206話 あたしとコマチは敵じゃない
顔真っ赤にして、額押さえて痛がってる。
ディアーナ……ライラ?もうどっちでもいいか。
この女に、あたしは聞くべきことがある。
多少痛めつけたが、別に後悔してない。
メリーもコマチもなんか怒ってる風だけど、これくらいあたしにとっちゃ痛めつけた内に入らない。
それに、こうでもしないと意識こっちに戻ってこなかっただろ
「おい、ちょうどアンナ王妃のはなしになったから聞くぞ」
「わた、わたくしは何も言わないわ」
「王妃が死ぬ前、お前覚えてるか?二人きりで話したこと」
「忘れたわ」
嘘。
あの日を忘れるわけないだろお前が。
死に際の言葉もちゃんと覚えてるのに、秘密にしてほしいって言ったあの時の会話を忘れるわけねぇ。
あたしは覚えてる。
日が短くて、すぐに夕日が差してたディアーナの部屋。
あの会話で、こいつに忠誠ってやつを誓ったんだ。
「『自分は未来が少し見える。王家の祝福だ』ってお前は言ったんだよ」
「あなたが勝手に祝福って言っただけじゃない」
「ちゃんと覚えてるじゃねえか。そう、あたしの勘違いに当時のお前は乗ったんだ」
あの時あたしはコイツの未来が見える力をそう勘違いした。
小さいころからディオメシアに伝わるおとぎ話のせいで。
『ディオメシアを建国した始祖ディオメシウスは祝福を受けました』
『それは、民のために、みんなのためにと授けられた特別な力』
『それを使って、始祖ディオメシウスは戦いに勝利したのです』
『それから彼の血を継ぐ子供たちも力に目覚め、ディオメシアは繫栄したのです』
それが、まさか未来予知なんかじゃなく「不死の呪い」だなんて誰が思うかよ。
「は、嵌めたわね!?」
「カマかけただけだ。あの日、お前は異変に気付いて話に来たあたしに、未来予知について話した。それを『二人きりの秘密』って口止めまでして」
「アテナ、それは洞窟でも言っていたことですよね。王妃が死ぬ前って」
「ごめんなコマチ、これだけは口出さないでくれ」
あたしの大切な約束。
でも同じくらい、こいつへの疑念になっちまったもの。
あたしはメリーみたいに勘も鋭くない。
コマチみたいに考えて、答えを出すのも複雑なもんはまず無理。
ジーク?あいつは愉快犯で実はキレやすいから論外。
だから簡単なことしかわかんねぇ。
あたしがわかってるのは、ひとつだけだ。
「あの日、あたしはお前の『一番知られたくない何か』に触れちまったんだろ」
「そんなことないわ」
「今嘘ついたな」
「嘘じゃない!」
「肩でも触ればわかる。脈の乱れ、瞳孔の動き、嘘見破るのは得意になったんだ」
女があたしを見た。
ずっと目合わせてたけど、やっとこっちを見た気がする。
戸惑い、焦り、あとはこの状況でも何かを偽ろうとする理性か?
さすが、子供だったのに王女と偽って国を騙した女。
こんな状況でも、本心を出さないで何とかしようってか。
それじゃダメなんだ。
あたしは、本物のこいつが見たい。
「忘れちまったのか?あたしは、お前の専属使用人だぞ」
「わたくしは本物の王女ではないの。そんなもの忘れてしまいなさい」
「嫌だね。あたしが仕えたいのは『お前』だよ、ディアーナだろうがライラだろうがどうでもいい。お前だ」
難しいことは考えたくない。
ただあたしは義理堅いんだ。
そんで、仕えたい相手は王族だからでも、頭がいいからでも、影響力があるからでもない。
そばにいたい相手、背中を預けてもらいたい相手、抱えてるもんがあるならあたしが一緒に抱えたい相手。
赤銅色の髪も、灰色の目も、王女によく似たツラも関係ない。
「あたしは何があっても約束は守る。あたしを、自分が決めたことすら守れない女にする気か」
「バカなの?」
「バカだよ。お前が偽物って知っても、変われないバカだ」
「バカすぎるわよ」
バカバカ言うな。
七年お前のこと待ってたやつらがここに4人もいるんだぞ。
ジークだって殺気立ってるけど、どうあれお前を待ってたんだから。
あたしが女の肩から手を離すと、瞬時に同じ場所をコマチが掴む。
強制的に目が合うもんな、これなら。
「自分も!自分もです。裏カジノを救ってくださった、自分を救ってくださったのはディアーナ様あなたです!」
「もうわかった、わかったから揺らさないでちょうだい」
「わかっていません!いいですか!?アンナ王妃からのご縁とはいえジークの野蛮人と自分は違います。何があってもあなたの味方で、手足であなたのためのこの頭脳!」
「うっ、目回る」
「自分がいくら頭がよくともあなた様の思考がわかるわけがないのです!話してくださらないと何も分からない愚鈍な頭脳です!」
熱くなったコマチが前後に女……もうディアーナでいいや。めちゃくちゃ揺らしている。
一応やめろよって言ったけど聞いちゃいねぇ。
いつも冷静だけど、感情爆発したときのコマチってなんか幼いんだな……
初めて知ったわ。ん?ジークと口げんかしてるときも結構幼いか。
何年経ったって、その人の全部なんかわかるわけねぇってことだ。
それを知り続けるのが仲間ってもんだろ。
「コマチやめろ、本気で目回してる」
「も、申し訳ございませんディアーナ様!ついやりすぎてしまい…!」
「でも、これでわかっただろ。コマチはお前が偽物ってわかってもジークみたいに手出さなかったし、あたしは自分の心に従ったまで。さっさと全部話して、楽になろうぜ」
こいつは、ディアーナは頑固だし、勝手に決めて勝手に動かす。
自分勝手って言ってもいい、その勝手にあたしたち4人はずっと振り回されてきた。
今回だって変わらない。
いや、今回くらいあたしたちが勝手したっていいだろ。
あたしの言葉がどれだけ届いたかなんてのは知らねぇ。
でも言いたいことは言った、あとはどう返事が来るかだ。




