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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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岡山県総社市。珈琲館の豚生姜焼き定食とコーヒー。

 その日の夕方、といってもまだ日も高く、かなり明るかったが、タスッタさんは岡山県にある総社駅の近くにいた。

 時刻はまだ午後五時まで少しで間があるくらいで、本格的な夕食の時間まではまだ間があるのだが、例によってタスッタさんはお腹が空いている。

 別に早めにいただいてもいいですよね、と、タスッタさんは思う。

 就寝直前に飲食すると消化に悪いとは聞いたことがあるが、早く食べる分にはそうした悪影響はなにもないはずだ。

 この日はいつもと比較してもかなり歩き回ったし、一日の運動量もかなり多めだった。

 うん、やはり、いいですよね、と心中で頷きながらタスッタさんは例によって周囲を見渡して、どこかよさそうなお店を物色しはじめる。


 タスッタさんが目をつけたのは、洋風の建物を模したどこか古風な喫茶店だった。

 看板には、珈琲館とある。

 経験上、こうした古くから営業しているような喫茶店は、軽食や定食類などのフードメニューも充実しがちであるという結論をタスッタさんはすでに得ていた。

 ぶっちゃけたことをいうと、いくら専門店でもコーヒーなどの飲料に特化しただけのお店では、よほどうまくやらなければ長く営業は続けられないのだろうな、ともタスッタさんは予想している。

 とにかく、タスッタさんはそうした古い喫茶店の雰囲気が、決して嫌いではなかった。


 お店に入ると、女性の店員さんが対応して、カウンター席へと案内してくれる。

 店内を見渡してみると、席はかなり埋まっていた。

 きっと、普段から繁盛しているお店なのだろうな、と、タスッタさんは思う。

 店内の空気はコーヒーとそれに煙草の香りが入り混じっていて、それに、やけに天井が高いようにも思えた。

 タスッタさんはいつものようにメニューを開いて、なにかよさそうな食べ物はないかと物色しはじめる。

 予想したとおりに、フードメニューが充実していた。

 サンドイッチやパスタ類の他にも、定食類がかなり多い。

 しかも、ああ。

「十八時半まで、ランチメニューを注文できるのですか」

 タスッタさんは、心の中で感心する。

 その十八時半までまだまだ時間があり、つまりタスッタさんもそのランチメニューを注文できるということだった。

 さて、それでは。

 なにを注文することにしましょうか。

 タスッタさんはいよいよメニューを睨んで本格的に検討をしはじめた。


「イカの生姜焼き定食というのにも心惹かれるものがありますが」

 しばらく検討をした結果、タスッタさんは頼むものを決定する。

「ここはひとつ、オーソドックスに豚の生姜焼き定食で」

 タスッタさんは片手をあげて女性の店員さんを呼び、注文を伝えた。

「定食ですと、お飲物が二百五十円引きになりますが?」

 注文を伝票に記したあと、店員さんはすかさずそう確認してくる。

「それでは、コーヒーをください」

 タスッタさんは、反射的にそう答えていた。

「コーヒーは、食前に持ってきますか?

 それとも食後にしますか?」

「ええと、それでは、食後にお願いします」

 そうしたやり取りのあと、タスッタさんはしばらく待つことになる。

 といっても、ほんの十分程度のこと短い時間であったが。


 ほどなくして、タスッタさんの前に四角いプレートが運ばれてきた。

 ドレッシングがかかった生野菜、パスタサラダ、ハム、漬物、ごはんが、ワンプレートに盛りつけられている。

 ごはんの量が意外に多くて少し驚いた。

 これでは、軽く二百グラムくらいはあるのではないか。

 それとは別に、味噌汁のお椀も来て、こちらにはカマボコ、チクワ、豆腐、ワカメなどの具が入っている。

 プレートとお椀を置いた店員さんが一度去り、そしてすぐに豚の生姜焼きを持って引き返してくる。

 ステーキ用の鉄板の上に乗せられたかなり厚めの豚肉にソースがかけられていて、じゅうじゅうと音をたてていた。

 どうやらここでは、豚肉を生姜などが入った汁をつけてから焼くのではなく、焼いた豚肉の上に生姜風味のソースをかけたものを豚の生姜焼きと称しているらしい。

 これがこのお店だけのことなのか、それともこの地方では豚の生姜焼きといえばこういう料理であるのか、そこまでは定かではなかったが、いずれにせよ焼けたステーキ皿の上から食欲をそそる音と香りが立ち昇ってくることには変わりはなかった。


 ああ、これは。

 タスッタさんは、そう思う。

 いかにも、おいしそうだ。

 タスッタさんはまず箸を取って、味噌汁を啜る。

 なんの特徴もない味噌汁であったが、具沢山であることからもわかるように手作りっぽい雰囲気はとても好ましく思う。

 それから、豚の生姜焼きを一切れ箸で摘まんでから、口の中に入れて咀嚼してみる。

 あ、これは。

 と、タスッタさんは思う。

 甘辛で、生姜の味がよく効いている。

 これは、ご飯が進みますね。

 タスッタさんは次にこんもりとプレートの上に盛られているご飯に箸をつけ、一口分、口の中に入れて、まだ口の中に残っていた豚の生姜焼きと一緒に咀嚼した。

 そう、これ。

 別々に食べるよりは、やはりいっしょに食べた方がずっとおいしい。

 なんなんでしょうね、このご飯というものは。

 おかずによって、ずっと表情を変えてくる。

 慣れるまではのっぺりと甘いだけで変化がない食材だなとか思っていたのだが、慣れた今となってはこのご飯がないと食事もかなり物足りなくなっていた。

 とりあえず、この豚の生姜焼きとご飯は、とてもよく合う。

 タスッタさんは漬物に箸をつけてから続けて豚の生姜焼き一切れをご飯の上に乗せ、そのご飯ごと口の中に入れる。

 うん、おいしい。

 ゆっくりと咀嚼をして飲み込んだあとに生野菜のサラダを食べて味噌汁を啜る。

 出てきたときはこのご飯の盛りに驚いたものだけど、この分ではすぐに完食してしまうんじゃないかな。

 とか、タスッタさんはそんなことを思う。

 とりたてて凝った料理でも高級な料理でもないのだが、だからこそかえって食が進む。

 ここの豚の生姜焼きとは、そんな料理に思えた。

 シンプルで単純であるからこそ、強いというか。

 いや、別に、料理に強弱があるわけではないですけど。


 そんな調子でタスッタさんはしばらく箸を休めずに食事を続けた。

 ここの生姜焼きは、お肉がかなり厚くて歯ごたえがある。

 それでいて、生姜の風味が強い甘辛だれとその肉厚のお肉がよく合っていた。

 うん、調和。

 いい具合に、調和している。

 そのおかげでご飯が進む。

 お味噌汁も副菜もおいしい。

 普通といえばごく普通の料理ではあるのだけれど、ここの普通は少しレベルが高いような気がする。


 完食し、食後のコーヒーを喫しながら、タスッタさんはそんなことを考えた。

 飲料であるコーヒーの専門店で、これほど満足度の高い食事をできる国というのは、少ないのではないか。

 基本的にこの国は、外食の値段帯の幅が広く、チェーン店だけではなく、安くておいしいお店が割と多い。

 チェーン店だけではなく、個人経営のお店も安くておいしいお店が全国にいくらでもある。

 これはやはり、この国に根づいた食を大事にする文化のせいなのですかね。

 いずれにせよ、通りすがりのタスッタさんとしては、その恩恵を受けるところ大であるのだが。




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