15
あやのと別れ、さっきと同じように窓から部屋に戻る。
まだ雅緋と芽衣子は戻っていないようだ。
瑠樺は再び布団に潜り込むと目を閉じて、あやのとの会話を思い出す。彼女が言っていた『敵』とは何者なのだろう?
なぜか、草薙響のことを思い出していた。
それでも不思議に彼が敵だとは思えない。だが、彼もまたその『敵』に関わっているように感じるのはなぜだろう。あの後、あやのに草薙響について訊いてみたが、答えは当然のように『わからない』だった。それが本当なのかどうかはわからない。
あやのはもっといろいろなことを隠しているに違いない。そして、それは自分が『和彩』を名乗らないからというのも理由の一つなのかもしれない。
和彩の名。
六花の一族。
気持ちがどこかモヤモヤしている。
30分も過ぎただろうか。
ウトウトしていると、大きな物音と共にドアが開いた。
ハッとして飛び起きてすぐに明かりをつけると、部屋の入り口に蓮華芽衣子と雅緋の姿があった。
蓮華が、気を失った雅緋を背負っている。
その姿はただならぬものではなかった。カーディガンはあちこちが破れ、土で汚れ、ワンピースも一部が切れて肌が晒されている。
「雅緋さん!」
「大丈夫です」
そう言って蓮華は部屋に入ってくるとゆっくりと雅緋を布団の上におろした。瑠樺はその雅緋の横に座り、その顔を覗き込む。雅緋の意識は無いようだ。
「どうしたんですか?」
「大丈夫じゃ。今は眠っておるだけじゃから」
その声に見上げると、蓮華の背後に透き通るような姿で沙羅が姿を見せている。
「眠ってる?」
「七尾の小僧にやられたのじゃ。力を吸われ、力を失ったから眠ったということじゃ」
「どういうこと?」
「勝手に七尾流と戦いに行ったんですよ」と芽衣子が説明をする。
「気づかなかったわ」
「術をかけたんだと思います。傀儡の術ならばそのくらいは出来ます」
「蓮華さんは?」
「私に術は効かなかったのでしょう。私は彼女が出ていくことに気がついたので追いかけました。雅緋さんは、七尾流の持つ力を試したいと言って、私に隠れているように言って自分だけで戦おうとしたんです。私がついていながら、こんなことになってしまい申し訳ありません」
「我の主はただでさえ妖力が少ないのでな、それを吸われてほとんど動けなくなってしまったのじゃ。そこをこの娘がやって来たので我は一時的に憑いただけじゃ。おかげでなんとか逃げ出すことが出来た」
沙羅は腕を組んだような状態で、芽衣子の背後から雅緋を見下ろしている。
「じゃ、今、沙羅さんは蓮華さんに憑いているんですか? 蓮華さんは大丈夫なんですか?」
「この娘なら大丈夫じゃ。なんと言っても『蓮華』じゃからな。強いわけではないが命には満ちておる」
「だからといっていつまで憑いているつもり?」
「大丈夫じゃ。すぐに戻る」
そう言うと沙羅はスッと姿を消した。
「お嬢様、こんなことになってしまい、どうお詫びすればいいか」
「そんな蓮華さんが責任を感じる必要なんてありません」
「しかし、私がもっとしっかりしていればーー」
「そんなーー」
その時、奥の布団で眠っていた千波がムクリと起き上がった。
「うるさぁーーーい! 眠れないじゃないかぁ!」
そう一言だけ叫ぶと、再び千波はバタリを倒れてスヤスヤと寝息をたてはじめた。




