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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅲ
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 昼と夜を何度も迎え、次第に季節は移りゆく。

 時計の針が規則正しく動くように、悠仁の日常も回っていた。以前と変わらず大学とバイトと、時々サークル活動に精を出す日々。

 あれから世界の情勢は悪化することなく、辛うじて均衡を保っていた。おかげで、騒がれていた歴史の逆行説もいつしか消え去り、平穏無事な日々を平凡に送れている。

 気づけばインターンシップが始まり、本格的に就活の時期に突入した。避難場所から抜け出す覚悟を決めた悠仁は、友達らと一緒に社会へ出る準備を始めた。

 しかし、連続で選考で落とされ、面接まで通っても簡単には決まらず、前向きになった心は折れそうだった。周りが次々に内定が決まっていく中で、取り残される恐怖に襲われた。それでも、父親から託された「諦めるな」を思い出し、自分の居場所を懸命に探し続けた。


 悠仁は度々、図書館を訪れる。ある日から急に習慣となった。その理由は、天使や悪魔といった霊的存在に、興味を惹かれ始めたからだった。

 それまで微塵の興味もなかったのに何故だろうと、悠仁自身も不思議でならなかった。しかし、気になり始めてしまってからはどうにも好奇心が止まらず、取り敢えず一度その類の本を見てみようと手を出した。それからというもの、大学や街の図書館や本屋に行っては、天使・悪魔に関する書籍をよく読むようになった。

 中でも堕天使に関してを気にしていて、ルシファーについてはことさらよく読んでいる。『デーモンたちの指揮官』『地獄に君臨する悪魔の王』『傲慢から反乱を起こし、神の怒りに触れて堕天した』など、どれも似通った内容でルシファーについて記述してあるが、悠仁は飽きずに読んだ。違う本を見つけては読み、また別の本を見つけては目を通した。まるで、何かを求めるように。

 就活が始まってもそれはやめられず、心が折れかけている今日も、面接に行く前に図書館に立ち寄った。初めて来た区立図書館なので、まず案内図で目当ての分類の場所を探し、脇目も振らずに向かった。

「宗教」の陳列棚を見つけると、目的の本を探して右上から左に背表紙を流し見していく。まだ読んだことがないタイトルを見つけると迷うことなく手に取り、すぐさま閲覧席に移動してルシファーに関するページを開き、目を通した。

 その書籍に記されていたルシファーについての記述は、他のものと少し違った。これまで読んだものはどれもこれも“悪魔の王ルシファー”を記していたが、この著者は、書き出しはそれらと同じ内容を記しながらも、全く違う結論付けをしていた。悠仁はその文章を、一言一句漏らさず丁寧に読んだ。


「………」


 最後まで読むと、何故か胸の支えが取れたような、報われたような気持ちになった。

 何気なく、左手首に付けたリボンを編んだブレスレットに触れた。すると。


 ───諦めるな。


 父親ではない、別の誰かの声が蘇った。暗闇に輝くの星のように。温かく指し示してくれるように。

 誰だろうと思っても、記憶はこすれたように朧げだった。一瞬で流れ星になってしまい、またすぐに声を忘れてしまった。

 記憶に残らない声。それなのに、自然と笑みが浮かんだ。

 心に留めていた一言が、魔法の言葉となる。折れかけていた心も、不思議と元に戻った。これからどんな困難が目の前に立ち塞がろうとも、立ち向かえるような気がしてきたが、それは大げさかもしれないと思った。

 悠仁は図書館を出て、何度目かの面接へと向かった。

 大丈夫。俺の居場所はきっとある。

 自信を復活させ背筋を伸ばした姿は、訪れる未来を予言しているようだった。


 空は晴れ晴れとしていた。いつか見た、美しく気高い金色に似た太陽が、背中を優しく押してくれていた。






『熾天使ルシファーは、神に反乱を起こして堕天したのではない。既存の枠から逸し、“個”として存在する選択を罪だと恐れずに神から独立し、仲間の天使たちに分岐と可能性を教えた唯一無二の存在だ。寧ろ天使の誇りであり、下した英断を称えるべきなのだ。』






〈終わり〉




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