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201話 俺が見ていた者と怒り

灰色の瞳が俺を見る。

アンナと同じ色の髪、七年前から変わらない勝気で自信のある言葉。


(これが、これが偽物。アンナの面影すら見えるというのに)


ディアーナ王女が一人でスラムに行った日から成り代わっているのであれば、十年近く前。

メリー、アテナ、コマチが専属使用人に指名されたのは、その後だとコマチからも事前に共有されている。


俺とコマチで、考察は立てていました。

ですが、本当に成り代わっていたとわかるとこんなにも心が変わるとは。


言葉はほぼ入ってこなかった。

脳裏に浮かぶのは、アンナの顔。


幼いころから死ぬまで、俺が見続けてきた家族同然のアンナ。

同じ戦を経験して、同盟のためにディオメシアに嫁いだ彼女を影から支えてきたのも俺。


アンナの父上である宰相殿に頼まれたとはいえ、庭師として潜入するのはなかなか骨が折れた。

娘のディアーナだって、俺は見てきたはずだったのに。


頼れる人間がいなかった王宮内で、不愛想なディルクレウスに手を焼きながら裏カジノの救済をしたときも。

娘のディアーナが横柄で高飛車になることに、窘めながらも愛おしんでいたことも。


アンナが死んだあと、あいつの石のエメラルドを使った髪飾りを誰が使った?

あの偽物が使った。

あれをつけていいのは、本物のディアーナだけだろう。

お前がアンナの威光を勝手に使っていいわけがない!


(俺は、俺は……!)


思考が途切れた。

その瞬間、俺は手を伸ばす。

偽物に向かって、死んでも構わないほどの力を拳に込めて。



バキ、ボキュッ



「だから、いい大人が八つ当たりしてんじゃねぇよ」



アテナの声がした。

なんともグロテスクな音がした。


ああ、この音はなんでしたっけ?

この、痛みは



「ッ…!!腕っ」

「メリー!この城に医者いるか?」

「何したのアテナ!」



脳にやっと痛みが到達して、初めて自分の状況が見えました。

偽物の盾になっていたアテナが、俺の右腕をへし折った。

彼女の腕が一瞬で巻き付いて、過剰なほどの力を込めたのは明白だ。


実にひどく、手ひどく。


(骨突き出てるじゃないですか。とんだ腕力め)


どうりで骨と肉の壊れる音がしたはずだ。

この壊し方だって、俺がアテナに教えたものだったのだから。



「はっ……これくらい俺なら大した傷ではないですよ?」

「やせ我慢すんなし。お前が言ったんじゃねーか『この方法は本当に痛くてきついので、戦意喪失には最適』ってよ」

「あなた達はろくな事を覚えませんね、月光国よりも野蛮じゃないですか……メリー、手伝いますよ」

「ありがとコマチちゃん。でも私は大丈夫だよ、ディアーナ様とお話してきてくれる?」



メリーが俺の胴体に抱き着いて、偽物から引き離す。

4人の中で一番非力なはずのメリーに力づくで動かされるなんて、信じられません。

踏ん張ろうと足に力を入れれば、激痛と共に膝から力が抜けて床に落ちそうになる。



「ジークさん動いちゃだめ!足も怪我してるんだから」

「足、もか?」

「部屋出ましょう。医者に見せないと」



何とかズルズルと俺の腹に腕を回して引きずるメリー。

俺の様子を見つつも、コマチを呼びよせて話をするアテナ。

コマチは冷静に聞きつつ、偽物を見つめる。


視線を自身の足に移せば、右膝から下があらぬ方向に曲がっていた。

ご丁寧に関節を壊しに来るとは。

確かに、膝が生きていれば動けるということはアテナなら知っていること。


(やられた。あの腕を折った一瞬で俺の利き足も潰したのか)


左足ならばまだやりようがあったのに、本気で俺を動けなくするとは。



「俺を、排除する気ですか?仲間だというのに」

「生憎ですが、自分たちはこの方に話を聞きたいだけなのです。大人しくできないジークは、出ていってもらった方がいいかと」

「そうですよジークさん、私ちゃんとついてますからお医者さんに見せましょう?」

「甘いですね、俺がいつまでもメリーに優しいとでも?彼女の非力さに強く出られるわけがないとでも思っているのですか」

「いつもの皮肉とブラックジョークと煽りできてない時点で、余裕ないんだろ。黙って出ていけよ」



まさか味方だと思っていた3人から排除されてしまうとは。


でも、ダメですよ。

俺がここにいないでどうするんだ。

俺に頼ることも多かった3人が、こんな頭脳犯を尋問できるわけがない。

何とかしてこの場に留まらなくては。


余裕?いつもの調子ではない?

知ったことか。


そうだ。

多少の無茶ですがメリーの鳩尾に肘を入れて気絶させよう。

左足だけですが跳躍して、コマチの顎を打って気絶させよう。

アテナが難関ですが、ボロボロの右腕を捨てる覚悟でフェイントに使えば



「ジークはここにいてほしい。お願いできないかしら」

「ディアーナ様、それは危険です。あなたを害そうとしたのですよ」

「ありがとうコマチ。あなたはわたくしが偽物の王女だとわかっているのに、心配してくれるのね」



偽物が、声を発した。

まさかの、ここにいろという言葉を。


もちろん、メリーは戸惑いながら立ち止まった。

当然俺も止まる。

今この女が言ったのは、自分の命を狙っていた男に再度チャンスを与えると同義だというのに。



「頭がおかしいんですか、偽物。実は死にたがりだったとは恐れ入りました」

「おかしくないわ。あなた達は、本当にわたくしの話を聞く権利がある。その上で、決めてほしいからよ」

「何をです」

「わたくしの正体を知ったあなた達の、この先の未来を」



未来。

この女は、やけに自信がある。

話をすべて信じるわけがない。

それは専属使用人全員心得ていることだろう。


もう、あの頃の無条件に言うことを聞く俺達ではないのだから。



「わたくしが成り代わった経緯も、アンナ王妃と交わした約束も、あの日あなたたちを囮にして逃げたことも、この後わたくしがしようとしていることも。聞きたいのであれば座りなさい」

「で、でもジークさんの怪我ひどくて」

「座ります。メリー、介助をお願いしますよ」

「手負いであれば退室してほしいのですが。あなたがいると話が逸れて仕方ありませんから」

「じゃ、基本はコマチが聞けばいい。あたしらは黙ってる」



着々と進んでいく空間。

今度こそ、偽物王女が俺達かつての仲間に告白する舞台が整った。

一度ぶち壊したのは俺ですけど、それはご愛嬌。


さぁ、言えばいい。

俺達の不信を拭えるというのであれば。


ちらとテーブルのクッキーに目をやる。

丸いクッキーが、何も知らないような顔をしてそこにあった。

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