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1-15 指導開始

15話です。


 金丸に追求され続けた昼から数時間後、豹牙は広大な仙石魔導院内の一角に立つ建物の裏に少しだけーーとは言え、何かをするには十分過ぎる程のスペースで聖と2人で居合わせていた。

 それまでに、豹牙の住んでいる寮に聖が迎えに来たのだが、そこからここまで来る間に女生徒達のもの凄い数の黄色い声が豹牙と聖に飛んで来ていた。


「さて……じゃあ修行の方を始めようか」

「……おう」

「……あれ? 何でそんな不貞腐れてるの?」


 口を尖らせて返事をする豹牙だが、その黄色い声が10-0で聖に対してだったのだから、不貞腐れたくもなる。

 勿論、自分が有名な筈がないし、黄色い声が飛んで来ない理由は頭では理解してるのだが、どうにも心が拗ねてしまう。


「……別に、これも全部あんたの所為だかんな」

「……?」


 全く理解してくれない聖。当然と言えば、当然なのだが、一欠片も……雀の涙程も理解してないのは余計に苛立ちを覚えてしまう。

 とは言え、こんな事で1カ月を切っている1年戦までの数少ない時間を割く訳にはいかない。


「もう良いから、指導の方を早くしてくれよ」

「もう……君が不貞腐れてるからなのに……」


 ぶつぶつと文句を言いながら、何かを準備し始める聖に対して、豹牙は知らぬふりをしながら、鼻をほじっている。

 因みに花粉症な豹牙としては、4月は花粉のピーク時な為にとても辛い。鼻水は止まらないし、目も痒い。おまけにくしゃみの後に鼻血が出る時もある。鼻の血管が弱いからだろうか……。それでも耳鼻科に行かないのは、鼻に変な棒を突っ込まれるのが嫌いだからだ。

 鼻をほじっている間に、聖の方も準備が出来た様で豹牙は鼻に突っ込んでいた指を抜くと、ふっと息を飛ばして、鼻糞を地面に落とす。


「じゃあまず質問をします……何故、君はこの前の戦いで渚に負けたでしょうか?」

「……は? そんなのあいつの方が強い魔法を使えたからだろ」


 当たり前の話だ。戦いの勝敗は、強いから勝ち、弱いから負ける。逆の事を言っている人が居るが、この世の中、勝負の結果は9割は前者だ。残りの1割が稀に起こる事で、感動を覚えて口にしたくなる。

 ある意味で、自信満々に答えた豹牙に「ぶっぶぅ」と指をクロスさせてバツを作った聖。

 ーー何だろう、もの凄くイラっと来る。


「それは違うよ豹牙君。相手の魔法が強いから、弱いから……って言うのもケースとしては十分にある。けど、君の場合は他の部分にある」

「他の部分って……何だよそれ?」

「ここで三択です!」


 聖が「じゃじゃん!」と問題の時に流れる音を自分の口で発した後に言葉を続けてくる。


「1! 君の攻撃が単調過ぎたから。2! 渚の強力な技の弱点を見抜けなかったから。3! 君の魔力に問題があったから……さぁ、どれでしょう?」


 「ごー、よーん、さーん」と時間制限を設けて、こちらも自分で口にするスタイルを取る聖。

 それにしても、どれだろうか。戦った本人としては1にしか感じないのだが……。3は、聖の良く分からない言葉シリーズだろう。と、なると2も怪しい。

 だが、あの場面で彼女(漣 渚)の技に弱点が存在したのだろうかーー。


「ーーぜーろ! はい! 解答者の豹牙君どうぞ!」

「……やっぱり1じゃねぇのか?」


 恐らく1と2で迷った豹牙の正解率は50%。良くテスト……特に日本史とかで、どっちでも合ってる様な2択の時に焦ってしまうあの感じで、聖に求められた解答に自信なさげに答える。


「ぶー! 正解は1と2と3でしたぁ!」

「……お前、三択って知ってるか?」


 論外。豹牙の負けた理由の多さに対してでは無く……それも論外と言えば論外なのだが、聖の三択という質問のシステムに対しての答えの多さが論外過ぎる。


「まぁまぁ……それくらいあるって事だよ!」

「開き直ってんじゃねぇよ!」


 悪びれる様子を全く見せない聖。どつき回したい気持ちに駆られるが、それでもここで時間を割く訳にはいかない。一言だけ突っ込んで終いにしておいた。


「じゃあ……とりあえず、順番に説明していくよ?」

「お、おぉ……」


 戯けた様子から一変して、真剣な口調で話し出す。こういう事が、所々で出て来るから妙にいつも驚いてしまう。

 聖はそんな豹牙を気にも留めずに、説明に入った。


「まずは、君の攻撃が単調だった事だが……これに関しては、君も既に分かってるだろうけど、風を腕に纏わせたパンチしかして無かったよね」

「……うっ」


 まさにその通り。出て来る壁を殴りつけて、壊していただけ。それを渚にも呆れられたのは、未だに根に持っている。


「勿論、あの攻撃が駄目だった訳じゃないよ? 乱回転を帯びた事で威力の上がったパンチとして使える。でも……それだけで勝てる相手()では無かったのは分かってるよね?」

「……うぐっ」


 これもまさにその通り。言い返す言葉も無い。


「ゲームで例えると、難易度高めの敵にパンチだけで挑んでいる様な物だよ。僕はゲームが弱いから、そうじゃ無くても基本は負けるけどね」

「お、おぉ……それは悔しいな」


 聖が1人でケラケラと笑っているが、いきなり自虐的なネタをぶっ込まれても対応に困る。とりあえずは無難に返しておくが、心の中では「こいつ、ゲームするんだ」とか思っていた。


「次に2つ目。渚が最後にした技の弱点だけど……豹牙君は何の事か分かってる?」

「多分……急に身体が動かなくなったやつの事だろ?」


 あれに関しては、もう2度と食らいたくない。

 息は出来ないし、身体は動かない。更には魔法まで使えなくなっていたーー。戦う前に聖に渡された生命石が無ければ、死んでいたかも知れない。


「その通り。でも今、冷静になって思い出してみて? あの技の弱点に気付けない?」

「……んん?」


 思わず首を傾げて考えるが、全く分からない。それに、急に食らったものだから、どのタイミングで技を発動させていたのかも分からない。


「最初から順に思い出してみてごらん?」

「えぇっと……俺が殴ろうとして、壁が出てきたんだよ。それを殴ってたらあいつ(漣 渚)が周りを冷たくし始めたその時に喋ってーー」

「はいストップ。そこだよそこ」


 指示された通りに、順に思い出した事を口で述べていく豹牙。その途中部分の所で聖が遮ると、とある一部部分を指摘する。


「え? 喋ったところが仕掛けだったのか?」

「いや……その1個前だよ……」


 ほぼほぼ答えが出てると言うのに、いとも容易く間違える豹牙に思わず苦笑してしまう。


「って事は……周りを冷たくしたところか?」

「そう……そこで渚は【凍える制裁】ブリザード・ジャッジメントを発動した。そこから君の身体に異変が起きるまでの時間は約1分」

「い、1分……」


 秒に置き換えると60秒。その間、ずっと豹牙はあの壁を殴り続けていたと言う事だ。我ながら単純過ぎる。目の前の物に捉われがちなのは昔から、隼牙にも指摘されて来たが、聞く耳を持たなかった事で、ここに来て痛い目を見てしまった。


「勿論、渚も馬鹿じゃない……(むし)ろ、戦い方がもの凄く上手いからね。まず先に、自分を守る物ーーあの鉄壁の壁を用意して、それに注意が向く様に誘導した筈だよ?」

「あ……」


  そこで渚の或る言葉が、豹牙の脳裏に引っかかった。


『……懲りたら? 貴方も壊れない壁を殴り続けて手を痛めたくないでしょ?』


 確かに……。技を発動した直後に、豹牙に対して言った言葉だ。その言葉に対抗する様に、壁を殴り続けてようやく壊したと思ったら、また挑発された。

 そこで、身体に異変が起きて戦いに敗れたーー。


「彼女は、本当に守りながら勝つというセオリー通りの戦い方をする。相手の心理を突くという、高度な戦い方を織り交ぜてね……」

「……」

「でも、彼女の技には発動する迄に1分という時間が掛かる。これもゲームで言う所の、最終奥義を何発も連続で打てないのと一緒さ」


 勝てないのに一丁前に例える聖が少しダサいが、間違った事は言ってない。それに彼女の技の弱点がそれだと自分が気づけていたなら、結果は一緒になっていたとしてもだーー。内容は変わっていたかも知れない。


「これに関しては、如何に早く彼女を倒すか。そしてその障害である、あの鉄壁の壁を崩せるか。それが肝ーーと言うか、全てだよ」

「中々、キツイと言えばキツイな……」


 あの鉄壁の壁を壊せたとは言え、それなりの時間が掛かった。仮に壊した後の彼女が魔法の使えぬ一般人なら問題は無いが、仮にも第三席(ギメル)だ。易々と1分では倒せない。


「でももう1つ、彼女はあの時に不自由を起こしていたんだよ?」

「えっ……?」


 そんな部分が有っただろうかーー。

 別にどこかに異常らしき異常は見受けられなかったと思うが。


「彼女……1()()も動かなかったでしょ?」

「あ、確かにそう言われたらそうだ……」


 彼女が両手を広げてから次に両手を広げた時に頃合いだとか何とか言っていた事から、その前後で技の発動を可能にしていたと考えるとーー。

 豹牙が氷の壁を壊して襲い掛かった際の新しい氷の壁の作成まで、彼女は殆どその場から動かずに居た。しかも、そこまでで10秒は掛かっている。

 となると、間違いなくその時には既に発動する事が出来たという事だ。


「そう言う所に初見で気付けたら凄いけど、それは流石に無理がある。だから、壁を容易く壊し、渚に攻撃を与えられる位の力が当然必要になってくる」

「確かにそうだけどよ……そんなの一体どうやってーー」


 眉の垂れる豹牙に向けて、人差し指だけを伸ばした右手で「ちっちっちっ」と、豹牙を舐めた様な態度を取る。

 またしても一瞬だけイラっと来たが、この男と付き合っていく以上はそこら辺は我慢しなくてはこの先をやっていけない。


「それが3個目に繋がるんだよ」

「俺の魔力に問題があった……だっけ?」


 「そうそう」と頷く聖が三択問題で出した3つ目の答え。

 これに関しては、豹牙は間違いなく自分では分かっていない。

 当然の如く、豹牙は自分の首を何回も傾げて、唸りを上げている。


「もの凄く簡単に言うと、君の身体が1度に使える魔力を制限してしまっているんだ」

「ど、どういう事だ?」

「君の魔力が50だとしよう。君の身体が規制をかけている間は1度の魔法で使える魔力は最大でも半分の25だけ。また残り25になれば次は半分の12しか使えない。」

「そ、それに問題があるのか?」


 質問する豹牙に聖は「大ありだよ」と言って、言葉を継げた。


「君の身体が規制をかける事によって強力な魔法が打てなくなる様になる。使う魔法が強ければ強い程、魔力を要するのは君も分かるだろう?」

「さ、流石にな……?」


 「本当に分かってる?」とジト目で豹牙を見つめてくるが、豹牙は故意に口笛を吹きながら、聖から目線を逸らす。

 つまり分かってなかったと言う事だーー。


「……続けるよ? 僕達、七英傑はそのリミッターを外す事によってさっき言ってた渚の様な強力な魔法を発動出来る様になっている。勿論、高い魔力を有するからこそ行えるが、危険性を伴うから一般生徒達には禁止しているけどね」


 当然と言えば当然だが、やはり七英傑のメンバー達はそこらの生徒と違って、有する魔力も高いのだと改めて思い知らされる。

 さっきまで不真面目だった豹牙が少し真面目に受け止めるのに打って変わって、次は真面目に話してた聖が能天気気分に「じゃじゃーん」と言いながら、ある物を豹牙に見せつける。


「何だそれ?」


 それは先程、聖が準備したままずっと横に置いていた機械ーー。


「これは測定した魔導士の魔力数値を表してくれる機械だよ」

「ほう……つまりそれで俺の魔力を測ろうって訳だな?」

「その通り! これで君が基準を超えたら、その指導に入ろうと思ってる」


 聖は機械を持ったまま豹牙に近づくと、豹牙の足元に測定機を置いて、そこから延びているコードの様な物を豹牙の腕に巻き付けた。その機械を見ると、画面に1から10までの数字が表示されている。


「因みにあんた等はこれでどれくらい出たんだ?」

「んー……そうだね。一般の魔導士で3とか4くらいで、僕達で8に届くくらいかな?」


 3とか4とか8とかの基準が分からないが、とりあえず適当に相槌を打っておく。


「因みに7以上出さないと駄目だからね?」

「お、おう……大丈夫だろ」


 思ったよりもハードルが高い。自信が無い訳では無いが、七英傑で8とか言われたら少しだけ弱腰にもなってしまう。

 勿論、魔力まで七英傑に負けるつもりは無いがーー。


「じゃあ……行くよ?」

「おう……」


 豹牙の返事の直後、聖は測定機本体に付いている赤いボタンを押した。すると、ピピピと音が鳴り始めて、豹牙の腕に巻き付けられたコードが腕を縛り上げ、血圧計の様な動きを見せる。

 その力が思ってるよりも痛くて、力を入れて踏ん張るが、それでも痛い。血圧計でもここまで痛くは無い。


 耐える事数秒。ピーーと少し長い音が測定終了の知らせを鳴らす。


「……あれ?」


 少しワクワクした様な顔で覗き込んだ聖の顔が、画面を確認すると疑いの様な目に変わった。


 「どうしたんだ?」


 豹牙も聖の変わり様に疑問を抱いて、一緒に画面を覗き込んだ。


「え……エラー?」


 2人の前に映し出される表示は、聖の言っていた数字を表す事は無く。「error』と英語で映し出されているだけだった。


「豹牙君……もう1回だね」

「おいおい……本気で言ってんのかよ!」


 少しの口論の結果。当然、豹牙の意見が勝る事は無く、測らないと指導しないと言う聖の一言にあえなく沈んだ。

 そして、再び聖が赤いボタンを押すと同時に、豹牙の腕をコードが縛り上げる。

 1度耐えた痛みを2回耐えると何故か2回目の方が痛むのは、気持ちの問題だろうか?

再び、ピーーとなる終了のお知らせが縛り上げる豹牙の腕を解くと、聖は画面へ顔を覗き込ませる。


「……あれっ?」


 ーー嫌な気しかしない。

 すると、聖が申し訳無さそうな顔でこちらを見てくると同時にーー。


「やらないぞ……! 俺はもうやらないからな!?」

「つ、次でラストだから! お願いだよ豹牙君!」


 再び口論に発展ーー。

 当然、豹牙が勝つ事は無い。

 仏の顔も三度までとは良く言ったものだ。次、失敗でもしたら豹牙の頭からは火が噴き出るなんてものでは済まされないだろう。


(マジで次失敗したら、本気でぶん殴ってやる……!)


 少しだけ殴りたい気持ちが失敗を望んでしまっているが、それでも痛みに耐えているのに3回も失敗はして欲しくない。

 複雑な気持ちを抱えながら、豹牙は3回目の激痛に耐えたーー。


 ピーーとなる音が再三鳴り響く。

 腕を締め上げていたコードが、3回目には豹牙の腕を引き千切った様にも感じた。見るのも恐ろしい……凶器だ。


「やっぱりだ……」


 3回目の覗き込みで聖は何かに気付いた。

 豹牙も画面を覗き込むと、当然の如く『error』の文字が浮き出ているだけ。

 気が遠くなる前に、聖だけは殴らなくてはーー。


「てめぇ……! この野郎!」

「ま、ま、ま、待って!? これはエラーだけど、エラーじゃ無いよ!」


 作った拳が聖に向かって飛ぶ寸前の所で、その言葉に動きを止める。


「……どう言う事だ?」

「魔道士でどれだけ魔力の少ない人でも最低でも1は表示される。でも豹牙君の場合は、測り始めてから一瞬で10を通り越してエラーの表記が出てるんだよ! これはつまりーー」


 聖は抜かしていた腰に力を入れて、立ち上がると興奮気味に言葉を続けたーー。


「君はこの測定機では測りきれない位の魔力を有しているって事だよ!」


今回も読了頂きありがとうございます!6000字と少し長くなり、読みにくいかもですが。


さて、豹牙の魔力が馬鹿げていた事実。


ここから、聖はどんな指導を始めるのか!


次回の更新は12/18(月)の22時頃更新予定です!


次回も是非読んで下さいね!

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