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青春病。  作者: 翠吉
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聖明のエース、完全覚醒

第二セット。

中盤。

スコアは十三対十三。

第一セットを落としたとは思えないほど、互角の戦いが続いていた。

「一本!」

神谷先輩の声が飛ぶ。

守屋先輩がレシーブ。

完璧だった。

神谷先輩がネット際へ走る。

迷いなく上がるトス。

「蓮!」

蓮先輩が跳ぶ。

だが。

ドンッ!!

三枚。

凌星高校のブロックが、完全に蓮先輩を囲んだ。

ボールは真下へ叩き落とされる。

「ドンマイです!」

守屋先輩がすぐ声を掛ける。

蓮先輩は短く頷いた。

「次。」

その一言だけだった。

次のラリー。

また神谷先輩のトス。

また蓮先輩。

今度はブロックアウトを狙う。

しかし。

パシッ。

相手は手を引いていた。

ボールはそのまま外へ。

十三対十五。

「くっ……。」

会場がどよめく。

凌星高校は完全に読んでいた。

蓮先輩へ上がるトス。

打点。

癖。

全部。

私はノートを握り締める。

『三枚固定。』

『完全に蓮さん狙い。』

神谷先輩も気付いている。

それでも上げる。

エースだから。

でも。

蓮先輩は動かなかった。

ボールを見つめたまま、小さく息を吐く。

「……また、か。」

その瞬間。

頭の中に、あの日の景色がよみがえった。

真冬の体育館。

誰もいないコート。

ジャンプしようとしても、足が止まる。

怖かった。

跳べなかった。

「蓮。」

水谷先輩が隣へ立つ。

「焦らなくていい。」

「でも……。」

「お前は戻ってくる。」

「俺らは待ってる。」

別の日。

レシーブ練習。

守屋先輩が笑いながらボールを拾う。

「蓮さん。」

「ん?」

「戻ってきたら、一緒にレシーブ練習しましょ!」

「今度は俺、もっと拾けるようになってますから!」

蓮先輩は思わず笑った。

「楽しみにしてる。」

また別の日。

練習終わり。

岡田先輩がスポーツドリンクを差し出した。

「蓮さん。」

「またライトからぶち抜いてください。」

「俺、しっかり繋ぎます。」

蓮先輩はボトルを受け取り、小さく笑う。

「ああ。」

さらに別の日。

杉山が少し照れくさそうに声を掛けた。

「蓮さん。」

「またコートに、一緒に立ちたいです。」

蓮先輩は静かに頷く。

「ああ。」

その隣で小林も笑った。

「蓮さん。」

「ブロック練習、また付き合ってください。」

「次は負けません。」

蓮先輩は肩を軽く叩く。

「望むところだ。」

そして。

夕方の体育館。

神谷先輩が一人でサーブを打っていた。

蓮先輩が近付く。

「悪い。」

神谷先輩は振り返らない。

「何が。」

「待たせた。」

少しだけ間が空く。

神谷先輩は新しいボールを拾った。

「お前が戻る場所は。」

高くトスを上げる。

「最初から空けてある。」

乾いた音が体育館へ響いた。

最後に思い出したのは。

夜。

誰もいない体育館。

結衣が一人、アンテナを見上げながらノートを書いていた。

「何してる。」

結衣が振り返る。

「あ、蓮さん。」

「また書いてるのか。」

「はい。」

ノートを見せる。

アンテナの横に赤い線。

『五段目』

そのさらに上。

一本だけ線が引いてある。

「……ここ?」

「はい。」

「まだ誰も届いてないですよね。」

「だからです。」

蓮先輩が首を傾げる。

「届いてないから、消せないんです。」

「蓮さんなら、ここまで届くと思ってるので。」

結衣は何でもないことのように笑った。

「だから、そのままにしてあります。」

試合へ戻る。

歓声。

太鼓。

笛。

全部が一気に耳へ入ってくる。

蓮先輩はゆっくり顔を上げた。

(三枚。)

(だから何だ。)

(俺は、一人じゃない。)

(あの時間も。)

(このコートも。)

(みんなが繋いできた。)

神谷先輩と目が合う。

「蓮。」

「はい。」

「囮になれ。」

一瞬だけ。

蓮先輩は笑った。

「了解。」

次の一本。

神谷先輩のトスモーション。

相手ブロック三枚が、一斉に蓮先輩へ飛ぶ。

その瞬間。

バックトス。

「水谷さん!」

ドンッ!!

ノーブロック。

豪快に叩き込む。

十四対十五。

「よっしゃあ!!」

水谷先輩が拳を握る。

「ナイス!!」

守屋先輩が飛びつく。

次のラリー。

今度も三枚は蓮先輩。

神谷先輩は中央へ。

「杉山!」

速攻が決まる。

十五対十五。

さらに次。

相手は水谷先輩を警戒し始める。

ブロックが散る。

神谷先輩は迷わない。

「蓮!!」

高いトス。

助走。

跳躍。

今までで一番高い。

ドンッ!!

三枚のブロック、その真上。

誰も触れられない。

ボールはコートへ一直線に突き刺さった。

体育館が揺れる。

蓮先輩は拳を握った。

叫ばない。

派手なガッツポーズもしない。

ただ静かに仲間を見る。

水谷先輩が笑う。

「やっと帰ってきたな。」

蓮先輩も、小さく笑った。

「最初から、いましたよ。」

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