おまけ
バタバタと時が過ぎ、あっという間にギルド連絡所も開設して半年たった。
少しの不慣れが原因のトラブルは多少あるものの、まだ大きな問題は起こってない。力で訴えてくるような輩はゴードンさんが対応してくれるし、レミの選んだ娘さんも受け付け業務も頑張ってくれている。僕も遺跡を調査したり、魔法省に出す書類、冒険者ギルドに出す書類も何故か僕が処理している。解せぬ。
「 ゴードンさんも少しは動いてくださいよ。」
「 いやいや、こんな老いぼれが動くよりもしっかり者のおめえさんが動くのがこの世の道理ってもんじゃあねえの?」
そんなゴードンさんも食堂で暴れ出した冒険者同士の喧嘩を止めに入ったり、やるときはやる人なのはわかってはいるんだけれど、僕の前では少しいい加減などこにでもいる気のいいおじさんにしか見えない。
でも、本当は頼りにしてる。調子に乗りそうだから本人には言わないけどね。
「 あ、今日は早く上がれよ。レミちゃん最近体調悪いんだってな。レミちゃんも不安だろうし、早くおめえさんに話したいこともあんだろうよ。」
「 あ、ありがとうございます。」
へえ、珍しい事もあるもんだ。明日は空から魚が降ってくるかもしれない。
「 ふん、おめえさん、変なこと考えていやがるなあ。」
「 いや、そんなことないですよ。それじゃあ、僕上がります。書類はいつものところに置いておきましたから。それで頼まれていた・・・。」
「 ああ、もういいよ!俺の気が変わんねえうちに早く帰んな!」
「 あいよ。明日はゆっくりでいいからな。」
ゴードンさんの声を背中に聞きながら急ぎ足でギルドをでる。
レミのいるところまであともう少し。
*******
いつもの通りに扉を押して開ける。
「 おーい、来たぞー。」
「 あ、ゴードンさん。今日もいつもどおりだね。」
「 ああ、若ぇのが頑張ってるからじいさんは切り上げてきた。」
「 またそんなこと言って、呑みたいだけじゃあないの? 」
「 ああ、違ぇねえな。ディランさん、いつもの頼むよ。」
「 あいよ。でも、あんましケネス君に苦労掛けちゃいけねえよ。もうじきなんだろ? 」
「 ああ、その辺はわかってるよ。」
バタバタと忙しなく足音がしたと思ったら、食堂の扉が乱暴に開けられた。そこには汗だくで慌てているアルがいて、食堂内を見まわしゴードンを見つけると大声を出した。
「 あ、ゴードンさん、大変です! 」
「 お、産まれたか!! 」
「 はい、先ほど!母子ともに健康です! 」
「 それはよかった。さっそくお祝いだな。おい、ディランよ、精のつくものいくつか頼む。それもってさっそく見舞いにいってくらぁ。」
「 わかりました。急いで作りますね。あ、酒はダメですよ。」
「 わぁってるよ。流石に俺でもそんなことはしねえよ。おい、アル。ケネスには知らせたのかい? 」
「 はあ、それが、産気づいたとたんにどこからか現れてオロオロとしながらうろうろするもんだからレミに邪魔だと怒られて追い出されました。」
「 八ッ! ギルド長様もレミには勝てねえな。」
食堂の中はお祝いムード一色だ。あちらこちらから喜びにあふれた会話が聞こえてくる。村のみんなが新しい命の誕生を喜んでいるのを肌で感じる。
そんな食堂を見まわし、本当に良いところだ、とゴードンは思う。しばらくその光景を眺めていれば、腕の良い料理人のディランがいくつか包んだものを渡してくれた。
ゴードンはディランに作ってもらった料理をもらい、食堂を出て歩き出す。
新しくこの世に誕生した命と、それを守っていくであろう若夫婦にこの世の神に加護を願った。
これからどうなるかはわからないが、せめて自分の周りだけでも幸せでいられますように。
「 名前とかどうすんかね? あ、どっちが生まれたのか聞くの忘れた。」
足を戻そうかと一瞬考えるけれど、
「 ま、行けばわかるんだし、二人の子供ならどっちでもいいか。」
レミに似れば美人に育つだろうし、ケネスに似たら魔法の才能がありそうだ。どっちにしても自分は可愛がるだろう、と思う。
この年であきらめかけていた家族のようなものが出来て戸惑いもあるが、喜びの方が大きいとは思わなかった。
「 いや、人生ってもんは何が起こるか分かんねえな。」
そう呟きながら若夫婦の家へと足早に向かうゴードンだった。