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瑠樺の言葉を合図に、雅緋と芽衣子が七尾に向かって飛び出した。
そして、二人の背後に隠れるようにして瑠樺と千波が続く。もちろん、それは七尾と戦うためではない。彼が護ろうとする妹の梢のもとにたどり着くためだ。
七尾の動きは素早かった。
一瞬で雅緋と芽衣子の一撃を躱すと、その動きのままに瑠樺たちの正面に飛び込んでくる。だが、それを雅緋は読んでいたかのように、すぐに空を切った拳で石段を叩きその勢いで自らの身体をクルリと廻して再び七尾の前に立ちはだかった。そして、七尾の打ち出した錫杖の一振りを雅緋が蹴りで止める。
その雅緋の動きに助けられ、瑠樺は七尾の脇をすり抜けた。錫杖を返してさらに瑠樺を追いかけだそうとするところに蓮華が手刀を打ち込む。
流の動きが止まり、瑠樺と千波は一気に走り抜けていく。背後では、雅緋たちの気がぶつかり合っているのが感じられる。
走りながらも、やはり雅緋たちの戦いが気になっていた。それは千波も同じらしく、チラチラと後ろを振り返る。
それに気づいて、瑠樺が声をかける。
「大丈夫ですよ。芽衣子さんは強いです。雅緋さんは言うまでもありませんよ」
「わ、わかってます。でも、ここで力は使えないんですよ」
「それでもあの二人なら大丈夫」
千波を安心させるように発した言葉ではあるが、それを自分でも信じている。
いつもぶつかり合っているように見える二人だが、芯のところではお互いを信じているように感じる。
むしろ、今、大切なのは自分と千波が目的を確実に達成することだ。
林に囲まれた参道を抜けていく。
総門をくぐり抜けると杉木立が続き、その道は真っ直ぐに本堂へと向かっている。
その本堂の脇に小さなお堂が見えた。
瑠樺も千波もそこに向かって走っていく。
いや、初めからそのお堂の存在を知っていたわけではない。瑠樺たちが目指していたのは、今感じている『気』の元だ。
瑠樺たちはそのお堂の前に立った。
間違いない。そのお堂からその『気』は発せられている。
一度、大きく息を吸ってから、瑠樺はお堂の扉を開けた。
薄暗い小さなお堂の中央に、一人の少女がその場に座っていた。
それが七尾梢であることは間違いなかった。
だが、それは奇妙な光景だった。体を縄で縛られ、その縄の数箇所に符が貼られていたのだ。
* * *
七尾梢が二人を睨む。
急激にスゥッと体から力が抜けていくような感覚が襲いかかってくる。
隣に立つ千波の体がふらりとグラつく。
(これは……)
ここに来た時から全体的に感じていたものだ。
その瞬間、瑠樺は理解した。
今、梢の中にある妖かしこそが、七尾の代々受け継がれてきた『七尾の白狐』なのだ。
だが、いったいどうして? 『白狐』は七尾流が継いでいるはずだ。
「あなたが七尾梢さん、流さんの妹さんですね。私たちに戦う意思などありません。話を聞いてください」
瑠樺は梢に声をかけた。
だが、反応はなかった。
瑠樺はお堂のなかへと入り、梢のもとへと駆け寄った。
そして、改めて眼の前の梢の様子を観察する。
そこに意識はなく、ただ、その身は妖かしの気に囚われている。
彼女はおそらく無意識のうちに妖力を使っているのだ。
まずは梢の意識を戻さなければならない。
(真実の羽)
手の中に力をこめて、その力を発動しようとする。だが、その力はたちまち消えていった。
雅緋が言っていたことを思い出した。
その身から発しられた妖力は、梢の中にいる『白狐』に吸い込まれていくのだ。
「どうしますか?」
背後からの千波の問いかけに、瑠樺は少し考えてからーー
「彼女の意識に飛び込みます」
瑠樺のその力は、力を使った相手の意識を目覚めさせるものだ。だが、このままでは全ては『白狐』に力を吸い込まれてしまうだろう。
ならば、直接、自分自身の意識を梢のなかに飛び込ませればいいはずだ。
その手を少女の額へ当てた。
自らの力が強く引き寄せられるのを感じる。
「瑠樺様、危険です。それでは白狐に力を奪われてしまいます」
「大丈夫。私に任せて」
危険は承知している。しかし、今、外で戦っている雅緋や芽衣子のことを考えれば、そんなことを考えている余裕はない。
瑠樺は梢へ意識を集中させた。
意識が彼女のなかに吸い込まれていく。




