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274話 私の、罪が始まる

夜が明けていく。


雲が照らされて、その奥にある青空がよく見える。

今日の天気は快晴。

やはり、天気も私の知るとおりのようだ。

絶好の、殺戮日和でしょうか。



「せんせー!みんな準備できたぞー!」

「もう王宮攻めようぜシー先生!」

「楽しみだな。これに勝てば、ついにこの国が変わるかもしれない!」

「変わるんだよ!シー先生も言ってんだから」



皆の集まる広場を通りかかれば、声を掛けられる。

手製なれど、かなりの出来栄えの防具を身に着けた男たちが私に手を振ってくるので、穏やかに振り返した。

何ともおかしなことです。

これから始まるのは、こちら側にも向こう側にも多くの死者が出るだろう戦いだというのに、彼らは笑っている。


正義感に燃えている?

いいや、私が『そういうものだ』と定めてしまったから。


スラムの魔法というものは恐ろしい。

指導者が打倒ディオメシア王を掲げ、民を率いれば一つの生き物のように団結して動くのだから。



「おはようございます。まだ予告した時間の前ですからね、しっかり食べて英気を養ってください」

「でもよ、興奮しちまって!」

「こいつ、昨日の夜からなんだぜ?」

「お前もだろ!ああ、ついに王族を全員ぶっ殺せるんだ!」

「シー先生も嬉しいだろ?」

「ええ。ついに王族をなくせると思うと、眠れませんでしたよ」



嘘ではありません。

正確には、武力を行使せずに平和的に終わらせたかった私と。

多くの血をわざと流させ、国民に『王族はいらない』と支持率を地に落としたい冷徹な私。


頭の中でうるさく戦いあう二人が騒がしくて、いつだって眠れていない。


男たちから目を逸らすと、離れた岩場に見慣れた姿があった。

弓矢を携え、雄々しい体を小さく屈めて、陰に隠れて何かを探している。

子供のころから変わらない探し方の癖を見ると、なんとも心が温まるものです。


彼が探しているものは、おそらく見つかりませんが。



「ジャック、リーダーの貴方が何をしてるんですか」

「先生……いないんだ。昨日の夜からガーネティアが、俺はいるのをちゃんと見たのに」

「ああ、そんなことですか」

「そんなこと!?だって、あいつ戦えないのに。ライラも、ずっとどっか行っちまって、心配じゃねえのかよ」

「彼女なら、ディアーナを連れて逃げましたよ。まさか、一人でやってのけるとはね」



昨日からの異変は、もちろんわかっています。

ですが、大切なことは明日の勝利。


なので、誰も彼女たちのことは気にしていないはずだった。

……だというのに、思いの力は恐ろしい。

まさか、私に昔から従順なジャックが気づいてしまうとは。


あの青の洞窟は、今は私が敵と認識したものは入れないようになっている。

誰がそそのかしたのかは知りませんが、ガーネティアは言うことを聞いていたから敵とは思ってなかったんですがね。



「先生、知ってたのか。知ってて、昨日誰もあいつらを探させなかったのか」

「はい。戦力としてはいてもいなくてもよかったので」

「旗印にするって、だからライラはって……ドレスは!?あれ、なんで用意したんだよ!ガーネティアの誕生日の贈り物なんじゃ」

「『王女の帰還』を演出するためだけです。どうしました?あなたはそんなに細かい男だったでしょうか」



別に王女は戦いが終わってからでいい。

傀儡の王女ですし、本物の王女は一周目でも死ななかったんですから大丈夫でしょう。

偽物の王女は、全くの未知数なので知りませんが。

どちらにせよ、どちらかが生き残ればいい。


そうすれば、この国を掌握するのに問題はないのだから。


なんて、誰にも言っていないのでジャックが怒るのも無理ありませんが。



「先生、あんた最近おかしいよ。そんな冷たい人だったか?」

「おかしいのはあなたです。魔法にムラがあるんでしょうか、従順と反発が交互とは……戦いに支障が出なければいいんですが」

「わけわかんねえこと言うなよ。ライラは、ガーネティアは、大事なスラムの仲間で」

「ライラが好きなのか、ライラの容姿が好きなのかはわかりませんが、戦いの前に女性に現を抜かすと死にますよ」



今必要なのは、私に従順で強い兵。

最も戦力になるジャックがそのようでは、先が思いやられます。


傷ついたような顔をされても、私にはどうしようもない。

恨むなら、私に従順で無かった二人の娘を恨みなさい。



「皆を集めてください。そろそろ出撃しましょう」

「待ってくれよ、まだ話は終わってないのに」

「終わりですよ。目的の前に、今その問題を解決する利点はないですからね」



今日は私の願いが成就する日。

王族を潰し、呪いから解き放つために多くの血を流す日。

そうだ、できるだけ血を流さないように、王家の祝福が効力を失うほどでいいから。


誰のために?

弟の、ガーネティアの……いや……?

私のために、仲間のために。



「私たちを排斥するディオメシアを、血の海にする」



恨むのであれば、呪いを作り出した『何者か』を恨むべきだ。

私は、ただ、王族を……ディオメシアを消し去りたい……。

ずっと虐げ、スラムに追い込み、死んでいった同志たちの無念を晴らして……。



「いけない」



私まで、魔法に飲まれている。

ああ、本当にスラムの魔法は恐ろしい。


見失ってはいけない。

長年のこの地に刻まれた魔法と無念と憎悪を飼いならせ。

何年も、耐えてきたことは今日報われるのだから。



「……やらないと。誰かが、私が」



全ての罪は私にある。

ディルクレウスを止められなかったことも、そのせいでこの戦いが起こることも。

皆に残酷なことをさせてしまうことも、不幸な子供を生んでしまったことも。


責任はとる。終わった後いくらでも。

だから、どこかに神がいるのならどうか聞き届けてほしい。


どうか、私一人だけを裁いてくれ。

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