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あしたへ贈る歌  作者: こいも
30/35

真犯人

 頬に冷たい感触。

 それを感じて一花は目を覚ました。

 しばらく同じ姿勢でいたからか、体の節々が痛い。

 ここはどこだろう?

 辺りを見回すと、錆び付いた機械やビニールシートがかけられた何かの資材が見える。窓ガラスは割れたまま放置してあるところを見ると、どうやらどこかの廃工場のようだ。

 一花は起き上がろうとして、手足が縛られていることに気がついた。

 そうだ。たしか潤平と帰っている時に先生に呼び止められて、その間に車に連れ込まれたのだ。一瞬の出来事で何が何だかわからなかった。車に向かって叫んでいる潤平が見えて、無我夢中で暴れたら何かをあてられて・・・。

 そこから覚えていない。その後ここに連れてこられたのだろう。

「あっ起きた?」

 軽薄な声が一花の思考を遮った。

 見たことある男がこちらを覗き込んでいる。たしか、先週外で絡んできた不良三人組だ。

「いやーごめんなー。あんまり暴れるもんだからさ。」

「どう、して・・・」

 なぜ彼らが自分を攫うのだろう。

 困惑している一花を尻目に、男は後ろの方に向かって声を投げた。

「先輩、ほんとにやっちゃっていいんスか?」

「かわいそーまだ高校生なのに。」

 三人はケラケラと笑う。

「構わないよ。ちょっと痛い目見て写真を撮れば、大人しくなるだろう。」

 そこへ聞き覚えのある声が聞こえた。

 そんな。まさか。

 さっき、潤平を呼び止めていたあの人が、なぜここに?

 信じられない思いで振り向くと、先ほど別れたばかりの人間が、暗い笑みを浮かべて立っていた。

「君が悪いんだよ、樋口さん。さっさと学校から出て行かないから。」

 ひょろっとした体をこちらに屈める。

 科学教師―犬飼義隆がそこに立っていた。










「夏目!」

 道路脇に車を止めると、潤平がかけよってきた。

「悪い、俺が目を離したばっかりに、樋口が・・・!」

「話は後だ。とりあえず後ろに乗れ。」

 助手席に座っていた夏目は、後ろのドアを指し示した。シートベルトをつけたのを確認してから、車を発進させる。

「どこに向かってるんだ?」

「樋口一花が攫われた場所だ。」

 次は左です、という夏目の言葉に、ハンドルを左へ回す。

「わかるのか?場所!」

 潤平の言葉に、夏目はシートベルトを握ったまま答えた。

「こんなこともあろうかと、彼女には式神をつけていた。今はその後を追っている。」

「は?式・・・なんだって?」 

 潤平の困惑の声を背中に、雪春は前方上空を飛ぶ鳥を見た。

 それは、いつぞや助けてくれたカラスだった。どうやら夏目はカラスを通してものを見ることができるらしい。雪春が幸太郎に協力していた理由を知っているのも、その辺りが関係してるのだろう。何だか怖くて詳しくは聞けないが。

 雪春はアクセルを踏んだ。

「三島先生、免許持ってるんですか?」

 運転席に座る雪春に気がついて、潤平は目を丸くした。

「去年、合宿で取って以来、一度も、触っていません。」

「え」

 この車も倉田に頼み込んで貸してくれたものだ。彼は何も聞かずに快諾してくれた。雪春の後ろに立つ夏目を見て顔を青くしていたのは、きっと気のせいだろう。

 雪春はハンドルを右に回した。

 車体が大きく揺れる。

「せ、せんせ・・・今のところ一時停止じゃ」

「だから言っただろう。話は後だと。死にたくなければ黙っていろ。」

 夏目はシートベルトを握ったまま言った。



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