71話
「オレ達もやって来たぞ!クレア様と民を守るのは俺たちの役目だ」
背後を見るとケイトが居た。しかし、他のメンバーは居るがサリーやローズの姿が見当たらない。
「クレア様!サリーからの伝言です!赤ちゃんが産まれたら名前を付けて欲しいそうです。それとローズとマリーからは屋敷に戻って来るのを待ち続けます。ではオレ達もクレア様の為に民を守るのでクレア様はクレア様の戦いをお願いします!」
そう言ってケイトを含めたケイサツベライの皆は広場から離れる。叫び声が聞こえた方だ。何かと交戦する音が聞こえる。デュオルク伯爵が居るのだから魔物が居るのかもしれない。
ケイサツベライの登場のおかげで平民の混乱は抑えている。広場外は魔物が居て広場にはデュオルク伯爵もいる。私とエヴァでデュオルク伯爵を挟んだ状態だがデュオルク伯爵が何を仕出かすかは分からない。
エヴァは自分よりも大きな斧を持っている。Sランクは伊達じゃ無いって事だろう。
「いやはや、完全にやられましたね〜。私としても失敗の失敗です。まさか、クレア様の手下が来るとは予想外ですよ。しかし、彼女はあのエヴァさんではないですか。あ、エヴァさん、私とは仕事の依頼で通じた知り合いではありませんか。ここで見逃してくれたりしませんか?」
デュオルク伯爵は大袈裟に肩を竦めエヴァに話しかける。エヴァは斧をデュオルク伯爵に向け言う。
「そいつは出来ねぇ相談だ。あんたから依頼を何度も受けたがそれはそれだ。それに冒険者としてここに立ってるんじゃねぇ。お嬢様の部下としてここに来たんだ。その意味が分かるよな?」
「ハイ、分かりますとも。クレア様の人材に羨ましく思いますね〜。ならば致し方ありませんね。私もここで死ぬのは嫌ですので私は奥の手を使うとしましょうね」
そう言って何かを呟くとデュオルク伯爵の身体が変化していく。あのシッカー伯爵の時と同じだ。違うとすればデュオルク伯爵は蜘蛛みたいな外見に変わった。
「ハイ!私もここまで来たら絶対に生き残りますよ!この姿になるのは計算外でしたがそれもまた一興ですね!エークセレントですよ!!では楽しみましょう!」
デュオルク伯爵はエヴァに襲いかかる。しかし、デュオルク伯爵は魔物化したのに意識がある。それに何度も魔物化した事があると受けてとれる言い回しだ。エヴァはデュオルク伯爵の剣に似た足を斧で受け止める。私はエヴァに加勢をしようとするがエヴァが叫ぶ。
「お嬢様!私の事は良い!まずはあっちから終わらせろ!」
そう言われ初めて気づく。処刑台でレオンとジュリアス達が騎士団と交戦していた。リリィや公爵家の皆は既に救出は出来ている様だが騎士団は取り返そうと必死で皆と戦う。
私はエヴァを信じて、処刑台へ移動する。私の登場に騎士団は警戒する。私は騎士団長をも剣で凌駕したのだから当然だろう。騎士団の数人は私の出現でジュリアス達が下がったの機に剣を捨て銃を構える。
私はその光景を見て思わず声にしてしまう。
「貴方達には、もう誇りは無いのですね」
剣は騎士を象徴するモノだ。それを捨て銃に走るとは情けない。
「貴様に何が分かる!オレ達は新しい時代の在り方を受け入れただけだぜ。貴族の呪文と同じで簡単に戦いの素人でも人の命を奪えるんだ。剣で危険を冒してまで戦うより、安全な場所から仕留める方が楽だろう?」
ニヤニヤと笑う騎士達を見て私は深く溜息を吐く。
「成る程、貴方達は所詮その程度なのですわ。戦う努力すらしない。命の重みも分からない。強くなれるはずがありませんね。それに剣を極めた者に対して銃は通用しません。銃の強さは既に決まっているのですから。剣は強さを求めて初めてその領域に達する。それが分からない貴方達は3流騎士ですわ」
私の言葉に銃を手にした騎士達は憤慨する。そして、1人が私に向けて発砲した。しかし、身体強化された今の私は銃弾が見える。それに合わせ銃弾を剣で斬る。
刹那で行った出来事に発砲した騎士は状況を理解出来てない。周りは外したと思ったのか私へ向け3発が発砲された。
私は難なく剣で防ぐと騎士達は理解をしたのだろう。銃を落として私を見て化け物と呟いた。
「化け物で結構ですの。人は自分を信じれば大抵の事は出来ます。貴方は自分の可能性を信じきれずに銃へ走りました。貴方が剣で化け物……いや達人の域の力を付けるのは無理でしょう。それが貴方の限界なのですから。自分の弱さを噛み締め続ければいい」
騎士団の皆は私を睨む。剣を持つ者も結局私へは襲い掛からない。騎士団長との戦いがここまで影響するとは思わなかった。そう考えると騎士団長はやはり、騎士よりだったと思う。彼が何故この様な暴徒へとなったのかは分からない。だが、その中でも騎士であろうとしていた。そう考えると周りにも問題がある。騎士団長への発砲もそうだ。何時から騎士の在り方が変わったのだろう。きっと平和の中で歪になったのだろう。だからと言って許せるものではない。
……そっか。私も呪文達の考えが変わったから反応してくれなくなったんだ。いつの間にか私は呪文を支配していた。確かに支配するやり方もある。でも私の場合は初めはそうじゃなかった。お父様やユグルを失って私は全てがどうでも良くなった。まだ沢山の大切なモノがあったのにも関わらずに……
それじゃ呆れて私に力を貸してくれないはずだ。
ニャルが居たから全ての属性を手に入れた。属性によっては相性が合わないがニャルの本質は混沌だ。混沌としていたから炎と水が一緒にいれた。今は水の呪文が怯えている。
気づくのが遅れてしまった。ゴメンね。
そう心の中で謝る。
私と騎士達は似ている。
私は再度騎士達へ言葉を投げかける。
「貴方達はそれで良いのですか?何時から剣では無く、権威を振るう様になりましたの?私には分からない。貴方達の苦しみや怒りなど理解出来ない。だって私は貴族であり、貴方達は騎士だから。でも貴族には貴族の苦しみや怒りがある。貴方達の事は理解出来ない。でも、私もめげないで乗り越えているわ。貴方達は悔しくないの?もう一度聞くわ。貴方達にはもう誇りは無いの?」
そう聞くと騎士達は悔しそうに剣を落とした。騎士達と第二王子と何があったかは知らない。それに腐敗していたのも事実だ。その中でもまだ誇りがあるのなら取り戻してほしい。
今なら呪文達も言う事を聞いてくれる気がした。
戦意が無くなった騎士に背を向けレオンやジュリアスの元へ歩く。動く気配が無いので完全に勝負はついたようだ。
ジュリアス達の背後にボロボロになったリリィや侯爵家の皆が横たわっている。
「……大丈夫そうでは無いですね」
思わず呟いてしまった。リリィやシリウスは弱く苦笑する。
陛下といた重鎮の老人は弱々しく話す。
「まさか、其方に助けられるとは思わなかったぞ。陛下の時と言い今回の事と言い其方には借りを作ってしまったな」
私は皆の状態を確認しながら話す。
「私もまさか貴方が捕まっているとは思いませんでした。それに今は国の一大事です。侯爵家の皆を失うのは困ります」
「ふむ、儂も老いた様じゃ。騎士に遅れを取るとは年はとりたくないの」
手足がない老人はいつ死んでもおかしくない状態だ。老人と話していると急に声をかけられた。
「お祖父様は助からないのですか?」
青ざめていた少女だった。今にも泣き出しそうな顔つきに我は微笑む。
「大丈夫よ、私がいるもの。何とかしてみせるわ」
そう言って私は私の中の呪文達に呼びかける。
その中に私に反応してくれる子がいる。ありがとうと呟き呼びかける。
『我、癒しの理に愛されし者なり、元ある姿へ戻れ、リーフヒール』
私の呼びかけに呪文達は浮かび出し、空間から何かが現れる。それは手足だった。これは消滅した事で新しく作り出したのだろう。マリーの時は体がこの世界に存在していたから反応しなかった。でも、老人の手足は既に無くなっていたようだ。老人は戻らないと思っていた手足を見て唖然としている。
少女も口を開いたまま固まってしまった。
老人は起き上がろうとするが思う様に動かないようだ。
これはバッドステータスだろう。新しく出来た体は馴染むまで動けないだろう。リリィやシリウスにも同じ様にリーフヒールをかける。これで終わった。
後はデュオルク伯爵を倒すだけだ。
伝えるって難しいですね。騎士とクレア嬢の悩みは似ていて違うけど同じ的に書きたかったのですが表現が難しいです。
お読みいただきありがとうございます!




