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奥州妖かし奇譚 第二部・憑神  作者: けせらせら
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 午後、瑠樺たちは再び龍泉寺を訪ねることにした。

 もう一日伸ばして、雅緋の体力が回復するのを待ちたいと考えていたのだが、雅緋はそれをキッパリと拒絶した。

 参道の手前まではタクシーで向かい、途中から寺へ続く参道を登っていく。

 雅緋は、昨夜のダメージを感じさせない力強い歩みだった。一方で、千波は相変わらず不機嫌そうで口数は少なかった。本来、戦いになるかもしれない場に千波を連れて行くことには抵抗があったのだが、彼女がおとなしく待っていることはないだろうと同行させることにした。

 参道に差し掛かった時、あの力が全体に漂っているのを瑠樺たちは感じ取った。

 瑠樺は一度足を止め、雅緋に声をかけた。

「雅緋さん、お願いがあります」

「何?」

 雅緋は振り返った。

「あの寺にはおそらく七尾流さんと妹の梢さんがいると思われます。流さんが私たちに協力しない理由が梢さんにあるのなら、私たちは梢さんに会わないといけません」

「そうね。だから?」

「雅緋さん、七尾流を止めてもらえますか?」

 それは瑠樺にとって、迷い、考え抜いて発した言葉だった。その思いは雅緋にも通じたらしく、雅緋は少し驚いたように瑠樺の顔を見てーー

「そんなこと当然でしょう。七尾流のことは私がなんとかするわ」と言った。

「なんとかって? 考えなしに言ってるわけじゃないでしょうね」

 芽衣子がすぐに聞き返す。

「こうするのよ」

 雅緋は左手をサッとあげた。

 それを見て、瑠樺も芽衣子も驚きの表情を浮かべた。

 外観は決して何も起こっていない。だが、その腕の中に強い妖気が渦巻き、力となっていることが瑠樺たちにはハッキリと感じられる。

「これってーー」

「驚く必要はないわ。これは沙羅の力よ」

「でも沙羅さんの力じゃ――」

「そうよ。ここで妖かしの力を使おうとすれば打ち消されてしまう。でも、それは表に出した時のことよ。体の中でなら吸い込まれない」

 皆、なるほどと頷いた。だがーー

「でも、彼は強いわよ。肉体強化だけで勝てると思っているの?」

 芽衣子の指摘に雅緋は小さく舌打ちした。

「うるさいわね」

「蓮華さんには雅緋さんのサポートお願いします」

 これは初めから決めていたことだ。どんなに雅緋が嫌がったとしても、昨夜のことを考えれば雅緋一人だけを戦わせることは出来ない。そして、雅緋は決してそれに本気で抗うことはしないはずだ。

「瑠樺さん、私だけじゃ無理だというの?」

「いいえ、私は二人のことを信じているだけです」

 やはり雅緋はそれ以上何も反論しようとはしなかった。千波が居ても立ってもいられないという顔をして口を開く。

「私も一緒にーー」

「ダメよ!」

 雅緋と芽衣子が声を合わせて千波を叱る。その迫力にさすがの千波も体をすくめて黙るしかなかった。

「千波さんは私と一緒に来てください」

 瑠樺の言葉に、千波は何も言わずに頷いた。

 これで準備は整った。

 もちろん万全とは言えない。芽衣子の言うように不安はある。

 それでも今はこの方法しか見つからない。そして、それはここにいる全員が同じように考えていることだ。

 参道を進んでいくと、当たり前のように石段の中段に七尾流の姿があった。

 石段に座っていた流は瑠樺たちの姿を見てゆっくりと立ち上がった。

「また来たのか」

「当然でしょう」

 すでに雅緋は戦う気満々の様子だ。「昨夜のようにはいかないわよ」

「同じ結果が繰り返されるだけだ」

「どうかしらね」

 前に進み出ようとする雅緋の動きを止めるかのように瑠樺が前に出た。

「七尾さん、考え直してもらえませんか? 私たちはあなたと戦いたいわけじゃないんです」

「そう言われても既に戦闘態勢の人もいるようだけど」

 七尾流は瑠樺の背後で今にも飛びかかりそうな勢いの雅緋に視線を向けながら言った。「それに協力は出来ないと言ったはずだ。ボクは考えを変える気はないよ」

「どうしてですか?」

「これ以上、話すつもりはない」

「妹さんのことが原因ですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、七尾流の表情が変わった。

「お前たちは何を知っているんだ?」

「あなたのご両親と話をしてきました。心配されてましたよ」

「なるほどね。でも、あの人たちは何も知らない。あの人たちには関係のないことだ」

 その流の考えに、瑠樺は反感を覚えた。

「関係ない? 家族じゃありませんか」

「今、七尾の当主はこの俺だ」

「誤解しないでください。私達はあなたの妹さんのことも救いたいと考えています」

「お前たちの力は借りない」

「なら、どうするつもりですか? 妹さんに憑いた妖かしをどうするつもりですか?」

 半ばハッタリであったが、それでも流には効果があったようだ。

「俺の妹だ。俺がなんとかする」

 流はそう言って錫杖を振った。シャンという音と共に流の中の妖気が強くなっていく。

 その姿を見て、瑠樺を押しのけるように雅緋が前に出る。

「これ以上話しても無駄よ。この男の石頭はかち割るしかないのよ」

 確かにこれ以上、何を言っても七尾流が考えを変えるとは思えない。

 瑠樺は覚悟を決めーー

「お願いします」と小さく言った。


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