東京都墨田区。台湾料理店の排骨カレーチャーハン。
あ、降ってきたな、と、タスッタさんは思った。
二、三日ほど前からいきなり気温がさがり、どうにもはっきりとしない天候が続いている。
にも関わらず、この日、タスッタさんは傘などの雨具を持っていなかった。
普段持ち歩いていた折りたたみの傘が折れて破棄してから、これまで新しい物を購入し損ねてきたのである。
そんなことを考えている間にも、雨の方は本降りになってくる。
さてどうしましょうか、とか思いつつ、タスッタさんは周囲を見渡して視界の範囲内にコンビニなどがないかどうか確認したあと、とりあえず近くにあるお店の軒下に逃れることにした。
都内の靖国通り沿い、総武線の錦糸町と両国のちょうど中間くらいの地点だった。
タスッタさんがそのお店の軒下に逃れた途端、ざっと大粒の雨が落ちてくる。
ああ、これは、しばらくここから動けそうもないな、と思いつつ、タスッタさんはスマホを取り出して時刻を確認した。
十七時を少し回ったところだった。
さて、どうしましょうかね、と、思いつつふと振り返ると、そこではじめてタスッタさんが借りていた軒下のお店が飲食店であることに気づいた。
台湾料理店、ですか。
と、タスッタさんは思う。
夕飯には少し早いですけど、入ってしまいましょうかね。
外見もお店の中も、街場の中華料理店然としているお店だった。
場所柄か、お店の壁面にどうやら力士のものであるらしい色紙が何枚もべたべたと貼ってある。
店員さんに「相席でもよろしいですか?」と確認された上で、タスッタさんはすぐにテーブル席へと通された。
このお店はすでにほとんど満席に近い状態であり、また、カウンター席もないらしい。
なんといっても中華のお店ですからね、と、タスッタさんはひとりで頷く。
店員さんがすぐにお冷とメニューを置きに来て、タスッタさんは早速メニューを開いて見た。
なんというか、品数が多過ぎ、なおかつ料理の説明文も詳細になり過ぎて、なんだかかえって見にくくなっているメニューだった。
そのごちゃごちゃとしたメニューの中で、ひときわタスッタさんの目を引いた文字列があった。
え? と思わず見返して、まじまじと見つめてしまう。
排骨カレーチャーハン。
「カレー」と「チャーハン」が同時に存在しているだけでも驚きだというのに、その上に「排骨」までもが乗ってしまっている。
なんという無節操な全部乗せ感。
これで値段は、八百円代か。
普通の、一品料理のお値段だった。
うん、せっかくだし、試しにこれを頼んでみましょうか。
こんもりと盛りあがったチャーハンの上にとろみの少ないカレーが乗っかって、排骨、つまり豚肉を揚げた物までもが乗っている。
ご飯がチャーハンになっている、中華風のカツカレーといったところだった。
この組み合わせならばまずいということはないのだろうが、チャーハンにカレーをかける必然性がまだ実食していないタスッタさんにはどうにも了承できない。
では、実際にいただいてみますか。
タスッタさんはスプーンを手にしてそれをチャーハンの山に突っ込み、まずはカレーがかかったチャーハンを口にしてみた。
カレーのルゥは見た目からもわかるようにスープカレーのようにとろみが少ないタイプであり、うまみが強い。
やはり中華風の味つけになっているというか、鶏ガラスープをベースにして香辛料を効かせている、中華風の感じだった。
しっかりと辛味もあるのだが、それだけが尖って自己主張しているような辛さではなく、しっかり調和が取れている気がする。
そして、チャーハン。
見事に、パラパラで本格的なチャーハンだった。
これだけでも十分にお料理として成立しているだろうに、このチャーハン自体にも、うっすらとカレーの味がついている。
カレー味のチャーハンに、中華風のカレーがかかっているわけだった。
そのルゥとカレー味のチャーハンを同時に食べても、あまりくどく感じない。
そんな、絶妙な味のバランスだった。
むむ、と、タスッタさんは思う。
これって、一見無造作に見えて、調理のレベルがかなり高いのではないでしょうか。
次にタスッタさんは排骨をスプーンの上に乗せて、食べてみる。
表面はパリッと揚がっており、一口噛むとじんわりと油とお肉のうまみが口の中に広がった。
うん、これも、かなりいい感じ。
この排骨だけも、かなり完成している料理といえた。
それでは、と、タスッタさんはその排骨が乗った部分のチャーハンをスプーンで掬って口の中にいれる。
もちろん、その上にはカレーがたっぷり乗っているわけだが、そのカレーとチャーハン、それに排骨を同時に咀嚼してみると、これはこれでまた別種のおいしさが味わえているような気がしてきた。
少なくとも、それぞれのお料理を別個に食べているときとはまた違った種類の趣向を感じる。
これは、うん。
かなり、おいしい。
と、そういってもいい。
それぞれのお料理のおいしさを、単純に足し算しているだけではなく、掛け算になっている。
カレーとチャーハンと、排骨。
この三種類のお料理が、それぞれのおいしさを邪魔せず、引きたて合うような味つけに、周到に設計されているような気がした。
きちんと研究され、考え尽くしたお料理になっているな、と、タスッタさんはそう結論する。
無事に完食してお店の外に出ると、雨はすでに止んでいた。
どうやら、通り雨だったらしい。
そしてお店の外には、順番を待っているお客さんの行列が出来ている。
やっぱり人気のお店なんですね、と、タスッタさんは得心した。
機会があれば他のお料理も試してみたいところであったが、さて今度こちら方面に足を運ぶ機会が訪れるのかどうか。
とにかく、おいしいお店であることは間違いがない。
タスッタさんは行列を作るお客さんの横を歩き、そのお店から遠ざかっていく。




