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あしたへ贈る歌  作者: こいも
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学年トップの微笑み

 結局、犯人の心情なんてわかりようもないので現場を見ましょうという話になった。

 朝の捜査会議はなんだったのか。

「やってみたかったんです。」

 そうですか。

 朝のHRが始まるので、現場検証は昼休みに延期された。

 そうして三人が今いるのは、一花が突き落とされた「ふたばホール」の階段の上だった。

 どうして普段は締め切られているホールに入れるのか、雪春はもう聞かなかった。

 世の中には知らない方が幸せでいられることもある。

「こうして見ると、案外工夫がされていますね。」

 夏目は階段にしゃがみこんで思案している。

「工夫って何のですか?」

「怪我をしないための、です。」

 階段の角を指でコンコンと叩く。

「角にはゴムがついています。床も絨毯が敷いてある。手すりだってついている。」

 雪春も習って階段をみた。

 確かに、階段は事故が多い場所だ。たとえ落ちたとしても、怪我を減らすための措置は取らなければならない。

「犯人は、なぜここを選んだのでしょうね。」

「人が多くて、バレにくいと思ったからじゃないのか?」

 幸太郎が思いつく案を言った。

 当日は人が多かった。私服である教師が紛れていてもわからないだろう。

 しかし夏目は納得できないようだった。

「一つ気になることがあります。」

 夏目は口に手をあてながらつぶやいた。

「でも確証はないので、もう一つの現場に行ってみましょう。」







 今度は現場といっても、植木鉢が落とされたのが二年六組か、はたまたその上の五階の英語準備室かわからない。しかし植木鉢自体は二年六組のものだった。教室の後ろに飾っていたのが、気がついたらなくなっていたそうだ。次の日教室で担任が問いただしたが、生徒たちは一様に知らない、と答えた。

 とりあえず三人は先に英語準備室から向かった。

 そこには幸い英語科教師が揃っていた。

 麗しい生徒会長に付き添う雪春を見て、皆一様に不思議そうな顔をしている。

「何だか珍しい組み合わせね。」

 窓際に座っていた前島が代表して言った。

「ちょっとした諸事情がありまして…。」

「ふうん?」

 訝しげな視線を気にもかけず、夏目はどこまでもマイペースに聞いた。

「先生方、お休み中のところ申し訳ありません。一昨日の六限目の後のHRが終わってから、どこで何をしていましたか?」

 まるで刑事のような問い詰め方である。

 教師陣は目を白黒させながらも、一人づつ答えた。

「一昨日…?たしか二年五組で授業だったから、そのままクラスにいたわ。」

 眼鏡を掛けた中年の女性教師、阿部美子あべよしこが答える。彼女は二年五組の担任だ。

「私は野球部を見に、グランドにいたよ。」

 今度は野球部顧問の成田茂雄なりたしげおが答える。

「僕は資料室です。昨日の生活安全講話用の資料を印刷しなくちゃいけなかったので。」

 と雪春と同期の倉田彰純くらたあきよしが言った。

 新人は雑用が多いが、少し頼りない倉田は仕事を押し付けられる機会が特に多かった。

「私は六時間目は授業がなかったから、ずっと職員室にいたわ。」

 最後に前島が答える。彼女は一花のクラスの副担任なので、HRをする必要はない。

 それにしても全員快く答えてくれるものだ。

 この生徒会長には人を従えさせる何かがあるらしい。

 彼は全員の発言に特に何も言わず、静かに聞いていた。

「ちょっと失礼します。」

 夏目は英語準備室の窓から外を覗いた。

 雪春も続く。

 五階となると結構な高さだ。ここから落とされた植木鉢があたったら、一花は本当に怪我では済まなかっただろう。

 あったかもしれない可能性を想像してぞっとし、潤平にもう一度感謝した。

「一体どうしたの?」

 前島が業を煮やしたように聞いてきた。

 いきなり来て事情聴取のようなことをされたら、誰だって気になる。

「先日の植木鉢のことで…。」

「あぁ、樋口さんのこと?彼女も災難ね。」

 前島が納得したように言った。

「あぁ、植木鉢が落ちてきたって話?危ないわよね。」

 阿部は怒りを抑えずに言った。

 それに成田も同意するように頷いた。

「植木鉢は二年六組にあったものだったんだろう?大方、生徒が悪ふざけでもしてたんだろ。今度きつく言っておかないと。」

 そう考えるのが普通だろう。しかし講堂の件を考えると、生徒である可能性はない。

「貴重なお話ありがとうございました。では失礼します。」

 一通り聞けて満足したのか、夏目は一礼して扉に向かう。

 その背へ倉田が声をかけた。

「夏目くん、この間の英語のテスト学年一位でしたね。次も頑張ってくださいね。」

 瞬間、準備室の空気が凍りついた。

 雪春と倉田以外の三人が青ざめたのである。

「お、お前、なんてこと・・・」

「え?」

「・・・先生?」

 夏目がにっこりと笑う。

 しかし目が笑っていなかった。

「それは、僕が一位以外を取る可能性があると言いたいのですか?」

 倉田は哀れなほど怯えて謝り倒した。

 


だんだん話が音楽ものから推理ものへ・・・。ですが(もどき)ということを念頭に置いてお読みください。

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