看板に偽りのない「悪役」令嬢
異世界転生って、思ったほどチートできないな。
3人の子どもたちに囲まれて、幸せいっぱい!
知育玩具も好評だし、抱っこもハグもたくさんやった。王宮ママ生活楽しい! ……かったんだけどね。
男の人の「生涯、君だけを愛する」って、プロポーズの定型文なんだね。
私たちの子なのに、夫は顔も見せないで仕事、仕事、仕事……。挙げ句の果てに側妃って。浮気じゃん。結婚した意味、あるのかな。
「君が王太子妃の仕事をしないなら、実務能力のある側妃を娶って何が悪い?」
ってさあ。
正論だよ? 正論だけど、なら、執務だけ、仕事だけの側妃でいいじゃん?!
子どもまで作る必要、ある?!
ぶち切れたら、ため息を吐かれたわ。
「子を成せなかった側妃が、どれほど悲惨な晩年を送るか、知らない君ではなかろうに」
そんなのおかしいって、あなたが言ったのに。
ふたりで頑張れば、つらい思いをする側妃がいなくなるって、他でもないユージーンが言ったのに!
感情的な母親を見せるのは忍びないから、子どもたちを侍女に任せて、離宮の庭を歩いた。
今の季節は、巴旦杏の花が満開だ。白くて、ひらひらしていて綺麗だな。桜みたい。桜、かあ。帰りたいなあ。日本に。
「仕事しないって、私だって仕事したくないわけじゃないのに。ワンオペ育児は誰のせいよ」
ぶつぶつつぶやいていたら、辺境にいたころの乳母が木陰に控えていた。
この人はフツーのおばさんにしか見えないんだけど、すっごい敏腕の隠密なのよ。だから、辺境でイリーナが何をしているか、見張ってもらっていたの。
リーンハルト、わけわかんないこと言ってたからね。
「僕はイリーナ嬢を保護しただけで、断じて不適切な関係ではない」って。そんなの、断罪王子のテンプレじゃない。
ふたりきりの愛の巣を与えられたら、やりまくる一択でしょ。
淫乱イリーナちゃんには、第一王子だけじゃ不足でしょうけど。でも、大丈夫だよ! 王都に皆のお家を建ててあげたから!
学生時代はイヤだったけど、子どもを3人産んだ今なら、ちょっとだけなら覗いてみたいかな☆なーんてね!
「コレットさん!」
「ご報告にあがりました。イリーナ・オルコットは現在、女子修道院附属病院に入院しております」
「入院……?」
やだ、イリーナがんばりすぎ?
いくら包帯が似合うからって、あんまり痛そうなのはイヤだなあ。次からは加減して欲しいわ。
「夜間錯乱型の夢遊病です。目覚めた時に錯乱した記憶はありません。日中も情緒不安が見られます。オズボーン様が訪れた際、誘拐を仄めかされて発症したと思われます」
「待って! 私、そんなの初めて聞いたわ! 」
「男子禁制の修道院ならともかく。病院では、貴女の手引きで誘拐されかねませんから」
「誘拐なんて人聞きの悪い! オズボーンやフォードたちに毎日イリーナに会いたいって切望されて、苦しげで、切ないくらいで……あんなに一途な愛だもの。叶えてあげたいじゃない」
「正気でございますか?」
ずっと親切だった、「お嬢様の発想は面白いですわね」と笑ってくれたコレットさんが、冷たい……。
なんで?
あの子は逆ハーレムで幸せになるタイプの子でしょう?
リーンハルトと婚約者だった頃は、気持ち悪かったし、本当にイヤだったけど。
あの断罪劇でも、オズボーンに突き飛ばされて、みんなからすごまれて、本当に怖かったけど。でも、許してあげたよ! 和解もした!
今は、みんなで幸せになってほしい一択だよ???
「む、夢遊病なんて、あの子の場合は欲求不満が原因でしょう? 男性をあてがえば回復されるのではなくて?」
「は?」
ピキと、空気が凍る気配がした。




