ブルーよりレッド、そして時々、師匠
僕は早朝の寒空の下、ギルド前にいた。
この時間に来たのは理由がある。
それは冒険者の活動時間が昼から夜にかけて集中していると読んだからだ。
つまり早朝、冒険者が少ない時に依頼を受けて昼までに達成する。
すると他の冒険者がギルドに集まりだす頃に僕は帰れるという、ぼっち計画。
案の定、周りを見渡しても冒険者らしき人はおらず、ギルドに出入りする者もない。
それでも中に沢山の冒険者がいたら僕は即座に村に帰って農家でもやろう。
ゴクリと息を呑む。
そして僕がギルドへ入ろうとした瞬間、
「あれ、シオンくんじゃないか?」
背後からした若い男性の声。
驚いて体が反射的に跳ねる。
すぐに振り向くとそこには見覚えのある青色の鎧を身に纏った金髪のイケメンが立っていた。
"ブルーだけどレッド"こと、ゼイバーさんだ。
「入らないのかい?」
「え、ええ……」
「何かあったの?」
「実は昨日、ギルドのみんなに笑われちゃいまして……」
「どういうことだい?」
「ギルドカードに表示されたステータスが"ギルド最弱"だったです。だから、みんなに笑われてしまって」
「なんだ、そんなことか」
「え?」
「気にすることはないさ。他人を蔑むような人間は自分の弱さを知らない愚か者だ」
「そう簡単に割り切れればいいんですけどね」
「割り切れなくたっていい。ただ大事なのは自分を決して卑下しないことだね。自らを軽んずる人間はその時点で限界が決まる。成長が止まってしまうのさ」
「なるほど……」
「だからシオンくんも前向きにね。よかったら今度、私と一緒にパーティーを組もう。気晴らしになると思うよ」
「ありがとうございます」
ゼイバーさんの笑顔が眩しかった。
やっぱりこの人はレッドだ。
正義感が強くて、優しくて、そしてイケメン。
「私と一緒に入ろうか。誰かいても私も一緒なら大丈夫だろ?」
「はい!」
僕はゼイバーさんと談笑しながならギルドへと入っていくが、先ほどの心配は杞憂に終わった。
ギルド内には誰もおらず、ガラリとしている。
「じゃあ、私は先に依頼を受けて行くよ」
「はい!」
ゼイバーさんは受付カウンターへ向かうと数秒ほどで依頼を受けた。
そして僕に笑顔で挨拶してギルドを出て行った。
「ほんと、ブルーだけどレッドだなぁ」
戦隊ヒーローでいったら間違いなくセンター。
バトルアニメでいったら主人公……というより、主人公の師匠的な感じ?
僕が主人公ってわけじゃないけど……。
そんな思考はさておき、僕も受付カウンターへと向かう。
「あれ?」
受付に立っているのはアリカさんではなかった。
褐色肌でベリーショートの女の子だ。
服装はアリカさんと同じスーツジャケットにスーツスカートだが、背がやたら小さくて子供の背伸びのようにも見える。
「す、すいません」
「ご用件を承るっす!」
「えーと……アリカさんは?」
「アリカならまだ来てないっすよ。遅刻っすかね。珍しく」
まさか本当に風邪を引いたのか?
僕が心配しているとカウンターの裏の方から、女性が入ってきた。
それはまさしくアリカさんだった。
「申し訳ありません。遅れてしまって」
「いいっすよ」
「この方は私が対応しますので、メグさんは朝の掃除をお願いします」
「オッケーっす!」
メグさんと呼ばれた褐色肌の女の子はパタパタと走ってギルド内の掃除へと向かった。
メグさんと入れ替わって受付に立ったアリカさんは無表情に口を開く。
「本日はどういった御用件でしょうか?」
冷たい目。
感情の無い対応にドキッとする。
やっぱり昨日の出来事は夢だったのだろうか?
「え、えーと、仕事を探していまして……僕にもできるような簡単な仕事がいいんですけど」
「では、こちらを」
アリカさんがカウンターの上に出したのはA4サイズほどの紙。
それは依頼内容が書かれたもので、そこには『西の樹海入り口付近での薬草採取』と書かれていた。
「これなら"ギルド最弱"のステータスでも達成可能だと思います」
……と、冷たく言い放つアリカさん。
「これを受けます……」
僕は俯きながら言った。
我ながら情けない。
さっきゼイバーさんに励まされたばかりなのに、もう自分を卑下しそうだ。
「わかりました。御武運を」
「はい……」
そう受け応えて僕は受付カウンターを離れようとすると、アリカさんが続けて、
「約束、忘れずに」
「え?」
アリカさんの方を見ると彼女は無表情にも"軽く髪を撫でるような仕草"をしていた。
(やっぱりあれは夢じゃなかったのか)
半信半疑ながらもアリカさんの発言に頷く。
そして僕は西の樹海へと向かうためギルドを出た。
冒険者になってからの初仕事だ。
だが、それ以上に僕はアリカさんとの戯れの方が楽しみだった。




