だいじょうび」
「あはは」
いきなり冗談を言う桜花さんに大声で笑ってしまった。こんな時に自虐ネタを使ってくるとは思ってなかった。
、、、ん?
冗談だよな。噛んだわけじゃ、、、、ないよな?
2度あることは3度あるって言うし。でも、桜花さんは一度した失敗は努力して、、、。まあ努力でなんとかなるならいいけど、そうでないのも確かに。
背筋に嫌な汗が出てくる。
もし、噛んだと言うなら、僕は選択肢を間違えた事になる。もしそうなら暫くはまた引きこもりだ。桜花さんを怒らせるとか暫く立ち直れない。ここに来るまで桜花さんは怒っていると思っていた。けど、なんかちょっと違う雰囲気で気が緩んでいたのだ。
こんな簡単に躓くなんて。現実は厳しい。セーブアンドロードがない人生はクソゲーだ。いや!桜花さんがいるのにクソゲーとはどうゆう了見だ!!
だがしかし、この荒む心を癒せる物はあるだろうか?メイドさんの時価製特別パフェ(あーん付き)でももはや、、、。それ程のダメージ。時価製で財布にもダメージ。見事なワンツーパンチ。
、、、、長いか。現実逃避。
だって目の前にプルプルしながら膨れていくチワワな桜花さんがいるのだ。
あら。可愛い。
和んでしまう。癒しはここにあったのか。
「むーーーぅ、、、(♯`3´)」
「ご、ごめん!つい!」
「、、、、、、、理想だって言ったのに」
「え?」
「、、、、、、、素敵だって言ったのに」
「え?」
声が小さくて聞こえないのだ。
桜花さんは、ガサガサとなにかを取り出した。
チョコだ。包みを開けていく。
「な。ちょっ!?」
「、、、、、、、、」
無言で開けていく。細かくビリビリに。
なんで!?女の子がわからない。行動の理屈が読めない!
あずさ?あずさも読めない。けど、不思議ちゃんだ。ちょっと違うだろう。
立ち上がって破った包装紙を投げ捨てる。
細かくなった破片は桜色。
風に乗って舞う。
キラキラしている。綺麗だ。桜のようだ。
桜花さんを包む様を見て思い出す。
入学式の日に再び会えた時の感動を。
思わず見惚れた。
ぼぅっとした僕の口になにか詰め込まれる。
「もが!?」
口に含んで転がす。甘い。
チョコだ。
「時価製本命チョコ。明智君の物よ。ちゃんと食べてね?」
僕の?
驚きで思考に空白が産まれる。
そこに畳み掛けるような鮮やかなワンツーパンチ。
「私は明智君が好きです。付き合って下さい。」
そのパンチは見事に僕の記憶を吹き飛ばした。
なんとかギリ間に合いました、、、;
みつきの時価製本命チョコは誤字ではなく、ヒデの耳に届いた漢字です。
ヒデは時価製って怖いって思いながら、意識を飛ばす予定でしたが、流石にみつき氏のストレートな告白を茶化すのは駄目かと思って、断腸の思いで諦めました。