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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
アウグストゥス編
25/34

アルフレッドの苦悩

「騎士兵一人に教団の元へ行かすなど、貴様は何を考えている!」

極東方面要塞の作戦室でガナムはジュリアールに鬼の形相で詰め寄った。そんなガナムを諸ともせず、ジュリアールは手元の資料を見ながら口を開いた。

「逃亡者ハイネとその契約獣の目撃情報がありました。調査に向かわせるのは当然でしょ?」

「単独で向かわせるのは余りにも危険だ! 教団は我々帝国軍の傘下ではない、寧ろ敵対していると言っても過言ではない!」

睨み付けるように見上げるジュリアール。平然とした蛇の目で睨まれたガナムは思わずぎょっとした。

「だったら、このまま見逃せと? 王を殺し、ヴァリシュリア城を壊滅させた張本人を野放しにしていろと言うのですか? 既に五年経っているのですよ? 五年の間、我々帝国軍は衰退の一歩だ。七人騎士隊の内、三人を失った。セティ騎士兵が加わった今も五人だけ。ハイネ、フェレスなどはどうでも良いのですよ。彼等の契約する魔獣を手に入れたい。例え、どんな手段を取っても。その可能性をセティ騎士兵が持ち合わせていた、ただそれだけの事」

「だとしても、教団にはあのアルフレッドがいる。いくら七人騎士隊のセティ騎士兵だとしても打ち砕くのは困難だ。いや、寧ろ殺されてしまう!」

「別に構いませんよ」

ジュリアールの不意の言葉にガナムは驚いた。

「構わ・・・ない?」

「えぇ。だってそうでしょ? 兵士は消費するもの。駒ですよ? ハイネによってアゼザル騎士兵が殺され、フェレスと共にハイネは隊を裏切った。四人になった隊にセティ騎士兵が加わり五人となった。失った兵を補充しているのですよ。まさかガナム騎士団長、貴方は兵士の本質を忘れているのですか? 兵士は死ぬもの、死んだらその分だけ補充すればいい。当然でしょ? 七人騎士隊とはいえ、所詮はただの兵士・・・」


ーーダンテを除けばね。


「セティ騎士兵がハイネとフェレスを確認できれば良し、殺せたら尚更良し。私はね、端から彼には期待していませんよ。捨て駒に捨て駒らしい使い道を選んだまてです」

ジュリアールは嫌らしい笑みを浮かべた。そしてその嫌らしい口からゆっくりとある言葉を口にする。

「セティ騎士兵が殺されたなら、ダンテが再び目覚めることとなるだけ。 その意味は、我々マルーシャ王国事件の生き残りが一番よく知っているはずですよ?」

ガナムは思わず、口を閉ざしてしまった。



セティの息は荒いでいた。目の前に立ちはだかるたった一人の兵士にこれ程まで苦戦を強いられるとは思いもしなかったのだ。

目の前に立ちはだかるその一兵士は息を荒げることなく、ただ一直線にセティを睨み付けている。

「貴様、何者だ!」

「アレスト教兵長、アルフレッドだ!」

アルフレッドはそう言いながら剣を振り上げた。勢いよく振り上げられた剣は受けようとしたセティの剣を弾き飛ばす。弧を描いた剣は地面にだらしなく投げ出された。そしてそのままアルフレッドの盾がセティの顔面を襲った。勢いよく地面に叩き付けられたセティの口から漏れだす嗚咽声。

「さっきまでの減らず口は何処へ行った? 帝国軍の七人騎士隊!」

「き、貴様・・・」

「良い事を教えてやろう。私は貴様と同じ・・・」


ーー七人騎士隊の一人だった。


「そして契約獣は死をも超越した存在。ゴーレムだ」

ゴーレムだと? セティは驚いた様子だが、心に語りかけるラムセスの声は至って平然だ。

(ゴーレムの契約者だとしたらマルーシャ王国事件の生き残りか。まさかあのアリーシャルだとはな)

「ラムセス、あのケロベロスは?」

(この私が殺されるとでも? ワイバーン共の邪魔が入った。ケロベロスは森の中だ。セティ、その者の言葉が正しいのなら貴様はその者に勝つことはまず不可能だ。ゴーレムは不死の存在、契約者は死を代償とする。大人しく下がれ)

セティの顔を剣が襲う。アルフレッドはお構いなしに次々と自らの剣を振るった。身を翻してそれを避けるセティはアルフレッドとの距離を取ると、腰に着けている短剣を引き抜いた。

「ゴーレムが契約獣だと言ったな! 死を越える、貴様は不死身だと言うのか!」

「当然だ! 私は死なない、死ぬ事が出来ない!」

アルフレッドは尚も剣を振るった。短剣でそれを防ぐのは限界がある。身体中に付けられる切り傷からは血が滲み出ている。このままアルフレッドに殺されるのも時間の問題だ。

すると、突然巨大な火球がアルフレッドを襲った。爆発と共に地面諸とも吹き飛ばし、アルフレッドの姿は煙の中へ消えた。

「ラムセス!」

「此処は退け! ヤツがあのアリーシャルならばこの私でさえ殺すことは不可能。大人しく下がるのが最善だ!」

ラムセスが六枚の翼を羽ばたきながらゆっくりと舞い降りてきた。風を生み出すラムセスは、顔をしかめるセティに忠告する。

「今此処で殺されたなら、ハイネを殺すお前の望みは絶ちきられる事になる。私の同胞を殺した忌まわしき竜を殺すこともまた夢と消える」


ーー死ねないんだよ、ずっとな。


燃え盛る炎の中から声が聞こえる。思わずぎょっとした。防具からはみ出た全身の皮膚が爛れ落ち、肉やら骨が剥き出しの状態でゆっくりと歩み寄る。炭化した身体の一部は真っ黒い装甲のように身体のあちこちに貼り付けられ、歩くたびに灰を落としていった。

「痛み、苦しみ、感じるんだよ。なぁ、いっそ俺を殺してくれよ。なぁ?」

身体の皮膚や筋肉が煙をあげながら再構成されていく。呻き声を上げるその姿に、セティは足がすくんで動くことができなかった。

そんなセティをラムセスは乱暴に拾い上げる。風圧でアルフレッドの周りに立ち込める炎と煙が消えたとき、アルフレッドは元の姿に戻っていた。

『見ろ、あれがゴーレムと契約した者の成れの果てだ』

ラムセスの腕の中からセティは黙ってアルフレッドを見ていた。

アルフレッドもまた、ただ黙ってセティとラムセスを見ている。その背後から近付く二人の人影。

「アルフレッド・・・?」

声に反応し、振り返った。困惑した表情で立ち尽くすイリスに驚いき口を開いたが、思わず口籠ってしまう。そしてその横に立つフェレスは黙ってイリスの肩を支えていた。

「イリス様、貴女様に言わなければならないことがあります」

アルフレッドは視線を落とし、小さな声でそう言った。

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