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あしたへ贈る歌  作者: こいも
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捜査会議

「まずは犯人の目的は何なのか?ということに焦点をおいてみましょうか。」

 夏目は、白いが意外としっかりとした手を口元に当てた。

「まずは外部犯という線は置いておきましょう。キリがなさすぎる。それに、階段突き落とし事件ならまだしも、植木鉢落下事件は外部犯に犯行は不可能です。」

 たしかに。

 最近は安全管理のために、学校への訪問者は厳しくチェックされている。第一、植木鉢を落としたとされる教室や準備室に部外者がいたら流石に目立つだろう。ちなみに二学年の教室がある棟は屋上が閉鎖されているためそこから落としたとも考えられない。

「それから学生の犯行もないですね。」

 夏目は断言した。

 それはそう信じたいが…なぜ?

「階段突き落とし事件の時、一般客が全員退場するまで生徒は動かないように言ってあるからです。

 第一あの中を一人だけ制服姿の生徒が歩いていたら、いくらなんでも気づくでしょう?」

 なるほど。

 夏目は長い指をピンと立てた。

「ケースその①樋口一花を殺すため。理由はわかりませんが、これは行動に表れているでしょう。どちらの事件も、打ちどころが悪ければ死にます。」

 嫌な想像だが、それもたしかだ。

 しかしそうなると、一つの疑問点が浮かび上がってくる。

「そう、手紙です。樋口一花を殺したい人間が、あんな手紙を送っても何の意味もない。警戒されたら殺しにくい。」

 さっきから殺すだの事件だの。言い方が生々しい。

「ケースその②樋口一花への恨みを晴らすため。これもまぁ常軌を逸していますが、ないとは言い切れないですね。しかし最近の恨みではない。」

 なぜなら一花はこの学園に高校から入学しているからだ。しかも学校にくるようになったのは5月に入ってから。まだ数日しかたっていない。

「ケースその③樋口一花への単なるいじめ。学生はありえないとなると…教師ですか。嘆かわしいですが、世間ではそういうこともあります。しかしこれはないでしょう。」

 断言していいんですか。

 思わず生徒のように聞いてしまう。

「いじめは、いじめをする側からすればゲームなんです。いじめが起こっているということを教師に知られたらゲームオーバー。この場合は他の教師にということになりますね。校長なんて、ラスボスもいいとこじゃないですか。」

 そう…いうものですか。

「ちなみに僕は裏ボスです。」

 聞いていません。

「ケースその…」

「ちょっと待ってください。」

 語りだすのを遮られても、夏目は全く嫌な顔をせずに振り向く。

「なんです?」

「なんですって・・・・・・そもそもこの状況がなんですか?」

 円状に並べられた机にホワイトボード。そこには先程まで述べた言葉が流麗な字で書かれている。

 ここは職員会議でも使われる第一会議室だった。一介の生徒が借りられる部屋ではない。

 今朝出勤して音楽準備室に向かう途中に突然現れて、無理やりつれてこられたのだ。

「捜査会議です。」

「それはわかります。どうして私と君が捜査会議をしなくちゃいけないんですか?」

「嫌だなぁ先生、昨日の話をもう忘れたんですか?」

 覚えている。覚えているけども。

「僕と先生で、犯人を捕まえるって約束したじゃないですか。」

「私は了承していません。だいたいこういうことは、教師が考えることで」

「その教師が、犯人かもしれないんですよ?」

 ぐうの音もでない。

「だったら、校長と教頭に」

「あの事なかれ主義の古狸ふるだぬき共が、学校に犯人がいる可能性なんて考えるわけがありません。適当に全校集会でも開いて、最近事故が多いから各自気をつけましょう、という無意味なご高説をのたまって終わりでしょう。」

 事実、植木鉢の件は昨日の朝の職員会議で「下を歩いた生徒に当たりかけたので、管理をしっかりしてください」と言われただけだった。実際大きな事故には至らなかったから当然の措置かもしれないが。と、そこで十分あり得ると頷きかけた頭を慌ててふった。

「口を慎みなさい。」

「第一、彼女は親に言わなかった。」

 夏目は気にもかけず続ける。

 彼女とは、疑いようもなく一花のことだ。

 そう。一花は親に狙われていることを言わなかった。単なる事故だと伝えたらしい。

 手紙のことも、植木鉢のことも、一切触れずに。

 命を落としたかもしれないのに、そこまで親に黙る理由はなんなのだろうか。

「仮に職員会議を開いて、彼女の両親の耳に入ったら?あの神経質な母親のことだ。すぐに学校を訴えて、転校することになるでしょうね。」

「・・・彼女の母親を知っているんですか?」

「通り魔事件で、学校側は何の対応もしないのかとヒステリックにわめいていたのはあの人でしたよ。」

 そのくせ講話には来ませんでしたが、と付け加える。

 雪春は膝の上に乗せた手に力をこめた。

 仮に転校することになっても、一花が安全な場所に行けるならいいとも思う。

 しかし心のどこかでそれを引き止める声がしていた。

「彼女が転校してもいいんですか?」

 まるで雪春の心を読んだかのように静かに言った。

「樋口幸太郎の思いを昇華できないまま。」

 言われた言葉に驚いて、雪春は顔をあげた。

「彼女の兄のことも知っているんですか?」

「もちろん。彼はこの学園の生徒会長でした。」

 思わず幸太郎を見てしまった。

 幸太郎は少し懐かしそうに、そういうこともあったなぁと頭をかいた。

 幸太郎が生徒会長。少し見てみたかった気がする。

「しかし、よく俺のこと知ってるよな。」

「あなたは優秀な生徒会長だったと聞き及んでいますので。こう見えて先輩は敬います。」

 さきほど校長を古狸呼ばわりした人間のセリフとは思えない。

 胡散臭いほど綺麗な仕草で胸に手をあてて述べる夏目に呆れたように目をやり、はたと止まった。

「いま、会話した…?」

 あまりにも自然だったのでつい流してしまった。

 幸太郎も気がついたように目を丸くしている。

 夏目はこちらの驚きも気にせずさらりと答えた。

「見えてますから。」

 あまりのことに言葉が出なくて、雪春と幸太郎は顔を見合わせた。

「僕の家は陰陽師の家系なんです。陰陽道も昔とはかけ離れていますが、一応残っているんですよ。簡単な呪術ならできます。」

「呪術って…」

 この現代に?

「家の書庫にあった禁書を読んだら、できるようになりました。」

 まるでレシピを読んだら料理ができたみたいな軽さで言う。

 雪春は何だかめまいがして額を押さえた。

 そんな陰陽師なんて。呪術なんて。

 幽霊でいっぱいいっぱいだと言うのに。

 ついこの間まで常識と思っていたものが、ころころと坂を転げ落ちていく。

「これは一応バレたらまずいことなので、秘密にしてくださいね?」

 夏目は唇の前に指を立てて微笑む。

 その仕草をみても、もはや微笑ましいとは思えなかった。

「じゃあ…この間会った時も見えて」

「ましたよ。ふよふよ浮いて高いところから見下ろしてくるなんて、天が許しても僕のプライドが許しません。」

 もう言葉もでなかった。

 突如現れた協力者は、とんでもない食わせ物だった。



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