70話
私がそう宣言すると騎士達の雰囲気が変わる。腐っても騎士と言う事だろう。
私は騎士達を一瞥し公爵家の老人と目が合う。彼は目を見開いている。私が居るのが予想外だったのだろう。
「そこの女よ、騎士である私と勝負とは笑えん冗談だ。女に手をあげたくない。今回は見逃してやろう」
騎士団長はそう言って私を睨む。
「そうですの?先日お会いした時にブルジェオン家と私相手に騎士150人程囲んでいたので女子供にも容赦しないのがこちらにいる騎士のやり方だと思ってました。私とした事が勘違いをしてましたわ。ふふ、でもそうね。10歳の子供に騎士団長が負けたとは名折れにまりますものね。私とは戦いたくはありませんよね」
そう言うと騎士団長は顔を真っ赤にする。
「貴様!騎士への侮辱と受け止めるぞ!良いのか?」
私は余裕の笑みを浮かべる。
「構いません。それより、貴方は私が誰か存じても態度を変えませんわね。私を侮辱しているのかしら?ならば私もそれなりの対応を考えなければなりませんね。公爵家現当主クレア・レイナスとして」
騎士団長はフンと鼻で笑う。侯爵家相手に立ち回れたのだから私も平気だと思われているのだろう。私の名前を聞いて周りは少し騒めく。
「貴様が本物かは知らん。嘘を吐いているかもしれん。ならば何かレイナス家の者だと証明出来るモノなどあるのか?ないよな?」
証明と言われても魔術を使えば貴族だと分かるが今の私は使えない。家名を証明するには当主が持つとされる宝具だ。騎士団長は知っていての言葉だろう。ならば私はただ証明するだけだ。
『我は蛇の古き友の末裔。古き血よ、証明となれ!』
証明する為に必要な言霊を使うと証が現れる。それは杖の様な銃だ。魔術であって魔術じゃない言霊なら私でも扱える。魔銃と呼ばれるこの代物は代々レイナス家にのみ受け継がれている。この国の物語にも出てくる伝説のマジックアイテムだ。平民でも知っている物語なので銃の姿は知っているはずだ。何せ第二王子が平民に与えたと言う銃はこの魔銃のレプリカ……いや、劣化物だ。
この魔銃を出した事により驚いているのは騎士団長だけではない。侯爵家の人達も私を見て驚いている。私のお父様が当主では無くなり私へ移行した証だからだ。しかし、魔銃は今の私では使えない。魔銃は呪文を込めて初めて武器になるので今は意味が無い。魔銃を持ち上げ騎士団長に微笑む。
「この通りレイナス家の実権は私が持ってますの。ですが魔術を使って貴方に勝っても負けた言い訳にされたくありません。剣で白黒つけましょう?数を集めなきゃ……やはり私に勝てないですか?」
騎士団長はそこで初めて剣を私へ向ける。
「後悔はありませんな?私達のやり方に不満がある様だが我々には我々の事情もあり、私も部下を持つ立場にあるのだ。狂酔でやっている訳ではない。それに貴族が剣で騎士に勝つなど有り得ない。良かろう。ジン・ジスプロシウムがお相手になろう。クレア・レイナスとの決闘に応じよう」
そう騎士団長は叫ぶと周りの平民達は更に急いで私から離れる。狭いが戦える位のスペースは確保出来た。
「ジン・ジスプロシウムよ、何時でも構いませんよ。私は貴方の全てをねじ伏せるだけですので」
私はふふっと笑うと騎士団長は瞬時に踏み込み私の元へ走った。そう、重たい鎧を纏ったジンは確かに速いがただ速いだけだ。防御力はあり、耐久性もあるのだろう。攻撃の威力も期待出来る。だがそれは普通の騎士のみ通じる。
私は騎士団長の一撃をそのまま受け止める。そして、ビクともしない剣を見て騎士団長は一瞬の迷いを見せた。私はその隙を見逃さない。剣を上へ振り払い溝内を思いっきり回し蹴りをくらわす。魔術は使えないが魔力で身体強化された我が身は武器になる。
騎士団長は呻き声を上げながら文字通り吹っ飛ぶ。しかし、彼も達人なのだ。地面に転がるがすぐに立ち直り構える。鎧の胸の部分が思いっきり凹んだ。騎士団長はその凹みを見て有り得ないモノを見たと言う表情をしている。男でも自分の体で鎧を力で凹ませる事は不可能に近いだろう。それを簡単にやってのけたのだから騎士団長は私を警戒する。
私が踏み込んだら即座に反応出来る上段の構えはやはり騎士団長だ。ジュリアスよりも隙が無く剣で生きてきたのが分かる。だが、魔法はその努力をも踏み躙る。身体強化された私の踏み込みは速い。一歩で瞬時に騎士団長の前に迫る。私の速さにまた騎士団長は驚愕する。そのまま軽く牽制すると騎士団長も牽制と理解したのだろう、次の大技が来ない様に受け流す。しかし、驚いたのは一瞬だ。既に私の速さを想定した動きで剣を踊らす。
辺りは沢山の人々がいるのに静寂に包まれ私と騎士団長の剣の鳴る音のみ響き渡る。
騎士団長が後ろへ回避すると私も下がる。
「お遊びはもう終わりかしら?私はまだ足りないですわ」
息も切らしてない私は騎士団長へ微笑む。騎士団長は凄い神経を使ったのだろう。遠目から見ても肩で息をしているのが分かる。そして、鎧が意味が無い事を悟り、上の鎧を外した。
「……なる、ほど。領地の一部を消滅させた話は伊達じゃ無いって事か。確かに私の勝機は無いに等しいな。しかし、騎士として戦うのだから負けない……か、ぎ……り」
バァン!!!っと音が鳴り響く。
騎士団長が話の途中で胸を押さえるが溢れる血は溢れていく。そして、膝から落ちて最後に私を見て崩れ落ちた。
「エークセレント!やはり、物語の終焉には裏切りが美しい!味方から撃たれる銃撃!戸惑い倒れる騎士団長!嘲笑う元仲間!あぁ、これが見たかった!」
声のする方を見ると屋根から人が飛び降り出来た。そして、ゆったりとこちらへ向かう。その間に平民達は逃げる。しかし、逃げた先でも悲鳴が上がる。広場の外に何かがいるのか?それに降りてきた人は知っている。
……アレはデュオルク伯爵⁉︎
何故このタイミングで現れたの?
「おやおや〜、流石のクレア様も私の出現は予想外でしたか?ですが貴方のおかげで私が動く事になりました!元より転がっている騎士団長様は手駒としては使えず、暴走ばかりで殿下もお困りでした!故に私から騎士団長を引き継ぎが出来る方に始末してもらった始末ですねハイ!それにしてもクレア様はやってくれましたね!船に襲撃して既に半壊です。もう騎士団は機能出来ないでしょう。彼等に与えたチャンスはもう失いました!これからは剣ではなく貴方の宝具と同じ銃を支流にしていきましょう!よってここに居る皆様には死んで頂きましょう!」
パァンと指を鳴らすが何も起こらない。流石のデュオルク伯爵もアレっと呟き首を傾げる。
「アレレ?どうしましたか?ここに残っているクレア様や平民全てを無差別に撃ちなさい!」
デュオルク伯爵は叫ぶが何も反応がない。私も自然と構えジュリアスとレオン達に視線を送る。皆は既に処刑台の近くに移動済みで場の混乱次第で動けるようだ。
するとどさっと音がなる。私とデュオルク伯爵の間に人がまた降ってきた。その男は既に死んでいる。
「すまないが変な棒を持ったあんたの部下は全員あの世で先に待っているそうだぜ!あんたもお嬢様の敵なんだろ?私はまだまだ暴れ足りないんだわ。相手してくれよ!」
そう言ってデュオルク伯爵の近くにエヴァが立っていた。
「お嬢様の事、待ちくたびれたからメリルはお留守番だがお嬢様の愉快な仲間たちが駆けつけたぜ!」
シニカルに笑うエヴァを見て懐かしく、頼もしく感じた。
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