ああ、これが疼くってやつか
いくら僕が"住民A"を装う能力が高くても限界はある。
昼と夕のちょうど中間。
天気は快晴でギルド前の人通りは激しい。
もちろんギルドには冒険者の出入りは頻繁に起こり、人目を避けるは不可能だ。
路地の物陰からギルドの正面を伺う。
またゼイバーさんと会えたらスムーズに入れるんだけど……。
「……僕は何を考えているんだろ」
これから先、ずっとこれを繰り返すのか?
魔王討伐が目的の勇者候補が、たかが地方の冒険者ギルドに入るのを躊躇している。
「いや、そもそも魔王討伐……別にしなくてもいいんじゃないか?」
勇者候補が口にしていい言葉ではないのはわかる。
だが僕程度のステータス、スキルで一体何ができるというのだろうか?
"諦めてしまってもいいんじゃないか"
こんなに強そうな冒険者がいっぱいいるわけだし、それに僕以外にも勇者候補はいる。
ゼイバーさんだってそうだ。
魔王を討伐するならあんな人なのだろう。
だけど……
なぜかはわからないが僕は路地から出てギルドへと歩みを進める。
理屈じゃない。
どこからか薄らと湧いてくる勇気は僕をギルドへと向かわせた。
僕の思いとリンクするように"左手の甲"がジーンと熱くなる。
"黒竜の紋章"が僕を奮い立たせたのだ。
ああ、これが『オレの左手が疼く』ってやつか……。
僕は他の冒険者の視線を感じながらもギルドへと入って行った。
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ギルド内は談笑に包まれていて、僕のことを気にする人間はほとんどいない。
ちらほら、"あいつが最弱シオンだ"って笑っていたけど、すぐに自分たちの話に戻った。
僕はカウンターへと向かう。
そして受付にいる女性と向き合った。
相変わらずの無表情で冷たい目。
受付嬢のアリカさんだ。
「お疲れ様でした。依頼内容の達成の有無をお聞きします」
「達成しました」
僕は腰につけていた小袋をカウンターへと上げる。
アリカさんは中身を確認すると、すぐに報酬を出した。
「これが今回の依頼の報酬になります。ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
「では後ほど、あの道で」
小声で言ったアリカさん。
僕は無言で頷いた。
何事もなくギルドを出る。
一気に緊張感が解けて脱力。
あとは誰とも会わないようにさっさと借宿へと帰って、少し休んでからアリカさんに会いに行こう。
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僕は昨日の夜と全く同じ場所でアリカさんを待った。
日はすっかり落ちて星空が見える。
街灯の明かりはかろうじて道を照らす。
程なくして高いヒール音が道に響いてきた。
これは間違いなくアリカさんだ。
道の先に視線をやると、金髪の女性が歩いてくるのが見える。
「こ、こんばんわ」
「こんばんわ」
アリカさんは昨晩とは違って、しっかり挨拶を返してくれた。
それが僕にとってとても嬉しかった。
「では、行きましょうか」
「え?」
「ここでは寒いですから、私の家に」
「い、行ってもいいんですか?ご家族とかは?」
「私は一人で暮らしてますので」
僕はドキリとした。
まかさ女性の家に招かれるだけでなく、2人きりで夜を過ごすことになるなんて。
「昨日の続きをして下さい。私、もう我慢できなくなってしまって……」
先ほどのギルドでの冷たい対応が嘘のようだった。
甘い吐息を漏らしながら、かろうじて発せられた言葉。
頬を紅潮させ、手を震わせながら自分で金色の髪をゆっくりと何度も撫でている。
とろけるような表情のアリカさんは今にもここで肌を曝け出して四つん這いになりそうな雰囲気だ。
これは早くなんとかしてあげないと。
こうして僕はアリカさんの願望を叶えるため、彼女のお家へと向かうことになった。




