表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

277/297

275話 ディオメシア側の壊れたトップ

広い広い王宮の内部、訓練に使われてる石畳の上には見渡す限りの人間がいた。

同じ防具と武器を携え、ズレもなく整列するその様子は物々しい。


ディオメシア王国の軍人、召集された国民、吸収された他国連合軍、そしてソルディア・ステラディアの兵士たち。


それぞれ、どのような事情があろうとも美しく整列して指揮官が出てくるのを待つ。

その姿は、従順な戦力そのものに見えた。


少しして、彼らを見下ろすように城壁から二人の男が出てきた。

一人は、ずっとこの戦いで動いてきたレオン。

そしてもう一人は、ディオメシアの現王、ディルクレウスであった。


2人とも両肩にフリンジの付いた正装。

そしてディルクレウスの胸元には、黒曜石が光り輝いていた。


城壁の上にいるというのに、ディルクレウスの圧は兵士たちを委縮させる。

彼が視線を兵士らに走らせれば、目が合ったわけでもないのにシャンと背筋を伸ばす。

黒い王は、さながら悪の帝王のようだった。



「皆の者!今日は愚かにも、王に宣戦布告をした卑しき人間どもを退治する日となる!」



レオンの大きな声は、よく通る。

誰もがその内容を聞き逃さないように、逃げられないように、聞こえなかったなどと誰も言い訳せぬように。


レオンは続ける。

堂々と、雄々しく、獅子のごとき獰猛さをその目に宿して。



「本日は俺が指揮を執る!貴様らの上が誰かは知らないが、ディオメシアより上回るものはいない。俺の言葉は、陛下のお言葉と心得よ!!」



張り切っているレオンだが、その目がディルクレウスを見ることはない。

ディルクレウスだって、彼を見ない。

兵たちがどう並んでいるか、どう動くかを予想しているのか。

あるいは何も考えていないのか。


ただただ、強者の風格だけでそこにいた。



「命令を伝える……それはただ一つ!『陛下の敵を殺せ』!!以上!!」



レオンは優秀だった。

ディルクレウスの右腕として軍略にも長ける彼の統率力やカリスマ性は、ここにいかんなく発揮される。


多少おかしい命令でも、彼ならなんとかしてくれるという希望を感じさせるには十分な魅力があった。



宣言を終えて、レオンとディルクレウスは王宮内を歩いていた。

2人とも剣を携え、万全の武装を整えている。


だが、悠然と歩くディルクレウスに比べ、レオンは焦りと喜びに満ちた表情をしていた。

先ほどまでの獅子の司令官とは違い、散歩を待つ犬のよう。


その様子をディルクレウスに見られても、全く意に介していない。

いつもなら針を刺すような鋭い視線も、今はドロリと甘く心なしかレオンの息は上がっていた。



「本当に、いいんですね。ついに、エラの青空のドレスを俺に!?」

「お前は十分働いたからな」

「長かった。ああっ!すべてこの時間のために、エラの物を手にすることだけが俺を生かすすべてで」

「貴様、指示はすべて出したのか」

「はい!配置、攻撃方法、防衛手段、王宮に入らせない守りも万全です!俺がいなくてもきっと兵たちは動く!」



普段の彼であれば、そんなことはしない。

執拗に、執念深く、敵を叩きのめし、搾れるものは搾り取る。

総指揮官として、指示を出した上に自らも現場に赴くのがレオンであった。


それが、待ち望んだものを渡すとディルクレウスに言われただけで全て崩れてしまう。

彼の中で、愛しい女性以上に重要なものなど存在しない。



「ステラディアの王はいいのか。貴様、醜いほどに執着していただろう」

「ああ、肉壁になる位置に置きました。あいつも、あいつに統治された人間もどうでもいい。今ここに来ないということは、逃げ出したんでしょうルシアンは。臆病者だ」

「そうか、なら王宮には誰も入らせるなよ」

「もちろんです。俺とエラの、逢瀬を邪魔させるものか」



この国の行く末を左右する戦い。

だが、王宮の二人は戦場を見ていなかった。


戦力は圧倒的にディオメシア派が多く、軍備は言うまでもない。

総指揮官と、王である彼らが何もしなくても勝ちは見えている。


誰もがそう思っていた。

レオンも、例外なく。



「まずドレスを飾る……前に抱きしめよう。新しい君だ、恨めしいなどうしてその時期に俺たちは出会えなかった?運命のいたずらだろう、死してなお君はなんで俺を離してくれないのか」

「気味の悪い男だ」

「まだですか?一体ドレスをどこに置いた」



ずっと歩いて焦れてきたレオンが声をあげると、ディルクレウスはとある一室の前で足を止めた。

そこは、客室のうちの一つ。

かつて、エラが寝泊まりしていた部屋。


それを知っているレオンの感情も最高潮に達した。

頬を赤く染め、まるで恋人のいる部屋に飛び込むようにディルクレウスを押しのけてノブを回す。



「エラ!!」



レオンの声が、部屋の中に響いた。

部屋の中は、暗い。

カーテンも閉じられ、蝋燭の灯りすらない。


そんなことは気にせずに、レオンは部屋の中を探す。

そして、手探りの中掴んだ。


ドレス生地ではない、もっと滑らかで柔らかい布を。

まるで、服がそのまま立っているような。

誰かの衣服を掴んだような感触。


その直後、暗い部屋の中で低い声が現れる。

ずっと潜んでいた何者かは、レオンとは対照的に冷静だった。



「隙だらけだ」



その直後、扉は閉まった。

ドアの外、ディルクレウスはそれを見届けると、踵を返して歩いていく。

部屋の中で何が起こっていようと、興味がないのだろう。


戦いの前、重要局面を迎えるその時。

王宮側の重要人物は、謎の分断をされた。


これが、後に大きな物語を起こすことになるとは誰も知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ