鬼畜でビンゴ(天敵限定)
コレットさんの目が、完全に座っている。
「お嬢様……いえ、妃殿下は、人の心を持たぬ鬼畜生でいらっしゃったのですね」
その言葉は、私ではなく、いつのまにか私の背後にいた、かつての第一王子に向けられていた。
リーンハルト。
刑期が明けてユージーンに拾ってもらったみたいで、文官の制服を着ている。以前はユージーンよりも白くて細かったけど、今は逆だ。
「リーン……」
「オズボーンたちに居場所を教えたのは、やはり君だったんだね」
「ひ、独り占めできなくなった、逆恨みですの?!」
「独り占めもなにも、リーンハルト様は未だ清らかな王子でございますよ?」
「コレット、言い方」
「天地に恥じることのない、大変立派な童貞でございます」
「……悪化してるし」
呆れているけど、なんとなく親しげなやりとりに、私は愕然とした。
「な……なんで?」
「君こそ、どうして僕がイリーナを手籠にするのが前提なのさ?」
「してたじゃないの! 生徒会室に連れ込んで、毎日毎日……!!!」
「証拠は? 常駐していた役員たちからの証言は?」
そんなかわいそうなこと……できないよ。
身分が低くて、王子様には逆らえない立場の子たちだもん。
女の子もいたし。傷つけたくないからそっとしておいてって、ユージーンに頼んだくらいだもの。
「複数の強姦魔に狙われてる女の子を保護しただけで浮気確定って、ありえなくない? 今更どーでもいいけど、あの時点で浮気してたのは君の方だったよな」
待って。浮気なんか……してない。
あれは本気だもん。浮気じゃないもん。
そんなこと言うリーンハルトなんか、リーンハルトじゃない!
リーンハルト王子は、博愛の皮をかぶった鬼畜で。
全ての人を平等に殺したい殺人鬼で。
唯一執着したイリーナは、気を失うまで愛して、気を失っても愛して、最終的には食べちゃいたい(物理)な変態……が、童貞?
そうか、全部が全部「巴旦杏の葬列」じゃないものね。
私はリーンハルトに恋をしなかったし、断罪されたのも私じゃなくてリーンハルトとイリーナだったし。
でも、そうなると淫交罪は……不可能ね。
私に対する不敬はーーーリーンハルトとイリーナが潔白ならば、成立しない。国家反逆罪もだ……って…………。あれ……?!
気づけば、リーンハルトも冷たい目をしていた。
ユージーンとよく似た、怒りと諦観が混じりあった紫水晶の瞳。冷たくて美しい、王族の証……。
「イリーナを物理的に傷つけたのは、君の言う逆ハーレムの男たちだったけど。調べてみると、彼らを焚きつけたのは、どうも君っぽいんだよね」
「そんなこと……してないっ!」
「ユージーンから聞いて不思議に思ってたんだ。君は、密室で行われたはずの暴行に、詳しすぎるんだよ」
そんなの、ゲームをやり込んだだけだもん。覗きなんかしてないわよ。声が聞こえる場所にいたことくらいは、あるけど……。それだけだもん。それに暴行じゃなくて、同意でしょ? お願いしますって泣いてたし。
「結論から言うと、君は儚げな見目の女性が酷い暴行を受けることに興奮を覚える、異常性愛者だ。未来の王政を仕切る甥たちの教育に悪い。……捕らえよ」
その言葉を合図に、護衛の女性騎士たちが私を取り囲んだ。
「私は王太子妃よ! そんなことさせないわ!」
「王太子の許可は得ている」
「え?! な……なんで?!」
「僕の手で、君を断罪したかったんだ」
やたら綺麗な笑顔。逆光がキラキラして、巴旦杏の花びらが舞っていて。亜麻色の髪が風になびいて。なんで、今更ゲームのスチルと同じなの?!
「妃殿下はお疲れだ。休ませて差し上げろ。傷付けるなよ? 冤罪をかけた女の、追体験をさせるまでは、な」
「は!」
なんで? この男は、もう王族じゃないのに。なんで命令権が!?
「いやあ!!!」
叫んでも、叫んでも、誰も聞いてくれない。
助けてくれない。
囚われて、連行されていく。
助けて! ユージーン、助けて!!!
嘘でしょう? 嘘だよね? まさかだけどイリーナ、ずっとずっと、こんな気持ちだったの?
そんなことないよね? イリーナはそれに依存しなきゃ、生きられない子なんだから!
リーンハルトが笑っている。
笑顔で激怒している……?
怖い。逃げたい。イリーナと同じことをされるくらいなら、死んじゃいたい。憎いなら殺してよ! お願いだから!!!




