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超硬化鉄球弾『パワー・アイアン・バレット』

大雨の湿地帯。

足元には短い草が生い茂り、歩みを進めるたびに軽くぬかるむ。


僕はマントに備え付けられたフードを被った。

右手に"ある物"を握り、数十メートル先に漂う霧を目指す。

あの中に魔獣ミスト・シザーがいるのは確実だ。


ディアナの話ではミスト・シザーは生きたまま獲物を食うのが好きだとか。

なら、まだカイネンさんは生きている可能性は十分にある。


「こんなこと言ったら失礼な気がするけど、まさかグレシアさんのスキルが役に立つなんて」


勇者スキル『雨女レイン・レディ』だ。

土砂降りの雨のおかげで霧が消えた。

これなら"狙い"は定められる。



薄らと残る霧に近づくにつれて高い金属音が聞こえ始めた。


見るとゴルドさんが霧に向かってメイスを振り回している。

霧の中に見えるのは巨大な昆虫の形をした黒い魔獣。


体長は5メートルほど。

4本の鎌のような足。

2本の鎌のような腕。

全身が甲殻で覆われた虫のような見た目をしていて、体の中心、頭と思われる部分には赤い球体が光る。


1本の鎌腕には捕獲した獲物であるカイネンさんが仰向けの状態で突き刺さっていた。

ミスト・シザーは獲物を奪われないように鎌を天高く掲げ、もう1本の鎌腕でゴルドさんのメイスによる攻撃を受けている状態だ。


カイネンさんは必死に鎌を掴んで体が沈んでいくのを防いでいる。

あのまま鎌が深く刺されば彼女の心臓部は切り裂かれて死ぬ。


「まだ生きてるな。急がないと」


僕が走り出すと同時にゴルドさんはミスト・シザーの鎌の猛攻に耐えられず仰反る。


「クソ!!」


そのままミスト・シザーの鎌による攻撃を脇腹に受けて数メートルほど吹き飛ばされる。

重厚な鎧の巨漢は草の上を転がった。


「ここまでか!」


悲痛な声が聞こえた。

倒れながら今にも死に向かう仲間を見つめている。


でも、さすがに死なせるわけにはいかない。

魔獣との距離は20メートルくらいか。

ここまでくれば"射程範囲内"だ。


立ち止まるとゴルドさんは気配を感じたのか僕を視界に入れて叫ぶ。


「まさか、たった一人で来たのか!?ルーキーにどうにかなる相手じゃない!!早く逃げろ!!」


その声に構わず、僕は右手を軽く動かして握った"ある物"の数を再確認する。


「五発だな」


それは出発前にセシルに作らせた物。

パチンコ玉ほどの大きさの【鉄球弾】だ。

まぁ実際、強度的には鋼並らしいけど。


「『特攻アタッカー』」


まずは"自身に攻撃力アップを付与"

握った鉄弾のひとつを親指の上に乗せる。

そして深呼吸、力を抜き、腕を下げて右手首を腰につけた。


そして、


「『速指スフィンガー』」


一気に親指を弾く。

瞬間、"黒い豪雷"が四方に広がると共に撃ち出される鉄弾。


高速で飛ぶ鉄弾はカイネンさんを突き刺していた鎌腕の付け根部分に直撃して、"ドン"!という爆音を湿地帯に響かせる。


折れた鎌腕は空中で灰になり、カイネンさんの体は草が生えた地面に落ちた。


想定以上の威力だ。

さらに、この弾速ならアイヴィさんのスキル『狙撃スナイプ』の効果で『速指スフィンガー』の命中率はほぼ100%と言っていい。


「よし。リロード……」


即座に握った右手を動かして次弾を親指に乗せる。


親指を弾く。

黒雷がほとばしり、鉄球弾が飛ぶ。


ドン!! 右前足に着弾、破壊。


次弾をリロード。


親指を弾く。

再び黒雷がほとばしって鉄球弾が飛ぶ。


ドン!! 左前足に着弾、破壊。


左右どちらの前足も失ったミスト・シザーは体勢を崩して前方に倒れ込む。

これで完全に身動きは取れない状態だ。


「次は脳天にぶち込む」


次弾をリロード。


親指を弾く。

黒雷が周囲に展開して草を黒色に焦がす。


高速で発射された鉄弾はミスト・シザーの"赤い球体"に直撃してガラスが割れたような音と共にヒビが入る。


ヤツに痛覚があるかどうかは不明だが、あきらかに悶え苦しむような動作をした。


ラストリロード。


「『超硬化鉄球弾パワー・アイアン・バレット』」


親指を弾いて撃ち出された鉄弾は黒雷を纏う。

それは一瞬にして着弾し、赤い球体を破壊。

ドン!という轟音を響かせてミスト・シザーの体に大きな風穴を開けた。


すると突然、左手が痛む。


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


やっぱり魔物討伐でレベルが上がるようだ。

しかも魔獣の経験値が大きかったのか、4度もアナウンスが脳内に流れる。


僕は魔獣ミスト・シザーの灰化を確認した後、倒れたカイネンさんへと走った。

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