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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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群馬県安中市。食堂のもつ煮定食。

「日本初のアプト式を導入」

 タスッタさんは説明パネルを小声で読みあげる。

 なんだかよくわからないけど、当時は画期的なことだったらしい。

 タスッタさんは今、JR横川駅のほど近くにある、「鉄道文化むら」という施設を見学しているところだった。

 とはいえ、ここが目的地ということではなく、例によってこの近くの別の場所に所用があり、時間が空いたのでそのついでに立ち寄ってみたわけであったが。

 そのパネルによると、この鉄道文化むらで詳しく解説されている旧碓氷線という路線は、平成九年に廃線となっていた。

 つまりは、一時期はかなり利用されて賑やかな様子だったが、時代が経つにつれて需要がなくなり、ついには廃棄されるに至った、ということなのだろうな、と、タスッタさんはそう理解をする。

 鉄道に限らず、あらゆる産業には興隆するする時期と、その逆に廃れる時期があり、この旧碓氷線という路線も少し前にその役割を終えた、ということなのだろう。

 この施設は、つまりはすでに役割を終えたインフラについて説明し、後世に語り継ぐための施設といえた。

 そもそもほとんどの産業なり企業なりは必要とされなくなった時点であっさりと忘却されていくことが多い。

 そうして例と比較をすると、このような施設をわざわざ建設して往時の様子を伝えようとする人々が存在しているだけ、この旧碓氷線という路線は恵まれているのかも知れなかった。


 その施設の外に出ると、かなりのどかな光景が広がっている。

 基本的にこのあたりは山辺であり、緑が多く建物が少ない。

 平日ということもあって、前の道にもほとんど車が通っていなかった。

 その道の向こう側に、いかにも田舎の食堂然とした、時代がかった建物が見える。

 数十年の歴史は余裕で持っているのだろう。

 古さよりもむしろ風格さえ感じさせる建物だった。


 タスッタさんは道路を渡ってその食堂へと赴く。

 中に入ると、老婦人の店員さんに、

「どこでも空いている席へどうぞ」

 と案内された。

 床よりも少し高くなった畳敷きの場所に足を伸ばせる穴が掘ってあり、その上にテーブルが置かれている。

 このお店はどうやら、そうした和洋折衷のテーブル席だけ構成されているようだ。

 お冷を持ってきた老婦人の店員さんにメニューを求めると、壁の方を示される。

 どうやらそこにびっしりと貼ってある品書きが、このお店のメニュー代わりであるらしかった。

 品数が豊富すぎて目移りしたタスッタさんは、目の前にいる店員さんに助けを求めることにした。

「なにかお勧めの料理とかありますか?」

「うちでは肉豆腐ともつ煮の定食がよく出ますねえ」

 その二つのうちからならば、と、タスッタさんはもつ煮定食をその場で注文する。

 料理が出てくるまでの間、タスッタさんはさり気なく周囲の様子を観察してみた。

 平日の昼下がりということもあって店内は閑散としており、中には畳の上に横になって仮眠を取っているらしい男性の姿も見える。

 服装から見て、どうやら長距離トラックの運転手らしかった。

 のんびりとしたこのお店では、そうした行為も黙認されているらしい。

 のどかだなあ、と、タスッタさんは思う。


 さほど待つこともなく、先程の老婦人の店員さんがお盆を持ってタスッタさんの元へとやって来た。

 大きめのお皿に盛られた茶色い液体とその上にどっさりと乗った輪切りのネギ。

 それに、お漬物、味噌汁、ご飯とが、お盆の上に乗っている。

 テーブルの上に置かれたお盆の、そうした品々をタスッタさんは確認し、箸を取った。

 まず味噌汁に口をつけて口の中を潤してから、スプーンで茶色い液体、もつ煮を一口食べてみる。

 ドロリとした感触で味噌味であり、かなりよく煮込まれてスープに溶けているのか、もつ以外の具は見当たらなかった。

 しかしその味はかなり複雑で、タスッタさんは、

「これは、かなり長時間に渡って煮込まれたものではないか?」

 と、そんなことを思った。

 いずれにせよ、この濃いめの味つけは、白いご飯によく合う。

 他にはなにもいらないと、そう思うほどに、よく合う。

 試しにタスッタさんはもつ煮をスプーンですくってご飯の上にかけ、その味がよく染み込んだ部分を食べてみる。

 うん、やはり。

 こういうのを、滋味、とでもいうのだろうか。

 ご飯との相性が抜群であり、さらにいえばそれにもつの適度に弾力のある触感が加わって、楽しい。

 素直に、おいしいと思える味わいだった。

 それも、技巧を凝らしたようなおいしさではなく、どちらかといえば素朴で懐かしいような、そんな味わい。

 タスッタさんは一度味噌汁を含んで口の中をリセットしてから、今度は香の物へと箸を伸ばす。

 予想していた通り、こちらも市販のものを切って出しただけではなく、どうやら自家製らしかった。

 もつ煮といい、このお漬物といい、ここは、さり気なく手間をかけた仕事をしているお店のようだ。

 それでいて、値段の方はごくごく普通の、どちらかというと標準よりも安いくらいの値段設定である。

 隠れた名店ですね、ここは。

 と、タスッタさんは心中で一人頷く。

 こんな、人通りが決して多いわけではない場所で、ひっそりと、おそらくは何十年も営業してこの味を伝えているのだろう。

 タスッタさんはそんなお店を偶然見つけることができた幸運に感謝をしつつ、食事を続けた。



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